見知った顔たち
メラさんの姿をした、しかしその中身はまったくの別人。
なんらかの『スキル』でメラさんの姿をしているのだと思うが……その中身は、わからない。
「答えろ、お前は何者だ!」
俺は、メラさんの姿をしたそいつを押し倒し、動きを封じている。
なにか妙な動きを見せようものなら、即座に対応できるように……気を、集中させる。
「くっひひ……さすがは、勇者様。私程度じゃ相手になりませんか」
「あぁ? ……おっ?」
女の表情は、うかがい知れない。だが、直後に異変が起こる。
俺がまたがり、腰を落としている女の腹部……それが突然、膨れ始めたのだ。まるで風船のように。
異変を感じ取った俺は、すぐにその場から飛び退く。その、直後だ。
ドォン……!
一瞬、チカッと光ったかと思えば……膨れた腹は恐ろしいまでの大きさにまで至り、音を立てて弾け飛んだ。
それはまるで……いや、まるでなんてものじゃない。風船なんて、かわいらしい表現だ。
これは……爆弾だ。
「ぐっ……」
腹が膨れ始めてすぐに飛び退いた……が、それでも完全に回避したとはいかなかったようだ。爆風に襲われ、後ろへと吹っ飛ぶ。
そして、壁に激突してしまう。鍛えている体でも、無防備な背中を受け身も取らずに、打ち付けてしまっては……
「うぐ……くそっ」
じんじんと痛む背中。しかしずっとうずくまっているわけにもいかない。朝で人通りがないとはいえ、ここは街中だ。
今の爆音に気付いた人々が、集まって来る前にここから、去らなければ。
「あいつは……え?」
爆発した、女……正体はわからないが、放置しておくわけにもいかない。そう思い、女がいた場所を見るが……
そこには、なにもなかった。爆発して、体ごと全部弾け飛んだ……? いや、だからってなにもない、なんてことあるか?
それに、なんであいつは、メラさんの顔を……
「おいなんだ、こっちからすげー音がしたぞ!」
「爆発か!?」
……人が、集まってきたな。
俺はただでさえ、指名手配されている身。この国にいることを、知られてはならない。
俺は人の来ない方向へと走り出し、建物の影に身を隠しながら、移動する。
「とにかく、城に……ディアや、リリー、メラさんは……」
目指すは、城……ディアたちの、いるところだ。
なにかが、起きている。俺にできるのは、彼女たちの身の安全を守ることだけだ。
特に、メラさん。さっきの女、メラさんとそっくりだった……彼女の身になにがなかったか、心配だ。
「なにもないといいが……っと!?」
瞬間、かすかな殺気。俺は横に飛び、今いた場所から回避……
次の瞬間には、今まで立っていた場所に、ナイフが刺さっていた。
「投げナイフ……?」
それを見て、俺が思い浮かべるのは、一人の男だ。投げナイフを得意な武器とした、男。
これは……まさか、あいつの仕業か?
「まさか、ゲルド……」
「くすくすくす」
ナイフが飛んできた方向に目を向けると、そこにいたのは……建物の影から出てきた、メラさんの姿。
いや……メラさんの姿をした、何者か、だ。
「なんで……さっき、爆発で死んだんじゃ……」
「くすくす」
「くすくすくす……」
聞こえる、耳障りな笑い声。囲まれている。
視線だけを、動かす。次々と姿を現す何者かたち……その姿に、俺は動揺したが、少し予想もしていた。
俺を、囲うように現れたのは……
「ディア……リリー……」
俺の知った顔、それらと同じ顔をした女。しかも、ひとりではない。
何人も、同じ顔をした女が、現れる。同じ顔が何人も現れるなんて、ホラーじみている。
何度か、何人ものディアに囲まれてみたいなんて考えたことがあったが、あの頃の自分を殴り飛ばしてやりたい気分だ。
「さっきのは、複数いるうちの一人だった、ってことか」
さっき自ら爆発した女。そして今現れた、同じ顔の女。生きていたわけじゃなく、元から複数いたってことか。
ディア、リリー、メラさん……同じ顔、姿をした女。三パターンの顔が、何人もいて、俺を囲っている。
こんな状況じゃなければ、美女に囲まれていい気分、とでも言いたかったが……
「なんだ、お前ら」
「……」
さっきの、爆発した女と無関係であるはずがない。
そして、もう一つわかったことがある……こうも、同じ顔が複数現れるなんて。変装では、おそらくあり得ない。
誰かが女に化けているのではなく、誰かが女たちを生み出している……それが、この状況を引き起こした奴の、正体ってわけだ。
「それにしても……」
一定の距離を保ったまま、俺を囲っている女たち。その顔は、俺の知る顔だ。しかも、直近会ったばかりの。
なんで、わざわざ知り合いの……それも、会ったばかりの顔を。なんだかやりにくいな。
それに、ディア、リリー、メラさんの三人の顔を、たまたま、というのも考えにくい。これをやった奴は、俺が三人と昨日会っていたことを、知っていた……?
「ま、考えても仕方ないか」
今はとにかく、目の前のことに集中だ。
知った顔でやりにくいが、所詮は偽物だ。俺の邪魔をするなら、容赦はしない……!
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