一刻も早く
「……ゲルド。それ、本気で言っているのか?」
「さあ、どうだかな」
リリーに危害を加えた人物……その可能性に、ゲルドが自身の名を挙げた。
もちろん、あらゆる可能性を考えるべきだ。ゲルドであれば、城への出入りも自由だろう。それに、ゲルドの実力なら誰に気付かれることもなく、リリーの部屋に侵入することも。
だが……
「できれば俺は、仲間は疑いたくない」
「……」
かつて、共に旅をした。リリーとゲルドは、仲が良かったわけではない。むしろ、リリーがゲルドを苦手にしていた節がある。
それでも……二人の仲は、悪くはなかった。
「ぷ、あははは! 仲間、仲間ねぇ……お前、まだ俺のことを仲間って呼んでくれるのか」
「……」
「忘れたわけじゃねえだろ。俺が、お前を殺そうとしたこと……そして、その気持ちは今も変わってないんだぜ」
「! ロア様!」
ゲルドは、懐から短剣を取り出す。こんな朝早くでも、武器を忍ばせていたのか……
危険を察知してか、メラさんが俺を庇うように、前に出る。
「ははっ、世話係ごときが、俺に立ち向かおうってのか?」
「っ……」
「大丈夫ですよ、メラさん」
「……ロア様」
今のゲルドは……俺たちを挑発するようなことは言いながらも、戦意がない。感じられない。
俺にも戦う意志がないことがわかったのか、ゲルドは手の中で短剣を回しながら、口を開く。
「ま、今の話は冗談だ」
「じょ……」
「おーおー、そんなこえぇ顔するなよ世話係。久しぶりに会った"仲間"への軽いジョークだ」
ジョークにしては、なんとも悪ふざけが過ぎるものだが……ゲルドに、リリーを害する理由がない。
「じゃあ、ザラドーラ国王だったりするのか?」
「ロア様……!?」
「はは、自分を殺す指示を出した相手をまだ王と呼ぶのか。……さあな……だがあのおっさんも、身内に手をかけることはしねえと思うがな」
やっぱり、ザラドーラ国王は今回の件に関わっていない……か?
なにはともあれ、やっぱり城に行かないと話にならないな。ゲルドは例外的にリリーが刺されたことを知っていただけで、この件は公にはされていない。
情報を得る手段も、本人に会う以外にはないわけだしな。
「ゲルド、俺たちは……」
「わぁってるさ……行けよ」
「!」
てっきり、構わずに俺を殺しにくるものだと思っていたが……そうではない、のか?
ゲルド自身忘れているとはいえ、ラーダ村で再会したときには俺をすぐさま殺しに来た。そんな男が、今は俺を行かせようとしている。
罠か……それとも……
「んな警戒すんなよ、背中を見せたところをブスリ、なんて考えちゃいねえからよ」
「……」
「俺も気になってんのさ、今回の一件。さっきはああ言ったが、あのおっさんが潔白とは言い難いからな」
ゲルドもかつての仲間である、リリーのことを気にしている……だから、リリーのために帰ってきた俺を止めるつもりはない、ということか。
その言葉に、嘘はないように思う。
「だからそう睨むなっての、シャリーディア。いい女が台無しだぜ?」
「……」
ディアは一度、目の前で俺が殺されるのを見ているはずだ。その後、時間をも巻き戻すことで俺の命を救ってくれた。
そんなディアがゲルドに対して、いい感情を持っているはずもない。
「行こう。あんまりもたもたしてたら、人も増える」
「……そうね」
どうあれ、ゲルドが見逃してくれるというのならありがたい。俺には、ゲルドと戦う時間もない。
一刻も早くリリーの所へ。戦意のないゲルドは、自ら背中を向けて、去っていく。
「……なんだったのでしょう」
「さあ、どうでもいいわ」
俺たちは、城へと向かう。ゲルドとは反対方向に、走るようにして。
ゲルドが本当にリリーのことを想ってくれているのかも、判断はつかないが……今はとにかく、余計なことは考えないことだ。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
もし面白い、続きが見たいと感じてもらえたなら、下の評価やブックマークを貰えるとテンション上がります!




