そして夜になる
リーズレッテと別れた俺たちは、その後も村の中を散歩して、時間を潰した。一日目の夜、二人でお互いのことを語り合ったとはいえ、こうして話していると、まだまだ話せることはあるものだ。
村の中を歩き、時折村人に話しかけられ、何気ない会話をして、目についたお店に入ったり、食べ物を食べたり。
考えてみればこんなにのんびりした時間は、久しぶりな気がする。
「はぁー、なんかこんなにのんびりしてていいのかしら」
それはディアも、どうやら同じらしい。
大神官であるディアは、こうしてのんびりと遊ぶ時間さえも、なかったのだろう。遊ぶ……というか、ただ散歩しているだけではあるが。
それでも、かけがえのない時間であることには、変わりない。
「……あの鎧は、もういいのか?」
今さらではあるが、ディアはこの村に来た際に着ていた、黒い鎧を着ていない。顔も、モロ出しだ。
おかげで、さっきから必要以上に注目されている。
「いいの、そもそもロアに会いに来る道中、余計なトラブルを避けたかったからだし」
「……そうだなぁ」
確かに、あの黒い鎧で全身を固めていれば、まともな感性をした人間なら軽々しく声をかけはしない。中身が美女だと知っていれば別だが、黒鎧だとまず男だと思う。
そんな相手にナンパする奴など、いないというわけだ。
「けど、近くにはメラさんもいるだろう」
「……」
「なんだよ」
いくら不審な黒鎧とはいえ、その近くにはメラさんがいる。メラさんだって、そりゃ美女の部類に入る。
メラさん狙いに話しかけてくる輩はいるんじゃないだろうか。ただそれだけの意味だから、そんなジト目を向けるのは止めてもらいたい。
「……あのね、ロア。よく考えてみて」
「なにを」
「そりゃロアから見れば、私の護衛をメラさんがやってくれている。でも、なにも知らない人から見たら?」
「それは……あぁ、そういうことか」
そこまで言われて、俺は気づく。実際にメラさんはディアの護衛として来ているわけだが……なにも知らない人から見たら、黒鎧の男がメラさんの護衛をやっている、というように見える。
だから、メラさんにも声をかけてくる奴はいないってわけか。
「私だって四六時中彼女と一緒にいるわけじゃないけど……あの人、かなり強いよ?」
「へぇ……」
ディアの警護、という時点で限られた人間になるのはわかっていたが……どうやらメラさんは、実力も折り紙付きのようだな。
危険な二人旅だ、予想はしていたが……勇者パーティーとして共に戦ったディアが「かなり強い」なんて言うのだから、間違いない。
「いろいろ考えてたんだなぁ」
「それもこれも、ロアに会うためだから!」
っ……こいつは、恥ずかしげもなく、またこんなことを……
「本当は、一人でも来るつもりではあったの。でも、ロアの居場所を教えてくれたメラさんとリリーちゃんには、言っておかないとと思ってね」
「そっか……」
大神官であるディアは戦闘向きではない……と思われがちだ。実際にその『スキル』は【癒やしの力】だしな。だが、ディアには攻撃手段もある……『精霊術師』だからな。
俺には精霊がどうのとかわからないが、もしかしたら俺たちの中で一番攻撃力が高いのもディアだったかもしれない。
そんなディアでも、一人で行かせられないというのがリリーの考えだった。
「ふふ、帰ったらリリーちゃんに、お土産話をいっぱいしてあげないと!」
「……それ、大丈夫か? うらやましがって私も行きたいって駄々こねたらどうする」
「リリーちゃんはそんな子じゃないと思うけど……それも、そうね。ちょっと考えないと」
あまりリリーの行きたい欲を刺激しないように。それでいてリリーの欲を多少は満たせるように話す。なかなか難しそうだ。
ま、そこはディアの話し方次第だ。
「……そろそろ、戻るか」
「ん、そうだね」
気づけば、空も暗くなり始めていた。結構な時間、歩き回っていたもんだ。
夜には、リーズレッテによる踊りも披露される。ディアとの最後の夜、いい思い出をたくさん残したいもんだ。




