これから住む場所は
さて、仲間たちとの顔合わせも終わり、他に質問もないため解散することとなった。
王族であるリリーはともかく、俺たちは希望すれば城の中に部屋を用意してくれるという。そうでなくても、住むところは用意して取り計らってくれている。
とはいえ、ほとんどは王都住まいであるため、わざわざ新しく用意してもらわなくても、それぞれ住むところはある。
「で、ロアはどうすんだ? なんなら、俺ん家に泊めてやろうか?」
王の間から出て、廊下を歩いている中で、ゲルドが話しかけてくれる。
彼も元は平民出身だからか、やたらと俺に親切だった。それは、前世の俺は嬉しかったものだ。なんせ、いきなり王都なんかに来て、一人で不安だったのだから。
……こうして、気にかけて、話しかけて……そんないい奴が、俺の命を奪ったのだと、今でも信じられない。
「ゲルド、お前は一人暮らしだろう。ロアくんが住むスペースはあるのか」
「問題ねえよ。女と寝ることも考えて、大きめの家を用意してもらったからな」
「……聞いた私がばかだった」
ゲルドは、噂によると度々女性を家に連れ込んで……一夜を明かすことも、少なくはないらしい。
だから、たとえ俺という同居人が一人増えても、問題はないだろう。
だが……
「あはは、ありがたいですが、それは悪いですので……」
前世で俺は、後悔した。ゲルドの噂を知らないまま、誘われるままに彼の家にお世話になったのだ。
その結果が、ほぼ毎日の寝不足。理由は……わざわざ思い出したくもないが、ゲルドが日々女性を連れ込んでくるからだ。
それはもう、すごかった。そんな経験もない俺にとっては、耳に毒で……目の前で見せられているわけでもないのに、薄い壁の向こうでなにが起きているのか想像してしまうのだ。
おかげで寝不足となり、数日後には家を出た。ゲルドに相談はしたが、むしろお前も経験してみろとか混ざれとか言われて……
あんな思いは、もうごめんだ。
「そうか? ま、困ったことがあればなんでも言えや。なんならいい女紹介してやるぜ?」
「あはは……」
そのくせ、そこに悪意が一切ないのが質が悪い。
「おい、あまり困らせるなゲルド」
「あぁ? 手っ取り早く仲を深めるには、女の話が一番なんだよ」
ゲルドとドーマスさんは、あまり仲が良いとは言えない。軟派なゲルドと硬派なドーマスさん、相容れない部分は多々ある。
だが、それが今後のパーティー内に影響するかといえば、そうではない。戦闘になれば二人共真面目だし、なんなら息の合ったコンビネーションも見せる。
要は、軽口をたたき合える仲……と、いうことなんだろう。
「えぇと、ドーマスさんは、奥さんや娘さんとご一緒に?」
「ん? あぁ、そうだが……家族がいると、話したか?」
「! あ、あー……いや、ドーマスさんかっこいいし、奥さんいるのカナって」
「娘とも言ったが?」
「な、なんとなく、ですカネー?」
し、しまった……そうだ、ドーマスさんに家族がいると知ったのは、もっと仲良くなってからだ。初日からやたら親身に話しかけてくれたのは、ゲルドとシャリーディアくらいだ。
ドーマスさんも親切ではあったが、プライベートを話すまでではない。き、気をつけないと……ふ、不審がられてしまっている。
「私は、教会に住まわせてもらっていますよ。というか、神官は、教会に暮らすことが義務づけられていますから」
「そ、そうなんだ!」
ここで、シャリーディアの助け舟。意図したわけではないだろうが、ナイスだ! 話を誤魔化せた!
シャリーディアは、こうして気の利くところがある。仲間内で不穏な空気が流れつつあった時も、それとなく空気を和らげてくれたな。
「ミランシェさんは、どこにお住まいで?」
「……宿に、泊まってるわ」
ミランシェは、冒険者だ……だからというわけではないが、冒険者は宿に住まうことが多い。安定した収入を得られるわけではないから、なるべく節約したいのだとか。
「ほぉ、なら俺ん家に来るか? 家賃はタダでもいいぜ?」
「遠慮するわ」
軽口を叩くゲルドをミランシェが冷えた瞳で見つめていた。
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