六人目の少女
「あん? 誰だよそのガキぁ」
現れた国王、そしてその足元にくっついている女の子。国王の腰くらいの背だ、小さい。
国王は、女の子の背中をポンと叩く。すると、勇気を出したように女の子が、前に出た。
「……よ、よろしく、です。リリー・リリエット、です十二歳です……」
たどたどしくも、自己紹介をして頭を下げる女の子、リリー。その異様ともいえる存在の出現に、みな唖然としている。
それはそうだろう。国王を待っていたら、国王とは別にもう一人、小さな子供が現れたのだから。
「お、おいおい、自己紹介されてもなぁ。てか、本当にガキじゃねぇか」
「これは、どういう……?」
前世の俺もそうであったように、みんな困惑している。無理もないな。でも、彼女がここにいることには、意味がある。
そう、ガキ……リリーは、まだ成人していない。『スキル』も持っていない女の子だ。そんな子が、ここにいる理由は……
「紹介しよう、わしの孫娘リリーじゃ」
「……はい?」
突然の宣言、ぽかんとしたままのみんなだったが、誰ともなく声を漏らした。間の抜けた、声だった。
国王の孫娘……つまりは王族だ。そんな人物を紹介されても、という気持ちなのだろう。
それに……
「でも、その子はリリエットと名乗りましたよね? 国王のお孫さんなら、その名もファルマーでは?」
と、シャリーディアが聞く。こういうときでも、気丈に振る舞うことができるのは彼女の強みだ。
「リリエットは、わしの妻の前の姓じゃ。国王の孫娘とバレては、いらぬ危険に晒しかねぬのでは」
「そ、そうですか」
「それよか国王サマよ。そろそろ、そのガキを連れてきた理由を教えてほしいんだがな」
「お前、国王様に向かって……」
「はは、構わん構わん」
焦れったく感じたのか、ゲルドが迫る。ゲルド、国王相手でも容赦ないな……それを受け、国王は寛大にも大きく口を開けて笑うばかり。
気のいい国王さんなのだ。ただ、俺はこの人の未来を知っている……
「リリーがここにいる理由は、もちろんそなたたちの旅に同行させるからじゃ」
「……はぁ?」
「し、しかし国王、その子は……」
「うむ、まだ『スキル』も授かっておらん」
「では……」
『スキル』の授かっていない女の子を、同行させる。それは正気の沙汰ではない。前世の俺も、大変驚いたものだ。
今回が初めてである他のみんなは、一様に驚きを隠せずにいる。国王の狙いがなんであるのか、まったくわからないからだ。
「おぉ、誤解させてしまっておるようじゃな。そなたらが魔王を討伐しに旅立つのは、なにも今すぐにではない」
「……と、いうと?」
「今より三年後……つまり、リリーが成人し、『スキル』を授かるのを待ち、旅に出てもらう」
「? そのガキに?」
国王の狙い、それはいずれ発現するリリーの『スキル』にある。リリーが成人となり、『スキル』を授かる三年後……彼女の成人を待ち、ここを発つことになる。
俺にはわかるが、リリーの『スキル』は今後必要になる。それを国王もわかっているからこそ、こう言っているのだ。
「そのガキのために三年も待てってのか?」
「元々、そなたらには魔族と戦ってもらうための準備期間を設けるつもりじゃった。それに、魔王が復活するのもちょうど、三年後なのだ」
「まだ復活してないんですね」
そう、魔王はまだ復活はしていない。曰く、三年後に復活すると確かな情報を得たのだという。
その確かな情報、というのが、リリーの『スキル』にも関わってくることで……
「そもそもよ。『スキル』はまだ授かっていないのに、なんでそれが必要だってわかるんだよ」
誰もが浮かべる疑問が、ゲルドの質問と同じだ。
『スキル』は、授かるその時までどんなものが発現するか本人にもわからない。それを事前に、知る方法など……
「わかる……それが、わしの『スキル』だからだ」
「国王様の?」
「うむ……わしの『スキル』は、【未来視】。未来、起こることが映像となって頭の中に浮かぶというものじゃ」
ここで明らかになる、国王の『スキル』……これも、当時の俺は聞いたことのないものだった。俺だけではない、他のメンバーもだ。
「【未来視】とは、王族の男にのみ授けられる『スキル』だと言われている」
「なるほど……それで、お孫さんに必要な『スキル』が授けられる未来を、視たと」
「あぁ。ちなみに男なら【未来視】、女なら【神託】と名前は変わる」
「名前はって……なんか、違いあんのか?」
「さあ。結果的には同じことだ」
国王が視た、リリーの授かる『スキル』……それは、俺たちが旅をするのに、必要不可欠なものだ。
その『スキル』の名は、【絶対防御】。彼女の作る障壁は、何者をも拒む無敵の壁となる。これは、後方支援のミランシェや、回復要因のシャリーディアを守るのに主に使われたものだ。
これが非常に硬く、【勇者】である俺の攻撃でも壊れないし、ゲルドの【鑑定眼】でも急所を見つけられないほど。
魔族との戦いにおいて、これほど心強いものはない。
「彼女が成人する三年後。魔王討伐に向かってもらうそなたらには、その時間の間、旅に向けて備えてもらいたい。そして、我が孫娘と共に……」
「……私は、反対ですな」
国王が話をまとめようとしたところで、手を上げる者がいた。はっきりと、自分の意見を……国王への、反対意見を告げる。
そう告げるのは、ドーマスさんだ。
「こんな、小さな少女を戦場に……私は、反対です」
リリーを連れて行くことに、反対のドーマスさん。後で聞いた話によると……後と言ってもこれは前世での出来事だが……ドーマスさんには、今のリリーと同じくらいの娘がいるようだ。
きっと、自分の娘とリリーとを重ねてしまったのだろう。
その気持ちは、わからなくもない。その言葉に、国王が口を開き言葉を返す……より先に、声を上げる者がいた。
「おいおいおっさん、聞いてたか話をよ。なにも今すぐ行こうってんじゃねぇ、そのガキが成人してからの話だ」
「しかし……」
「だったらおめぇ、そこの平民勇者や、大神官様だって成人したばかりだぜ? そのガキにだけ贔屓するのは、感心しねぇな」
ゲルドだ。彼にどんな真意があるのかは、わからないが……彼の性格から察するに、決まったことをまた掘り返すような真似が嫌いなのだろう。いや、面倒なだけかもしれないが。
それでも、ゲルドの言葉は的確だ。ドーマスさんの気持ちはわからなくもないが、三年経てば今の俺と同じ年齢……それを思えば、子供だからと反対するのは、乱暴にも思えた。
「む……それも、そうだな」
ドーマスさんも、納得したようだ。そして、国王に向き直る。
「国王よ、先ほどの無礼、謝罪したく。考えてみれば、肉親を危険な旅に出す苦渋の決断をなさったはず……私などが、口を出すべきではありませんでした」
「あぁ、いや、いいんじゃよ。頭を上げてくれ」
ゲルドを見ているからか、ドーマスさんは必要以上に丁寧に見える。国王も、困ったように笑っている。
なんにせよ、これで六人……三年後、魔王討伐の旅に、出るメンバーが揃った。
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