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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死刑廃止後リベンジ法執行第一号の案件

作者: 武正幸

「土曜日だっていうのに、学校なのか。」


「部活だからね。大会も近いし、がんばらなくちゃ。」


「あんまり無理するなよ。」


「分かった。昼頃には帰るから。パパ、先にご飯食べないでね。」


「分かったよ。気を付けてな。」


「うん、行ってきます。」



 10年前に、妻を亡くし、ひとり娘を男手一つで育ててきたが、もう高校2年生か。振り返ってみれば、あっという間だったな。娘が生まれる前は、自分の命より大切なものが、この世に在ることなんて思ってもみなかった。娘の存在は全てを変えた。愛おしく、かけがえのない、自分にとって、まさに天使のような存在だ。娘のいない未来なんて想像できない。それほど私にとって大きな存在となっている。妻が亡くなっても、今日まで頑張ってこられたのは、娘のお陰だと思っている。


 午前11時ごろ、表の通りをパトカーや救急車が、サイレンを鳴らしながら何台も通過していった。何か嫌な予感がした。


 午後12時、携帯が鳴った。娘が怪我をしたという事で、駅前の病院まで来るように言われた。


 午後12時30分、病院到着。部活顧問の田代先生から、娘が亡くなったと聞かされた。学校に侵入してきた男が、ハンマーを振り回し、娘はそのハンマーの餌食となった。


 午後12時40分、娘の亡骸と対面。


 顧問の田代先生は、後輩をかばって娘は被害にあってしまった事を聞いた。最後まで、後輩思いの優しい生徒でしたと、涙を流してくれた。


 犯人は現行犯で捕まったらしいが、死刑にはならない。数年前に死刑が撤廃となった。そして死刑に代わる新たな法案が施行される。


 ≪リベンジ法≫・・・最新の医療により、人間の脳の記憶をあらかじめ用意した記憶に書き換えることが、可能だという。死刑の替わりに自分が犯した罪を自分が受ける仕組みだ。殺人を犯した人は、殺される記憶を植え付けられるのだろう。私は娘を殺した男をリベンジ法で裁いてやる。お前がリベンジ法執行第一号となるのだ。



 ここは、警察が管理する総合病院内の特別病棟にある特別室。ベッドに横たわる50歳代の男性。頭部には特殊な装置が取り付けられ、大きなモニターには、この男が見ている映像が映し出され、医療関係者、警察関係者等が見守っている。

 日本では、5年前に死刑が撤廃され、新たにリベンジ法が制定された。このベッドに横たわる男が、リベンジ法執行第一号である。

 

 リベンジ法は、殺人事件の場合、その被害者の記憶を植え付けられるわけではない。今回の場合、娘が殺害された父親の記憶を犯人に植え付けた。一人娘を奪われた父親の心情は、本人にしか分からない。悲しみ、怒り、絶望、様々な感情をこの男に植え付けることになるだろう。

 

 この後、犯人の男に、彼の元の記憶を脳に戻すことになる。少女を殺した殺人鬼の記憶と、娘を殺された被害者の記憶を心に宿したまま、一生生きていかなければならない。これが、リベンジ法の恐ろしさである。






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