第5話
あの時はまだ小学校に上がりたての頃だった。
そして、自分の中に居る存在と喋るのがおかしい事だと思っていなかったから、普通に喋っていた。
すると、ある日「誰と喋ってるの?」と聞かれた。その時は誰と言われても答えようが無く黙ってしまった。
そこから周りはアタシに聞こえないようにこそこそと話をするようになり、そこからイジメに発展してしまった。
そして暫く嫌な日が続いた。物が無くなったり、靴がごみ箱に捨てらてたり、靴箱にごみが入れられたりした。
犯人も分からないし、どうしたらいいのか分からず、途方に暮れていた。
そんな時にアタシの中から声をかけてきた。犯人を見た、と。
だからその犯人にどうしてこんな事をしたのかと問い詰めた。
だが、返ってきたのは答えではなかった。
「私がやったって証拠でもあるの? 証拠もないのにそんな事言わないでよ」
「だって、見たって言ってたもん」
「誰がよ。見てた人が居るっていうんならその人を連れて来てよ」
そう言われても、自分の中に居る人なんて連れて行きようが無かった。
「でも、言ってたんだもん」
「知らないし、変な言いがかり付けないでよ」
そう言われてから次の日にはもっとイジメがエスカレートしていった。
他にも誰かが先生にアタシの事、変だといった人もいたようで結局家に連絡がいった。
その所為でイジメも露になったし、その原因として考えられたのが、アタシが精神疾患を持っているという事だった。
それからアタシは精神内科に掛かる事になった。
結果、何か大層な病名を付けられたが、治療というよりカウンセリングばかりだった。
アタシの中にもう一人居ると言っても誰も信じやしなかったし、医者は精神が分離してとかどうこう言っていた。
誰もアタシの言う事は信じてはくれなかったから、アタシはそれからアタシの中の存在に関しては何も言わなくなった。
ただ黙って過ごした。そして、人は遠ざけるようにした。
その結果、変わった人というふうに言われるようになった。
それでも、これ以上家族に迷惑を掛けるわけにもいかないから大人しく過ごそうと決めたのだった。
なのに、なんでアタシに関わろうとする人が出てくるんだろう……。
そういうのが慣れてないせいか、余計に気持ちが重くなる。
でも、きっと周良君もアタシの中の存在なんて話したら気持ち悪がるか変に思うんだろうなぁ。
その考えを少し振り払おうと頭を振った。
「大丈夫。大丈夫だから……」
何に対しての大丈夫なのかも分からないけど、兎に角そう言わないと何か不安のようなものに押しつぶされそうで怖かった。




