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第3話

 授業をいつも通り受け、放課後になった。

 いつもは家に帰るのが嫌で放課後は家には直ぐ帰らず、学校で時間を潰してる。

 決して、昨日みたいに自分の中の存在に話しかけているわけではない。

 そして、今日もいつも通りに教室に残って時間を潰していた。断じて、武井君を待っていたわけじゃない。

 だが、傍から見たら待ってるように見えるだろう。それが嫌で大きく溜め息を吐いた瞬間、武井君が入ってきた。

 他に教室に残っていた人たちは全員そそくさと教室を出ていった。

「緑、待っててくれたんだ」

 まるで、恋人に言うような感じで言ってきた。

「違うし。いつも教室に残るからそれで居ただけだし」

「ふーん。まあ、いいや。取り敢えず、緑と二人きりになれたし。

 他の奴が俺に付いて来ようとしたから置いて来んのに時間かかってさ、本当はもうちょっと早くに来ようと思ったんだぜ?」

 そう言いながらアタシの前の席に座ってこっちを向いている武井君にアタシは「あっそ」と言った。

「マジなんだけど~。緑に聞きたい事あったし」

「聞きたい事?」

 ん、と言ってにっこりと微笑む武井君に何となく嫌な感じがした。

「昨日さ、放課後になんか一人で喋ってたの見たけど、何で?」

 見られてるとは思わなかったからどう言うべきかと悩んだけど、それ以上にイライラしていてそれが声に出た。

「武井君だってどうせ、それ見てからアタシの事、変だって思ってたんでしょ」

「周良って呼べって言ったじゃん。つーか、別にそんな風に思ってねえし」

 アタシがどうだかって言うと流石に機嫌を悪くしたようだった。

「緑はどんな奴に対してもそう思うわけ? 俺は別にそう思ってないし」

「そう言われて簡単に信じるような人間じゃないのよ、アタシは」

「じゃあ、どうすれば信じるわけ?」

「よく知らない人間とか、信用するわけないじゃない」

 そう言うと、武井君はパアと顔を明るくした。

「じゃあ、俺の事知ればいいじゃん! そしたら信用できるだろ?」

 なんでそうなる。声には出さなかったけど、心の中で共に思わず突っ込んでしまった。

「アタシに構わないでほしいんだけど?」

「なんで? いいじゃん。絶対、一人で居るより楽しいぜ?」

「別に楽しくなくていいし」

 アタシがどんなにつっけんどんに言っても意味が無く、何故か行き成り腕を引っ張られた。

「ちょっと、何?」

「一緒に遊びに行こうぜ!」

「はあ?」

 意味が分からない。普通、あれだけつっけんどんな態度取られたら悪態吐くか諦めると思うんだけど、一体何の?

 そして、そのまま連れてこられたのはゲームセンターだった。

「ねえ、ここって中学生だけで入っちゃいけないと思うんだけど」

「うわ~、マッジメだ~」

 そう言いながらもアタシの手を引っ張って中に入ろうとする。

 ここに来るまでも、どうにか手を振り解こうとしたけど結局できなかった。

 それでも、やっぱり入りたくはないから思いっきり踏ん張った。

「何、そんなに嫌なの?」

「嫌に決まってるでしょ。こういうとこに来たくもなかったし。

 それにいい加減帰って勉強しなきゃ……」

 本当は帰りたくないけど、これ以上家族に迷惑を掛けるわけにいかないのも確かだし。

「じゃあ、送る」

 はあ? と思わず言ったアタシの手をそのまま引っ張ってゲームセンターを離れた。

 だが、直ぐに武井君はピタッと足を止めた。

「そう言えば、家って何処?」

「……知らないんだったら何で送るなんて言うのよ」

「だって、女の子一人じゃ危ないじゃん」

 確かに、夏に近付いて日が落ちるのが遅くなっているとはいえ、もう日が暮れてきていた。

 こんな時間に一人で歩くのは危ないだろう。

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

 女の子扱いなんてほとんどされた事が無かったから、何となく気恥ずかしくなった。

「じゃあ、一緒に帰ろ。で、家、何処?」

 仕方なく、渋々家を教えた。アタシが教えると武井君も教えてくれ、武井君の家は意外にも近所だった。

「意外と近いんだね、武井君の家って」

「周良」

 は? と言うと、武井君はムッスとした顔をしていた。どうやら『周良』と呼べという事らしい。

「別にいいじゃない武井君で」

「嫌だ、周良って呼べよ」

 その後、アタシは何度か『武井君』と呼ぼうとしたが、遮られ結局『周良君』と呼ぶ事になった。

 そんな事をしていたらもう家の前に来ていた。

「ここ、アタシの家だから」

「へー、結構大きな家なんだな」

 アタシは手を放してほしくて言ったのに、周良君には通じなかったようでアタシの家を見て少し驚きの声を上げた。

「……もう家の中に入りたいんだけど」

 アタシがそう言うとやっと手を放してくれた。

「じゃあ、また明日な」

 周良君はニカッと人懐っこい笑顔でそう言いながら手を振って去っていった。

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