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殺し屋兎と灰色の鷹  作者: 如月雪人
任務1:女性を殺せ
4/36

仕事

「大和君。ちょっと」

 大和が橘に呼ばれたのは、昼休憩の時だった。

「なんですか?」

「依頼の件、彼女の情報について少し調べてみたんだ」

 そう言って橘は大和にノートパソコンを見せた。

画面には、三浦咲についての情報……ではなく、警察署のホームページが表示されている。

「警察のホームページ……?」

「彼女、警察署で働いているらしいんだ。詳しいことはまだわからないけれど」

 依頼を受けてから短時間でそこまで情報を得る事ができるのは、橘だからこそできる事だろう。

社長の仕事の速さには毎回驚かされっぱなしだ、と大和は思う。

「警察官ですか。これは大仕事になりそうです」

「うん。まぁ、大仕事ばかり回されても困るけどね」

苦笑まじりにそう言われ、確かにそうですね、と返した。

「もう少ししたら、彼女の近くを探ってみようと思う。警察署に用事もあったし、ちょうどいい」

「相手は警察です。気をつけてくださいよ」

分かってるよ、相変わらず大和くんは心配性だね。と言いながら席を立つ橘。

「どこへ行くんです?」

「昼休憩の後に少し社内を見回り。何かあったら後で教えてくれ」

 バタン、と社長室のドアが閉まり、はぁ、と大和はため息をつく。

「気をつけてくれないから言ってるんですよ……まったく」



* * *


 売店でおにぎりとカフェラテ、大好物のチョコレートを買い、会社の外の広場にあるベンチに腰を下ろす。

「大和君が動きやすいように計画を立てる必要もある……依頼人はできるだけ早く、と言っていたようだけれど」

 おにぎりを頬張りながら、今後の予定を考える。

どうすれば大和君が迅速かつ丁寧に任務をこなすことができる?依頼人が裏切る可能性は?

警察に疑われないようにするためには?

様々な可能性を考え、臨機応変に対応できるようにする。


『……社長、橘社長!』

突然名前を呼ばれ、肩がびくり、とはねた。

持っていたカフェラテを溢しそうになる。


「な、何だい?急に」

「何回も呼んでたんですけど。全然気づいてくれてなかったんですね」

彼——内山蓮うちやまれんは、むすっ、としながら橘の隣に座った。

「すまない。少し考え事をしていたものでね」

「社長って、いつもここで昼休憩してるんですか?」

「気分によるかな。社長室で食べることもあるし」

「ふーん」

「……内山君。何か悩み事でもあるのかい?私でよければ話を聞かせてほしい」

「え……?」

「思い詰めたような顔をしていたから」

橘が蓮に顔を向けると、蓮は力なく微笑んだ。

「はは、やっぱり社長には敵わないですね。でも、大丈夫です」


 橘はそれ以上悩みについて深追いしなかった。

誰だって、聞かれたくないことの1つや2つくらい、あるだろう。

「無理はしないようにね。とても心配だ」

「……社長は、幸せそうで、いいですよね」

 ぽつり、と蓮が呟く。

少しして、はっ、となり、すいません、と謝る蓮。

「いや、大丈夫だよ」


 しばらくして、不意に蓮が口を開いた。

「俺、つい最近までは妻と娘と3人で暮らしてたんです。ずっと幸せに暮らせるって、信じてたのに」

「何か、あったのか」

「俺の妻と娘が、殺されたんです」

「殺された、か。警察には言ってないのかい?」

「……はい。言ったら、俺も殺されるから。それに……俺の妻と娘を殺したのは、警察の人だったんです」

 悔しそうに唇を噛み締めている蓮を見て、橘はどうすることもできずに、そうか、と言うことしかできなかった。

「女性でした。名前は『三浦咲』。おかしいですよね。わざわざ自分から名乗ってきたんですよ」

 その名前を聞いて、橘は驚く。

まさか、ターゲットの名前を社員から聞くことになるとは、思っても見なかった。


「……社長。俺、これからどうしたらいいんでしょう」

少し考えて、橘はこんな提案をした。

「しばらく私の家に泊まるかい?一人でいるよりはずっといいんじゃないかな」

「いいんですか……?」

「ああ。明日、泊まる用意をして帰りにここで待っててくれ。案内するよ」

「社長、優しいですね。ありがとうございます」

蓮は先ほどとは打って変わって、嬉しそうに微笑んだ。

「いやいや。じゃあ、私は戻るよ」

 近くのゴミ箱に食べ終わったゴミを捨てて、橘は社内の見回りへと向かった。

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