日常
ちゅん、ちゅん、と鳥のさえずりが聞こえて目を覚ました。
もう朝か、と思い、ベッドから降りてカーテンを開ける。
眩しい日差しに目を細め、外を見つめた。
小鳥が大和の手に降り立ったが、手を動かしたら飛んでいってしまった。
「……ふふ」
空は雲がほとんどなく、澄んだ青色。
そういえば、今日は快晴だと天気予報で言っていた。
ちらり、とヘッドボードに置いてある時計に目をやる。
午前6時。会社に行くにはまだ早い時間だ。
「コーヒーでも飲むか」
寝巻きから着替え、ベッドの下に置いてあったスリッパをはいて寝室からリビングへ向かった。
軽めの朝食を取り、コーヒーができるのを待つ。
「今日も頑張ろう」
彼の名前は月見大和。とある営業会社で社長秘書として勤務している。
迅速かつ丁寧に仕事をこなしている、と社内で評判だ。
そんな彼には、人殺しを引き受ける『殺し屋』という裏の顔があった。
いれたてのコーヒーを飲みながら、今日の予定を確認する。
「社長は色んなことをすぐに引き受けてしまうから、スケジュール管理が大変だ」
まあ、きっと社長の事だから色々と考えた上で決定しているのだろう。
(俺は社長がスムーズに仕事を進められるようサポートするだけだ)
コーヒーを飲み終わり、リビングの壁掛け時計に目をやる。
午前7時半。そろそろ出勤時間だ。
イスにかけてあったジャケットに袖を通して、ネクタイのズレを直す。
持っていくものは昨日のうちに用意した。
よし、行こう。
大和の家から会社まではそこまで遠くないため、徒歩で通勤している。
「あ、大和お兄さん!おはよー!」
「おはよう。今から学校かい?」
「うん!」
「ふふ、元気でいいね。それじゃあ、頑張ってくるんだよ」
「はーい!大和お兄さんもね」
やはり小さい子は元気だな、と思いながら会社へ向かった。
会社に着いたが、社内はほぼ誰もいない。
社長秘書たる者誰よりも早く来るべき、と大和は考えており、出勤時間は早めだ。
社長室に行き、ドアを開ける。すると、すでに社長が来ていた。
「しゃ、社長……?もういらっしゃったんですか」
「ん?ああ、相変わらず早いね。大和君は」
そう言って大和に微笑みかけている彼は、橘昂鷹。
大和が勤めている会社の社長。
そして彼もまた、人殺しを引き受ける『殺し屋』という裏の顔を持っている。
「すいません。もっと早く来ればよかった」
「今日は早く目が覚めてしまってね。折角だし、早く会社に来てみようと思ったんだ」
「そう、ですか」
「気にしないでくれ。君はいつも通りにしてくれればいいから」
「わかりました」
社長に出す用のお茶を準備している大和の姿を、橘は興味深そうに眺めている。
「あの、社長」
「うん?」
「近いです」
「大和君のいれたお茶は美味しいからね。何か特別なことでもしているのかなと思って」
「普通にいれてるだけですよ。特別なことは何もしてないです」
「それは残念だ」