7、女は無駄が多すぎだろ
「ねえねえ、ダーリンの家どこ〜?おなか減った〜」
サトミは相変わらずなに話しかけても、ずうっと無言で先を行く。
やがて道沿いの家が増えてくると、夕方で人通りも多い町中へ入っていった。
「こんな町中に住んでるんだ。
セシリーちゃんの家も近くだよね。」
「リッターの家に行ってもいいんだぞ。」
おおお!!!やっと返事キターーーーー!!
マックス急がせて、隣に並ぶ。
あら、やっぱり見下ろすのかー、残念賞。
「やあねえ、今日はダーリンの家って決めてんの!」
見下ろされるのがイヤらしくて、舌打つと先を行く。
やがて店の並んだ道から路地に入ると、家がいきなり少なくなってパッと視界が開けた。
ポツンポツンと家があり、低くて色あせたトーテムポールがある家の前でサトミが降りる。
「トーテムポールって、初めて見た〜。可愛いじゃん?色塗り直せばいいのに。」
玄関横の畑を通って、馬屋を開けると馬を入れる。
ちょっと古い家だけど、窓にはカーテンも無い。
中をのぞくとなんだかガランとしてる。
「お前の馬はこっち入れろ。水はそこ、草はそこ、餌はそこ、汚れた草は畑の穴。
自分の馬は自分で手入れしろ。」
ささっと指さし指示して、自分の馬の世話始める。
隣でマックスの鞍を降ろしてると、なぜかサトミの馬が自分でラジオのスイッチを鼻先で入れ、軽快な音楽が流れ始めた。
「変な馬、自分でラジオ聞くんだ〜。」
「うるせー、変な女に言われたくねえよ。金、マジで持ってねーのか?」
「マジマジー、まさか、こんな事になると思わないじゃん?財布持ってこなかったの。」
「お前バッカかよ、金も無しでどーすんだよ。てめえのようなヒヨコはなあ、いざというときは自分でなんとかする心構えってモノが……」
「いーもん、いざとなったらあたしの魅力で、どっかのおじさまが奢ってくれるもん。」
「バカか、そう言って甘く見てっと、身体バラして中身売られんだよ。
腹ん中は外見関係ないからな。
夢見るのは自由だが、死んだら終わりだ。」
ブラシかけてた手が止まる。
ダーリンじっと見てると、怪訝な顔でこっち見た。
「なんだよ。」
「ちっこいのに、年寄りくっさ……」
「そうか、わかった。お前は今夜、水飲んで過ごせ。」
「えええええええええ!!ウソ!わかりました!ごめんなさい!
今度からちゃんと財布持ってきます!だから今夜はお金貸して!
ほら、なんなら今夜エッチしてもいーし!
キャーーー!レイル、マジ言っちゃったわ!あ!ダメよ、やっぱ今日はダメ!
だって、今日は勝負下着じゃ無いんだもん!イヤ〜ン、なんで今日に限ってエッチなレースのパンツはいてこなかったんだろ!」
クネクネしてたら、なんだかガッカリして座り込んだ。
こいつはどうしてあたしの魅力がわかんないのやら、マジでゲイじゃない?
「ねえ、替えの下着も買ってくるからさ、多めに貸してくんない?今度来たとき返すからさ。」
「いくらだよ。」
「そうねえ、……200ドル?(2万円)」
「はあ??女のパンツって、そんな高いのかよ!マジか、バカじゃね?
なんだよ、ケツの穴に金でも突っ込むのかよ?」
「やあねえ、デリカシー無いわあ〜ロンドで買い物したこと無いからさ、相場がわかんないから多めにちょうだいっての。いいわよ、100ドルで。そのくらい持ってるでしょ?え?持ってない?貧乏そうだもんねえ。」
「女は無駄が多い……まったくやっかいだ。」
ジャケットの内ポケット探って、10ドル札の束から10枚数えて抜く。
なんだ、札束立てるくらい持ってるじゃん。と言うか、毎日郵便局行くわりに意外と金持ってる。
しかも財布も無くて、ただ札束をゴムで止めただけという大雑把さだ。
100枚以上は持ってるじゃんと粘りにねだって、結局やっぱり200ドル借りた。
「ねえ、財布くらい買いなさいよ。雑ねえ。財布無ければプリペイド使えばいいのに。
ていうかさー、なんでそんなに現金持ってんの?」
「俺の都合はてめえに話すことじゃない。時に必要になるから持ってんだ。
無駄遣いするな、返すのはいつでもいい。」
「さんきゅ、じゃあ食事と買い物行ってくるわ。
あんたこれから食事作るの?一緒に行こうよ。」
「言ったはずだ、お前とメシ食う気は無い。
それより用が済んだらさっさと帰れ、お前には頼みたいことがある。」
「頼み?ふうん、わかったわ。力仕事以外ならね。」
「いいから、用が済んだら早く来い。それと、郵便局のジャケットは裏に返せ。」
郵便局の防弾ジャケットは、リバーシブルで裏に返すとただの真っ黒なジャケットになる。
なんか規定はあったっけ?と思うけど、一応ダーリンの言うとおりにした。
なんか暗〜い、やな感じ。黒い服って嫌いなのよね。
「やだぁ、真っ黒きら〜い。いいじゃん、アタッカーのマークカッコいいのに。」
「強盗も生活してること忘れんな。
まあ、俺はロンドの奴じゃなけりゃ、消えてもどうでもいいんだがな。一応忠告だ。」
「なんかわかんないけどぉ、じゃあ……行ってくる。」
レイルが出て行くと、それを馬屋の窓からじっと見送る。
ふと、後ろ姿のジャケットの裾からのぞく銃に気がついた。
「あれ?あいつの銃……軽い?弾入ってないんじゃねえの?
ま、いっか。あいつはガキじゃねえし、俺の方がガキだし。それにしても……」
サトミがあごに手をやり、ちょっと考えた。
「あのクソ女、200ドルも何に使うんだ?
女の行動ってのは、情報不足で良くわからねえ。
女の下着って、そんなに高いのか?
服??局の女はころっころ私服変えるよな、あれも良くわからねえ。
個人を特定されないようになのか……連続で着るとヤバいのか??
女は男より臭い?いや、まさか……なんか別に理由があるのか、今度キャミーに聞いてみよう。
うーん、まさか全部飯代??クソ女は信じられない大食いなのか?
んー、情報収集に後を付けたほうがいいかな?……んんー……?」
ドスンドスン!ベンが壁を蹴る。
「約束!約束!にんじん!にんじーん!!」
「あ、ああ、そうだったな。ごめんごめん。」
ベンとマックスにも、にんじんやりながらため息吐く。
「なんだ、メスと一緒で気分は12時じゃ無いのか」
最近ベンは、気分を馬屋のアナログ時計で例えるのがマイブームだ。
12時は、つまり最高というわけだ。
「いい女なら12時だけど、あれは5時くらいだな。
新聞読んでもらったら4時くらいになるかな。」
「ヒヒヒ、夜中は12時になるぞ」
「ならねえ、無理。お前馬のくせに変なことばっか知ってるよなあ。」
「ご主人様と呼べ」
「へいへい、ご主人様、にんじんばっかじゃ無くて、こっちの飼料も食え!」
何処行くのか、あんなクソみたいな女の後付けるってのも時間の無駄だよなあ。
女の情報仕入れたって、何の役に立つとも思えねえ。
「ま、つまり俺にはどうでもいいことか。腹減ったしメシ食お!」
そして、最初の目的を思い出すと、よし!と母屋に入っていった。
彼がなぜ現金をやたら持ってるか、それは時々軍で部下だった奴らがメシ食いにやってくるからです。
しかも金持たない奴もいるので、そう言う奴らが恥ずかしい目に遭わないように、だいたい彼が全部払います。
慕われるというのは、時々ツラいのであります。