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1、落ちこぼれじゃないわよ!

ポストアタッカーのメダルプレートが、日の光を反射してキラリと輝く。

そのプレートを鞍に下げ、一頭の馬が郵便物と男を乗せ、荒野の一本道を疾走していた。


ドカッ!ドカッ!ドカッ!


そこは戦中戦闘のあった場所、周囲はまだ戦中の残骸が散らばっているところもあり、道は唯一安全な場所となっている。


男はこの地方でも一番大きい郵便局、デリー郵便局エクスプレスのポストアタッカー、ジェイク。

防弾馬着には郵便マーク、騎乗する人間の後ろには同じマークが付いた袋の荷物が載っている。

騎乗のアタッカーはダークグリーンのつなぎのスーツに防弾ジャケット。

その右腕には、プレートと同じマークをを染めた腕章、そして馬具にはショットガン1丁に腰にはハンドガン。

ガンベルトにはずらりとシェルが並んでいた。


一本道の途中、小さな小屋を通り過ぎた。

そこは道横にある休憩所だ。水場もないこの荒野渡りのルートの途中に最近出来た。

道に面した方の壁が無く、オープンな屋根付きの、簡素な小屋だ。

が、出来たはいいものの、やはり強盗を恐れて利用する人は少ない。

ただ、ここには要望の多かった井戸と、緊急時にポリスへの連絡が可能な直通ボタンが付けられた。

とは言っても直通だけに配線は頻繁に断線し、隠れる場所の少ない荒野では、ここは盗賊の格好の隠れ場所になっていた。


パンパンパン!


軽い銃声が響き、腕と足に当たる。

彼が下に着ているスーツは防弾だ。

元は私服だったが、地雷強盗の一件を期に今ではみんな防弾スーツの着用義務がある。

義務はあると言っても、着ない物好きもいるが、まあ死んでも構わなきゃ好きにしろという感じだ。


パン!パンッ!


パシッ!パシッ!


敵はハンドガンか、撃ちながら追ってくる。

弾は後ろの荷物に当たり、ジェイクは舌打ちながら鞍に下げたショットガンを取った。


「そこはお前達のための建物じゃねえよ。バーカ!」


慣れた手つきで、片手でフォアエンドを引く。

後ろを見ると、馬が2頭、追ってくるのは荷物を狙う盗賊だ。


パンパン!


馬着と、郵便に当たる。


「くそったれ、一時減ってたのに、最近また増えてきたなー。」


ジェイクは苦々しい顔で、手綱から右手を放し、上半身を後ろにひねるとショットガンの引き金を引いた。




繁華街から外れた一角、と言ってもビルは半壊している物がほとんどで、きちんと建て直しているのは政府関係の低いビルしか無い。

道沿いは低い木造住宅が並び、道に車はごく少なく、ほとんどの人が馬車や馬に乗っている。

戦後ガソリンは枯渇し、車は姿を消して馬が人の足になって久しい。


ここはデリー市のデリー郵便局。

ハシュガル南部のハブ的郵便局で、この地方の郵便は一旦ここに集められて仕分けされ、各郵便局に配分される基地的機能を持っているので一番大きい。


郵便局は、銀行部門と郵便部門があり、ロンドと同じでここが唯一現金を扱っている。

窓口の奥を見ると、女性スタッフが多い銀行部門と違って、郵便部門は仕分け以外では男性比率がグンと上がる。

強盗の多さから、女性になり手は少なく配達は男性が多いからだ。


ジェイクが郵便局の裏にあるゲートを入ると、馬を下りて荷受け場に荷物を降ろし始めた。

最近、取り扱い郵便の量が増えて、袋がどんどん大きくなる。

袋に銃弾で空いた穴を見ると、ヤレヤレとため息が出た。


「ケイン、すまない、またやられた。

破損した郵便物、確認頼むよ。」


「オッケー、お疲れ。まあ、人間にケガがないのがラッキーさ。」


「ま、客もそう思ってくれればもっとラッキーなんだがねえ。」


「ジェイク!また誤配のクレーム!」


事務所から、シロンが顔真っ赤にして叫ぶとメモを差し出す。

ジェイクはメモを受け取り、パンッと手を合わせて彼女を拝んだ。


「もう!電話受けるあたしが怒られんのよ!レイルにケーキもってこいって言っといて!」


言い捨てると、ドスンドスンと戻って行く。

ジェイクの胃がキリキリ痛んだ。


「はああぁぁ、今は忍耐だ。」


「ははっ、ジェイクの胃に穴が空かないように祈っとくよ。」


ケインが笑って荷物を運ぶ。

ジェイクは着荷帳にサインして、備考に『強盗と抗戦有り』と記入する。

馬を馬繋ぎ場に連れて行くと、ジャケットを脱いで世話を始めた。




「ヘイ、ヘイ、ダーリン、ラブダーリン♪イェイ、ヤ!

フンフン、あー、日焼け止め忘れたー、最悪う〜」



ダークグリーンの防弾スーツに着替え、ロッカーをバーンとカッコ良く閉める。

よし。

エクスプレスの事務所に入ると、背中に郵便マークの入ったジャケットを羽織りながらソファにドカッと座った。

ポケットにあるクラッカーの箱取りだし、ジャケットの襟から肩までのびたダークブラウンの髪を両手で跳ね上げる。

浅く焼けた肌は、日焼け止め塗ってもこの職業ではなかなかセーブ出来ない。

これが悩み。


あたしはレイル・グラント。

二十歳になりたてのハッピーな女の子。

この辺では珍しい、ていうか、デリー郵便局初の美人女性ポストアタッカーよ。


は?!ポストアタッカーって何だ?ですって?

あんた、いったいナニジンよ?


この国、戦後電話がないの。

だから、急ぎの用事はだいたい電報か速達。


考えてみてよ、こっちが電話使っても、相手が電話持ってなければ何にもならない。

不便って?そりゃ不便よ。

でもね、うふ、だからあたし達がいるんじゃない?


ピピッ!


事務所の裏玄関のセンサーキーが鳴った、誰か帰ってきたわ。


「ヘイ、帰ったぞー。あーあ、参ったなー。」


先輩アタッカーのジェイクが、デラード、テミスの2局回りから帰ってきた。

ひどくウンザリした顔で、ショットガンを壁に掛けて向かいのソファにどさんと座ると、大きくため息をついて反っくり返り、オーバーアクションで足を組む。

ジェイクはあたしの大先輩、カッコイイ、アタッカーの見本みたいな奴。

ま、持ち上げて損はないわ、だって、あたしの指導係だもん。


「あー疲れた、またあの休憩所から撃ってきやがった。

あれ、どうにかならんのかね、盗賊の格好の襲撃場所になっちまって、迷惑千万だぜ。

腹減ったなあ、昼は外に食いに出るかな。」


「ジェイクおかえりー、で、殺っちゃったの?ポリスに連絡入れる?」


「いや、威嚇で諦めた。ああ言う諦めのいい奴は助かる。」


なーんだ、つまんないとポリポリ、クラッカーかじりながら事務所の冷蔵庫からジュースを取る。

ジェイクが、すっごく大きなため息付いた。


「はああああああ、まただ、まただぜ、レイルよ。」


「なにが〜?」


「はああぁぁ……レイル! 個別配送! またクレーム!

まただ、またラウム商店とラルム商事!お前何度間違えるんだよ!そのうち訴えられるぞ!」


あちゃっ!


「え〜〜やっだー!すいませーん!だってえ、近所だしぃ、どっちも郵便多いしぃ、つづりが似てるんだもん。」


「クソ、お前、昼からロンドか、俺が怒られてきてやるから、あとでピザおごれ!

シロンはケーキ持って来いだそうだ。」


「え〜やーだー、安月給なのにぃ!ジェイク先輩、愛してるう!」


ホッペにグーしてお尻ぷいぷいして見せる。

が、親指下向けて無視された。


チェッ、またやっちゃった。


えーと、なんだったっけ?

あ、そうそう。

まあだからさー、速達は電話の代わりって訳よ。

ポストアタッカーは、その速達業務を担う、ポストエクスプレスの早馬アタッカー。

戦後ゲリラが盗賊に職を変えて、命知らずで襲ってくるから、武力と乗馬スキルが求められるの。

だからポストアタッカーは、退役軍人が多いわけ。


で、去年、軍を首になったあたしは、デリー郵便局勤務の新米美人ポストアタッカー。

私の武器はショットガン、レミントンM870。

当たるかって?ま、たまにね。


え?なんで軍を首になったかって?

それはねえ……女の子には!秘密の二つや三つや四つや五つくらいある物よ!

ガタガタ言うんじゃ無いわよ♡

ぬる〜く始まった、速達配達人 ポストアタッカー 2。

アタッカーは各郵便局にいるので、色んな奴がいるわけです。

多くは軍上がりで、ガイドやリッター兄妹のような生粋のポストアタッカーってのは非常に少ないです。

まあ、リッター兄妹はゲリラ上がりですが。

そうです、リッターの妹もちょいと出てきます。

彼女はすでにアタッカーの仲間入り、え?!なんで?って方は、短編集の中にある「リッターの妹」をお読み下さい。

さて、ハードな1のような内容を期待されていた方には申し訳ない。

2は、ハードなのかなんなのか良くわからない、そしてやっぱりサトミは戦いになると生き生きしているのでした。

中編なので、短い間ですがよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神よ待ってた!!(ノ≧∀≦)ノ [気になる点] レイルはマトモな子だろうか…? セシリーちゃんの衝撃を鑑みると、レイルももしかして……心配ですw
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