15、デリーに突き返してくる!
サトミに向けられた刀の刃が、ギラリと輝く。
彼の悪魔の様な微笑みに、男たちは恐怖で引きつって身を寄せ合った。
「ひ、ひいいい!なんだよう、助けてくれないのかよう!」
「お前ら、落ち着いたらあの女を訴えろ。」
「え?え?訴えるな、じゃなくて、訴えろ??!!」
「そうだ、あのクソ女は痛い目が足りないようだ。
貴様ら股間のケガが治っても、精神的苦痛とかでデカい賠償金突きつけろ。
そうだな、4人なら40万ドル(約4千万円)ってとこかな……。
性器は賠償額デカくても通りやすい、平気でぶつけろ。」
「は……はぁ」
「さて、そこでだ。
いいか、良く聞け。やり方だ。
向こうは弁護士付けてくる。最初50万請求しろ、値切ってきたら、40万までケチケチ負けてやれ。
ケッチケチ、ネチネチしみったれながらだ、いいな。」
驚愕して、男達が顔を見合わせる。
「あの……………いいんで?」
「まだ!話はこれからだ。
助けてやったんだ、半分よこせ。
善意のお礼にエクスプレスに半分、プリペイドで寄付しろ。
プリペイドだ、貴様ら欲が出るから現金は見るな。
お前らの取り分は、一人5万ドル(500万円)ってとこだ。
てめえら半端な奴らには、多すぎても少なすぎても駄目だ、人生悪い方に転びやすい。
そのくらいで丁度いいと思え。
一人でも欲出さねえか、お前達が自分たちで監視しろ。
一人でも死んだらお前達全員、俺が殺しに行く。
逃げても何処に隠れても、姿を変えても同じだ。お前達の気配は覚えた。
俺は、決めたことひっくり返されるのが最高に気にくわねえ。心しろ。」
「ひ、ひいいいいい……欲は出しません、約束します。
………5万で十分です。
元々俺たちも悪いし、取るつもりなかったから、半分、プリペイドで郵便局に持っていきます。
でも、ほんとに、あんたにじゃなくて、郵便局で?」
「いい。いいか、寄付はエクスプレス指名だ、いいな。
エクスプレスは強盗対策で郵便局の金食い虫だ。
金がなくて、俺のコーヒーミルクまでケチりやがる。
レインスーツは滝のように雨漏りして最低だ。それで買い換える。
クックック……これで文句言う奴いねえだろ。俺はミルクと砂糖入れ放題だ。」
何か…金額のわりに悩みがしみったれている。
「はあ、大変っすね。」
「よし。じゃあな、治癒を祈る。」
「ありがとうございます……でも、きっと40万ドルもこの子持ってないですよ。」
「クククッ、どうだろうな。」
サトミがニイッと笑う、男達も恐怖で引きつって笑った。
後で来た、リッターが顔を出す。
「40万?なにそれ?」
「何でもないよ、バクチで当たればどのくらい稼げるか話してんだ。」
「ふうん……40万稼ぐやつぁいねえだろ。」
奇妙なサトミの笑いを後に残し、4人は馬車に積まれてようやく病院へと向かいホッとした。
「すまない、助かった。」
シェンが、サトミに頭を下げた。
サトミがニッと笑って親指を立てる。
「生きてる奴が、こんな事で無駄に死ぬ事はねえよ。
気にするな。
よし!後は火事か!」
振り返ると、すでにこの近所のおっちゃん達が集まってきていた。
ポンプと湖から引いたホースの準備を進め、急いで消火の体制に入る。
防火服着たファイヤーマンが手際よくホースを持って、サトミに下がれと指示した。
「火事は俺らに任せろ!ガキは引っ込め、こっちからも消せるぞ!!
ホース回せ!先に中のドア冷やせ!いきなり開けるな、フラッシュオーバーに気をつけろ!」
「ははっ!言うかよ!後は任せた!」
消火作業が本格的になって、煙がどんどん白く少なくなってきた。
表通りに出ると、セシリーが駆け寄ってくる。
「王子!お兄ちゃん!何処行ったかと思ってた!」
「逃げ遅れ出してた。レイルは?」
「そこで寝てる。スス多少吸ったけど、異常なしって。
どうする?王子んとこで預かる?ホテルぶち込む?」
レイルは真っ黒に汚れたまま、また酔いが覚めずに服の前は開け放してブラとパンツ見せて爆睡している。
ヤレヤレと男二人が目をそらし、ため息付いた。
「こんな迷惑なのに町に居座られたらたまらねえ、明日当番だしデリーに突き返してくる。
俺が預かるよ。この調子じゃ、どうせ朝も起きるかわからねえし。
麻袋うちにあるから入れて持っていくわ。」
言い方が、まるで新品不良の返品だ。
だが、リッターも激しく同意した。
「すまねえけど、そうしてくれると助かるよ。
何より、お前が殺しやって無くてホッとしたわ。」
「あったり前じゃん、俺もう一般人だし。」
「だよな!」
ハッハッハと、二人で朗らかに笑い合う。
「じゃ、今夜のことは明日ガイドに報告頼む。」
「了解。ほんじゃ帰る、お休み。」
サトミが彼女をお姫様抱っこするのかと、セシリーがワクワクして眺める。
が、サトミは嫌々片手で彼女のつなぎの左右を適当に合わせると、腹の所をガッとわしづかみして持ち上げて立ち去っていった。
レイルは頭が首の据わらない赤ん坊のようにぶらぶらで、手も足もすだれのようにぶら下がっている。
サトミは背が低いので、彼女の手と靴のつま先がズルズル道を這っていた。
「王子……マジ、夢が無いわ〜、まるでゴミぶら下げてるみたいじゃん。」
セシリーがガッカリ銃を肩において首を振る。
「まあ、半分ゴミみたいなものだし。
しっかし、ほんとクソ馬鹿力、一体どうなってんだよあいつの腕は……」
「お兄ちゃん、王子には殴られちゃ駄目よ、きっと頭吹っ飛ぶわ。
お兄ちゃんの取り柄は顔だけ!なんだから。」
「想像するの怖いから、冗談でも言うな。
つか、顔だけって何だよ、顔、だけっ!てよぉ〜!」
「他に取り柄が見つからないのよ!
お兄ちゃんの財産は顔しか無いんだから、早く、若くてピッチピチの間に、ババアでも男でもエロジジイでもいいから、そろそろ相手考えてよ!出来れば金持ち!
じゃないとあたい、ラブリーハッピーなお嫁に行けないじゃない!」
「え〜、セシリー、お兄ちゃんの面倒見てくれよ〜!」
「絶対イヤ!」
セシリーはプイと先に家に向かう。
それを慌てて追いながら、リッターは遠くなるサトミの後ろ姿を目で追った。
奇妙な光景なのに、何故かちっとも気にしてない町の奴らもどうかと思う。
ま、そんなことどうでもいいやと兄妹二人は、火事の喧噪を後に、メシの続きと家に帰り始めた。
ミルク入れるな、うるせー!!
ってのは、金の問題だけじゃないと思うんだけどなあ〜w




