13、大刀演舞の戦い
シャーンッ!
シェンの両手にある二振りの大刀が音を立て、弧を描いて空を切る。
サトミは彼の一連の演舞のようなルーティンめいた仕草を、刀で肩を叩きながら眺めていた。
「めんどくせえ奴だなー、まだかよ〜」
そうしている間に、どんどん周囲にはヤジ馬が増えていく。
一時のそうしたルーティンにヤレヤレと待ちくたびれたように、サトミが大きくあくびした。
「ふぁ〜〜、ココア飲みてえなー。」
シャッ!
舐めた様子に隙を逃さず、上段からシェンの右手の大刀が迫る。
それをひょいと身体を引いて避け、サトミが目を見開きニッと笑った。
「よし! 待った分、楽しませろよ!」
間髪入れず、左の大刀がサトミの腰に入る。
サトミは風のように早いその刃をポンと飛んでかわし、刀の峰で叩いて後押しする。
カーン!
「うぉっ!」
叩かれてビュンと加速した剣に振り回され、シェンがよろめき立て直した。
「 な! に! 」
「遅い、遅い、まだ準備運動かよ、やる気でねえ!」
「この!」
ピュン!
横から胸を狙う。
サトミは身体を反らして難なく避け、また峰で大刀の面を叩く。
カーン!
「くっ!!」
叩かれるたび刀に振り回され、シェンの顔から余裕が消えた。
ビュンビュンッ!
シャッ!
振っても振っても紙一重で避ける。
異様に身体が素早く柔らかい。
「もっとさー、銃弾くらい早く出来ねえかなー。俺には止まって見えるぜ。」
「くっ!!」
ピュンッ!
横から来る大刀に、バンッと下から刀身を蹴り上げる。
「ひゃはは!」
続けてくるもう一閃を、今度は上から蹴り降ろした。
「うぉっ!こ、この!」
シェンがよろめく身体を横に流し、よどみなく態勢を戻して再度振るう。
息を整え集中し、気をこめ、全身の筋肉を使って全身全霊で下から刃を向ける。
この一閃を!
サトミが迫る大刀を拳で叩き落とし、クルリと舞ってシェンの後頭部に蹴りを入れた。
「ぐっ!」
蹴られた拍子に彼の背後から大刀を振る。
サトミが大きく身を伏せ、男の膝を後ろから蹴った。
「おおっ!」
シェンの膝ががくりと折れ、勢い余ってドスンと膝を付く。
ドッとギャラリーが笑い、シェンは今まで感じたことのない屈辱に震えた。
何という……!これは……感じたことの無い……!!
「貴様、何故その刀を使わんのだ!」
言われてきょとんとサトミが笑う。
「だって、俺が刀振ったら1秒で終わっちまうじゃん?
最近、こう言う状況滅多に無いからなー、一瞬じゃもったいねえよ。」
思わぬサトミの本心に、シェンがギリッと歯を噛みしめる。
これは、神童か。ならば!!
立ち上がり、目鞍滅法太刀を振り回す。
大刀の風切る音ばかりが辺りに響き、ギャラリーがその鬼気迫る様子に息をのみ下がって行く。
しかし、相変わらずサトミの刀は肩に乗せたままで、シェンに向ける気配がない。
刃を右に、左に、上から下に。振り回しても、サトミは避けるばかりだ。
シェンは次第に頭に血が上る。
「貴様!その刀は飾りか!」
シェンの怒りに呼応して、ヤジ馬からも声が上がる。
「兄ちゃんやれよ!」 「真面目にやれー!」
サトミはやれやれと、ヤジ馬に目をやりながら、大刀を紙一重でよけてゆく。
ようやくシェンを向くと、とうとう刀を背に直してしまった。
「まぁ、そろそろ帰って寝るかな。」
「なにいっ!!!」
「準備運動にはウンザリだ、刀を汚す価値もない。貴様にはこれで十分だ。」
そう言って、ナイフベルトの小さなスローイングナイフと腰のサバイバルナイフを両手に逆手に持った。
「俺はお前より強い、これが答えだ。」
サトミが歩いてシェンに迫る。
シェンが焦り、右から渾身の力をこめて一刀を振る。
ギィンッ!!
初めて、サトミが刀を受けた。
逆手に持った小さな投げナイフ用のスローイングナイフで。
サトミの手はびくとも揺るがず、ただシェンの手に反動でビリビリとしびれが走る。
ギイイイイイイィィィィ……
合わせた刃を滑らせ、火花を上げながらそのまま迫る。
「うおおぉぉぉ!!!!」
左手の大刀を、サトミの胸に突く。
ガキッ! シャーッ!!
サトミはそれをサバイバルナイフで受け、左に流して下へ一気に押さえつけ、刀身を倒してそれに向けて膝で蹴った。
バキンッ!
シェンが大刀を折られて反動で後ろによろめく。
苦々しく唇を噛み、それを放って右の大刀一本で襲いかかる。
「くそっ!クソ、クソおっ!」
ビュン!ビュ、ビュンッ!
鬼気迫る顔で右に左にと振り回す男に、ギャラリーから恐怖の声が上がる。
「ははっ!切れたら負けだぜ、おっさん!」
サトミが面白そうにそれを避け、横から来る刃に真上からナイフを打ち下ろす。
バギンッ!
大刀の刃にスローイングナイフを打ち込まれ、そこから折れて刃先が飛んだ。
くるくる回りながら自分に向かってくる刃先を、ギャラリーのおっさんが呆然と見つめる。
死ぬ!
おっさんが一瞬、恐怖で白目になった。
カーンッ!
後ろから突然セシリーがおっさんを引き倒し、自分の銃でそれを叩き落とす。
それはまるで天から現れた、ちょっと太ったエンジェルガールだった。
普通、人にはルーティンがあります。
何かを心して始める時、例えばこの場合、一瞬で刃物で切られるわけですから、シェンの心構えみたいなものです。
ところが相手はサトミです。
彼の場合、ルーティンってなに?って感じw




