野郎共の昼下がり(前編)
激動の金曜日を過ごした。だから土日は家から一歩も出ず安静に過ごした。先週もそうだった気がするが、気にしてはいけない。
そして月曜日。顔の腫れも少しは治ったことだし、僕は普通に登校している。
普段は誰とも話さないけど、さすがに今日は誰かに話しかけられると思う。考えられるのは大中小トリオ。それから仁科さんや鷺沢さんも考えられるが、こっちの線は薄いだろう。
ともかく受け答えは堂々としていねば。そうでなければ助けた側としての面目が立たない。僕は深呼吸をし、気を引き締めてから教室へと入った。
すると早速、一人の生徒が僕に話しかけてきた。正直ここまで早く来るとは予想外だ。準備していてよかったと心底思う。
ただ相手は、大中小トリオの大倉でも中村でも小林でも、ましてや仁科さんでも鷺沢さんでもない。では誰なのかと言うと――
「ナイスファイトだったな影山。体は平気か?」
田中だった。……陽キャ筆頭の。野球部特有の坊主頭が今日もまぶしい。
「土日ゆっくり休んだから、もう平気だよ」
あまりにも意外な人物だったが、思いのほか受け答えは自然にできた。
彼と話すことが二回目だからだろうか。実は田中とは数週間前に、とある場所で会話を交わしていたのだ。ただし、このことは諸事情により田中側は知らないが……。
「そうか、それはよかった。とりあえず昼飯時にでも話を聞かせてくれよ!」
田中がそう言った瞬間にチャイムが鳴り、僕らはそれぞれの席へ向かった。
その途中、事件部外者の田中が事件の内容を知っているという矛盾に気づいたが、時すでに遅し。生徒の大半は着席し、完全に問いただすタイミングを逃していた。まったく、こういう時だけきっちりしやがって……。
でも考えられる原因はいくつかに絞られる。
本命としては大倉が言いふらした。
次点で田中がどこかから見ていた。
大穴だと鷺沢さんが言いふらしたことか。
……まあ大倉だろうな。
そして四時間目の授業後、昼休み。田中の言葉を忘れていた残念な脳の持ち主である僕は、いつものように職員室隣のトイレへ向かおうとしていた。
「ちょっとちょっと影山殿! 主役がどこに行くのですかな!?」
それを大倉が教室から出て止めてきた。反射的に「トイレで昼食」……とはさすがに言わなかった。僕の脳はそこまで残念仕様ではない。
そんなことより今の一言で、やっぱり大倉が言いふらしたのだと確信するに至った。根拠はない。
「ささ、こちらへ……」
僕は廊下にて捕捉され、教室へと半ば強制的に連行させられた。中では僕の席を取り囲むようにクラスの男子達が待機しており、教室の南東部分が野郎共に占拠されるという珍事が発生していた。
そんな彼らのうずうずした様子は、主役の登場を今か今かと待ち望んでいるようである。
それで大倉曰く主役な誰かさんは、まるで脇役のごとくコソコソと「影山友樹」の席に着く。二ヶ月間使っていて馴染みのある机と椅子のはずなのに、どうも落ち着かない。
多分、それはアレだ。昼食を自分の席で食べることがなかったからだ。
パッと思いついた理由だが、すごく納得できる。……納得できてしまうから、すごく悲しい。
「はい、では役者も揃い踏みですので――」
少し遅れて隣の席に着いた大倉。彼はさも当然のように場を仕切っている。実はおまえ、結構すごかったりする?
「影山殿の武勇を、拙者から語らせていただきますぞ!」
…………。いやおまえが話すんかい。まあそっちの方が助かりはするけど。