最終話・また明日
「……い、……ろ!」
う~ん。なんか騒がしいな。僕は今寝てるんだから邪魔しないでよ。
「おい、起きろ!」
「うわ、ビックリした! ……って、誰!?」
僕が目を覚ますと、僕と同い年くらいの金髪の少女がそこにいた。家族にそんな見た目の人はいないし、なんなら姉や妹もいない。いったい誰なんだ……。
「って、おい。本当は分かってんだろ。ありきたりな反応するんじゃねえ」
「ははっ、一回やってみたかったんだ。おはよう仁科さん」
「まったく。遅刻するぞ」
そんなに寝てたのかと思い枕元の目覚まし時計を見てみると、針は『7時50分』くらいを示していた。
「なんだ、あと三十分は寝れるじゃん」
「なっ、さ、三十分!? おまえ……そこはせめてあと五分とかにしとけよ」
あ、そっか。僕は高校まで近いからギリギリまで寝ていられるけど、仁科さんや鷺沢さんは事情が違うのか。大変だね、電車通学って。というか、あと五分なら許してもらえるのか……。
でも、本当にあと五分寝たら何をされるか分からないのでベッドから出ることにした。
「いつもこんな感じなのか?」
「……えーと、まあ」
「朝飯はちゃんと食ってるのか?」
「……たまに抜かす」
「たまにってどれくらいだ?」
「……週に五日くらい」
「ハア~~~っ」
仁科さんは額を手で抑え、大きなため息をついてしまった。
改めて考えてみると、本当にひどいな。僕の生活リズムは。
仁科さんに言われて初めて気づいた。いや、今までも散々言われたことはあるが、それは家族という身内に限定されたことだった。だから適当に聞き流していた。
……家族?
仁科さんとはまだ他人、ほぼ他人といった関係だが、いずれは……。
って、何を考えているんだ!
これ以上は顔が赤くなってしまいそうだったから必死にこらえた。仁科さんにだけはこんな顔を見られたくはなかった。逆のパターンはよくあったけど。
とりあえず、仁科さんにため息をつかせないように頑張らないと。まずは朝食を週四日食べるようにしてみるか。
そしてこの後、仁科さんが作ってくれた朝食をいただき、僕達は三人揃って家を出た。
昨日は荒れに荒れた天気だったが、今日は嘘のように青空が広がっている。水たまりに反射した朝日がまぶしい。
「いやあ、晴れてよかったね」
「そうだな。でもよ、昨日あんだけ雨降ったんだし休校にしてくれてもよかったのにな」
「あ。それは完全に同意」
「……まあ、仕方ないことだよ」
僕はそう言いながらも、心の奥では休校になってくれてもよかったよなー、と考えていた。
◆
「――で、結局休校になんのかよ」
仁科さんは屋上の柵に頬杖を付きながらそう言った。
僕達が教室に入った時、中は異様な静寂に包まれていた。クラスの半数近くが昨日の台風のせいで登校できない状況にあったのだ。いつもは朝からガヤガヤとうるさいのに。
で、SHRに十分近く遅れてやってきた担任が「今日は休校だ」と告げて今に至る。僕達三人は仁科さんの提案で立入禁止の屋上に足を踏み入れていた。
「屋上なんて初めて来たよー。影山くんもだよね?」
「ああいや、僕は……」
「影山は結構来てるぞ。あたしと一緒にな」
「へぇ。やっぱり着々とフラグは立ててたんだね」
「た、たまたまだよ……」
僕達は取り留めのない会話をした後、あまり湿っていない石ブロックを選んでそこに腰を下ろした。
そして、それぞれが弁当の包みを広げる。これもまた、仁科さんが作ってくれた物だ。かなり早い昼食だが、食べないのはもったいないのでいただくことになった。
仁科さんと鷺沢さんが普通の弁当箱なのに対して、僕のがタッパーなのは単純に容器がそれしかなかったからである。代わりと言ってはなんだが量は一番多めになっているけど。
さっき朝食を食べたばかり? 気にするな。仁科さんが作ってくれた物ならいくらでも食べられるさ。
「で、二人はこれからどうするの?」
鷺沢さんが早速切り込んできた。
「いやいや霧子。どうするって言われても分からんって」
「じゃあ今日は時間もいっぱい余ってるんだし、二人でどこか行ってみたら?」
「んな!? そ、それってデ――」
「今日は二人とも家に帰って、家族に顔を見せてあげなよ」
慌てふためく仁科さんに割って入って、僕がまた一つ新たな提案を出した。二人がこちらに視線を向けてくるのと同時に、僕は話を続ける。
「親御さんも心配しているだろうし。別に焦って今日行かなくても、明日ゆっくり行けばいいじゃん。ほら、明日は土曜日だしさ」
「影山くん、いいこと言うねえ。……それで、本音は?」
「今日くらい休まないと精神的にきつい……あっ」
なんてことだ。僕の心が見透かされていたどころか、それを外に出されてしまうとは。恐るべし。
「いや、でも! 家族が心配してると思うのも本当だよ!」
「ふふっ、分かってるよ。……そうだね、影山くんの案が一番いいかも。真央ちゃんもそれでいいよね?」
「そうだな。正直、あたしも色々ありすぎて今日は休みたかったっていうか……あっ、でも明日はあたしの行きたい所に付き合ってもらうからな!」
「うわ、意外とノリノリだ」
僕は仁科さんに食い気味に詰め寄られ、驚いてしまった。彼女は目を輝かせ、僕に行けるかどうかをグイグイ聞いてくる。この興奮っぷりは凄まじく、提示された選択肢は『はい』か『YES』しかないように思えた。となると答えは唯一つ――
「もちろんいいよ」
というか、こんなところで『いいえ』とか『NO』とか『えーと、その日はちょっと都合が悪くて……』とか言う馬鹿がいるかっ!
「よし! じゃあまた明日会おうな!」
「うん。また明日」
こうしているうちに僕達は弁当を食べ終え、屋上を立ち去ることにした。
また明日、か……。
僕はこの一ヶ月間、何度もこの言葉に救われたような気がする。なんというか、別れの挨拶なのに全然寂しさがないんだ。だから『さようなら』よりも『また明日』の方が断然いい。
だって、ずっと繋がっていられる気がするから……。
なんてね。
そんなに深くは考えたことはないよ。
でも、好きな言葉なのは確かだ。
それじゃあ、また明日。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
よければ続編も見てください!




