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怪談の夜(後編・ホラー要素あり)

 鷺沢さんの怪談はどちらかと言うと、幽霊よりも人間の方が怖い的な内容だった。それに対して僕が考えたのは、普通に幽霊の話だ。

 

 どちらが良いかとか、そんなものはないが、幽霊系の方が王道な気はする。怪談をやる以上は、定番の話を一つくらいは組み込んでおきたい所だ。

 

 ……まあ、本当は人間的ホラーは難しくて作れないだけだが。僕が怖い話を考える時は決まって、幽霊が絶対に出てくる。でもそれでもいいか。怪談ってのは怖ければ何だって良いんだ。ちょっと自信はないけど。

 

 僕はゆっくり、そして大きく息を吸ってから話を始めた。

 

「これは、僕が病院に入院していた時の話――」


「えっ。影山、入院してたのか!?」


 意外な所で仁科さんが食いついてきた。さっきまで抜け殻みたいになってたのに。

 

「ああいや、そういうことじゃないから」


 鷺沢さんが三人称風に語っていたのに対し、僕のは『僕が』と一人称風に話し始めたのが勘違いさせてしまった原因か。当然ながらこの話に出てくる『僕』と『僕自身』は同一人物ではない……はずだ。説明するのはそこそこにして僕は話を進めることにした。

 

「当時僕は、消灯時間が過ぎた後を狙って、毎日のように抜け出していたんだ。すごく暇だったからね。


 深夜の病院は、いつ幽霊が出てきてもおかしくないほど、暗くて不気味だった。音もよく響くせいで、何度か自分の足音にもビックリしてしまった。

 

 そして暗い廊下を歩くことにも慣れてきたある日。ついに、恐れていたことが起きてしまった。目の前に、突然現れたんだ。白いワンピースを着て、顔の半分が隠れるくらい長い黒髪の女性が。

 

 僕は瞬時に幽霊だと分かってしまった。壁の色さえ分からない暗闇で、相手の姿かたちがはっきり見えるのはどう考えてもおかしい。きっと目で見ているのではなく、第六感的な何かで、この世ならざる者を感じ取ったんだと思う。

 

 すぐに逃げ出そうと思った。だけど、恐怖で足がすくんで一歩も動けなかった。気づいたら向こうの幽霊は、徐々に距離を詰めてきていた。

 

 やばい、このままだと……。足は動かなかったが、腕は何とか動かせた。僕は死物狂いで腕をブンブン振り回した。すると偶然にも拳が幽霊の前髪に当たり、その勢いで髪が浮いて顔があらわになった。

 

『うわっ!』


 僕は思いっきり叫んでしまった。人の顔を見て驚くというのは失礼極まりないことだと理解している。けど、僕の目に映ったそれは、あまりにも衝撃的で凄惨なものだった。

 

 どす黒く血走った左目はぎょろりと見開き、もう片方の右目はぐちゃぐちゃに潰れていた。思わず口を手のひらで塞いだ瞬間、今度は喉からひねり出したような声が聞こえてきた。

 

「ミラレタ……ミラレタ……」


「オマエノコトモ……ミテヤル……」


 喋っているのはどう考えても目の前にいる幽霊だけど、声が何重にも重なって複数人に話しかけられているようだった。暗闇にたくさんの赤い目玉が出現し、僕の方を一斉にミテイタ……。

 

 

 そこからの記憶はない。次に目を覚ました時は、病室のベッドの上にいた。昨日倒れて病室に運ばれたなら、看護師さんが何か言ってくるはずなのに、何も言ってこない。あれは夢だったのだろうか。

 

 その時、僕は手に何かを握っていることに気づいた。確認してみると、それは……黒くて長い髪の束だった」

 

 

 

 怪談の締めとして僕もまた、鷺沢さんに倣ってろうそくの火を吹き消す真似をしてみた。

 

 うーん、話してみたら意外と長くなったな。だけど、集中していたせいか話している間は暑さをあまり感じなかった。それだけでも怪談をやってよかったと思う。

 

「えーと、もう終わり……ってことでいいのか?」


 仁科さんがふと尋ねてきた。そう来るということは、オチが弱かったということかな?

 

 そんなこともあろうかと、ちゃんと真のオチも用意している。僕はそうして、意地悪っぽくスマホを取り出してみせた。

 

「いや、まだ続きがあるんだ。その時の様子が動画として残されていて……」


「うわー! やめろやめろ! つーか、携帯を無駄に使うなっておまえが言ったことだろ!?」


 予想以上の慌てっぷりだった。普段とのギャップがすごいので、ちょっとからかってみたらご覧の有様である。

 

「冗談だよ冗談。作り話だし、そんなのあるわけないじゃないか」


「はは、だよな……」


「そうそう。だから安心してよ」


 そう言って僕は、真っ黒いサムネイルの動画の再生ボタンから指を離した。これで話をしていないのはただ一人となったわけだが……。

 

「ちょ、二人して何見てきてんだよ」


 僕と鷺沢さんは、示し合わせていないのに自然と仁科さんの方へ視線を向けていた。

 

「わたしと影山くんが話してた分、時間もあったよね? だからもう、準備は出来てるよね?」


「いやいや、無理強いはよくないって。ほら、今の仁科さんが話せるはずないし。察してあげなよ」


 僕は怪談を話してくれるのに期待して視線を向けたわけだが、ようやく無理そうだと分かった。でも鷺沢さんの方はまだ諦めていないようだった。

 

「大丈夫、真央ちゃんならできるよ」

「そんな馬鹿な。見てみなよこの青ざめた顔。できるわけないよね?」


 すると仁科さんは肩をプルプルと震えさせた。直後、鷺沢さんを指差して「この天然系ドS!」、次に僕を指差して「このねっとりドS!」と言ってきた……。

 

「な、なんかごめん」


「ふんっ、影山のくせによ。怪談の一つや二つ……できるに決まってんだろ?」


「え、本当!?」


 食いついたのは鷺沢さんだった。目をキラキラ輝かせて、今まで以上に熱い視線を送っている。えーと、天然……なんとかと仁科さんが言ったのも分かるような気がした。

 

「コホン、それじゃいくぞ。そう、それは夏の太陽が照りつける暑い日の――」


 その時だった。天井のライトが明るくなり、点けっぱなしにしていたテレビも、映像と音声が再び流れ始めた。停電が直り、電気が復旧したのだ。

 

「あ! これはもう……怪談なんてやれる雰囲気じゃねえな。よし、これで終わり終わり!」


「え~!?」


 鷺沢さんがすごく残念がっている。それに対する仁科さんは聞く耳を持たず、二つのロウソクの火を本当に吹き消してしまった。

 

 やっぱり……すごく怖かったんだね。

今回の怪談は夏のホラー2019企画に投稿した『ミラレタ』という短編を元に作っています。

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