停電発生
夕食後、僕達は入浴をすることになった。
……ああ、もちろん「僕達」だからといって三人同時に入るわけではない。当たり前か。
鷺沢さん、仁科さん、僕の順番でそれぞれ入り、たったいま僕が風呂から上がったところだ。
着替え終えてリビングに戻ると、ソファに座っている仁科さんが振り向いてきて、僕と目が合った。
「なんだ影山。ずいぶん早いお帰りじゃねえか」
そう言う彼女の髪からは、わずかながらに湯気が昇っていた。風呂から上がってそんなに時間が経っていない証拠であり、言ったことが間違っていないという証明でもある。
「まあ、そりゃあ……ね」
僕がカラスの行水レベルの入浴時間だった理由。
それ、言う必要ある? 順番からそれとなく察してくれ。
「てかさ」仁科さんは外の方に顔を向ける。「台風、ぜんぜん収まらねえな」
「そうだねー。いつまで続くんだろう」
鷺沢さんがそれに同意した。僕も概ね同意見だ。
雨は止めどなく家の壁や屋根に打ち付けている。
とにかく、音だ。激しい雨音が不安をこれでもかと言うほど煽ってくる。
時折、雨が弱まったりもするが、本当に一瞬なので空喜びにすらならない。
雨漏りだけはしていないのが救いか。
……あ、そうだ。
僕は壁に掛けられた時計、それから真っ暗なテレビの画面を見てひらめいた。
「これだけの台風ならニュースとかになってないかな」
ちょうどこの時間は番組と番組の変わり目で、どの局でも五分間の短いニュースを放送しているはずだ。しかも全国的なやつではなく、ローカルなやつ。この辺一帯は絶賛台風横断中なので、絶対にやっているはずだ。
「なってるかもな。ちょっと見てみるか」
そう言って仁科さんはリモコンを持ち、電源ボタンを押した。チャンネルを切り替える必要もなく、ニュースがタイミングよくやっていた。
画面に映った場所は、少し離れた市にある湾岸。ライトで照らされた黒い海は、常に白い波しぶきを立てている。
レインコートを着た男性リポーターが、風に飛ばされないよう踏ん張りながら、現状を声を張り上げて伝えていた。
「こんなに風強かったか?」
「うーん。強かったには強かったけど、ここまでではないよね」
「だよな。これ絶対演技入ってるだろ。影山はどう思う?」
「…………」
僕は二人の会話に混ざることはできなかった。すごくコメントしづらいし。
多分このリポーターのお兄さんは目立ちたがり屋で、ちょっと大袈裟にする癖があるんだ。そういう人種なら、他に一人知っている。無駄に体がデカくて、自分のことを「拙者」と言っているアイツだ。
というか、五分間のニュースなのに中継を繋ぐのか。さすがは台風接近地域、格が違ったというわけか……。
そんな冗談を思い浮かべていたら、ニュースはいつの間にか終わっていた。
そしてコマーシャルを挟む余地もなく、次の番組が始ま――らなかかった。
「うわっ、停電か!?」
僕は反射的に声を上げていた。
テレビや照明などが一斉に消え、視界が一瞬にして真っ暗闇になった。
どうするどうする!?
いや、だめだ。こういう時は慌てるのが最大の悪手だ。
僕はいったん息を整えてから、もう一度声を上げる。
「二人とも、落ち着――いてるね、うん。ごめん今のはナシで」
が、そうする必要はなかった。
暗闇だが二人とも近くに居たため、なんとなく姿は確認できた。慌てず騒がず、ソファにじっと座っていたのだ。
そうだ。二人はこういう状況で「キャー」とか叫ぶタイプじゃなかった。一番落ち着かないといけないのは僕だった。
改めて冷静になろう。冷静に。深呼吸。
……よし、もう大丈夫。
頭が冷えたら夜目も利いてきた。鷺沢さんをふと見ると、スマホを手に持とうとしていた。
「とりあえず、明かりを……」
「あ、待って。付けないで」
僕は鷺沢さんの手を言葉で止める。
多分、スマホのライトで周りを照らそうとしているのだろう。
ただ、電力がいつ復活するか分からないので、無駄にスマホの電池を使わせるのは避けたかった。
「でも、明かりはどうするの?」
「えーと、あの辺に多分アレが……」
そう言って僕は壁の端まで気をつけて向かい、戸棚の引き出しを開けた。あった。ろうそくだ。
ありがたいことに、マッチも入っている。さらに言うと線香なんかも入っていた。
ああ、なるほど。これは仏壇用の道具をひとまとめにしているんだな。
すいませんご先祖様、非常事態なので明かりとして使わせていただきます……。
僕はそう心の中で謝りつつ、ろうそく立てにろうそくをセットし、火を付けた。正直言ってまだ全然暗いままだが、足下くらいは見えるようになった。
続いてもう一本ろうそくに火を付けると、視界はだいぶ広がり、ソファに座っている二人の姿もぼんやり見えるようになった。
そうして作った二本の燭台は、夕食を食べた時に使ったテーブルの上に置いた。これで明かりの問題は解決かな?
さて、これからどうしようか。




