表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/34

夕食の時間

 僕もTシャツとハーフパンツに着替えた。完全にリラックスモードである。格好は仁科さんや鷺沢さんと同じなのに、どうしてこうも差があるのだろう。

 

 素材か? 素材の差か?

 やっぱり『ファッションは引き算説』より、『服は着る者を選ぶ説』の方が有力だったのか?

 

 おっと、今はそんなことはどうでもいいか。リビングに二人を待たせているから、早く行かなくては。

 



「フニャ~ン」


「よーしよし。キミ可愛いねえー」


 リビングの引き戸を開けるなり目に飛び込んできたのは、ウチの猫と鷺沢さんが戯れ合っている姿だった。猫の方は頭を撫でられ、いつもの変顔を晒している。

 

「キミの名前はなんていうのかなー?」


「ニャン太、だよ」


 僕は鷺沢さんの後ろから名前を伝えた。

 

「そっかー、ニャン太くんっていうんだねー……ん?」


 鷺沢さんは謎の声にやっと気づいたのか、後ろを振り向く。

 

「あ、影山くんも着替え終わったんだ」


「うん。ついさっきね。それよりも仁科さんの姿が見えないけど、どこに行ったの?」


「真央ちゃんなら晩ごはんの準備するからって、台所に行ったよ」


「え、晩ごはんを?」


 予想外なことだったので思わず聞き返したが、同時に仁科さんがすごく料理が上手いことを思い出していた。

 そうだ。つい最近、仁科さんに弁当を作ってもらったばかりじゃないか。


「それなら何か手伝った方がいいかな?」


「ううん。一人で大丈夫だって言ってたよ。それにね……」


「それに?」


「影山くんは絶対に台所に入れるな、って伝言を頼まれてたんだよね」


「ええっ、なんで!?」


「入ったら影山くんの分は抜き、とも言ってたよ」


 ……鶴の恩返しかな?

 でもまあいいや。手伝いに行ったところで邪魔になるだけだろうし、仁科さんに全部任せることにしよう。

 

「分かった。ここで待ってるよ」


「それじゃ、伝言は済ませたことだし……わたしはお洗濯とか、お風呂掃除とかしてくるね」


「いやいや! それくらいは僕がやっておくよ」


「いいのいいの。影山くんの家に避難させてもらってるわけだし、わたしも少しくらい役に立たなくちゃ」


 鷺沢さんは僕の制止を振り切り、引き戸に手をかけようとする。

 

「待って、鷺沢さんは病み上がりなんだから休んでてよ」

 

「ふふっ。みんな優しいね。真央ちゃんもそんなこと言ってた」


「だったら尚更……」


「でも安心して? もう大丈夫だから」


「そう? それなら……いいんだけど」


 僕はそう言って鷺沢さんの背中を見送った。

 リビングには僕とニャン太だけがポツンと残っている状況となった。


「ははっ、これじゃあどっちがお客さんか分からないな」


 とソファに腰を下ろしながらつぶやく。

 言われたとおりに黙って待ち続けていればいいのだろうが、どうにも落ち着かない。

 そのため立ったり座ったり、その辺をウロウロしたりを繰り返していた。

 

 部屋の外では二人が頑張ってくれている。僕にできることは、本当にないのか?

 

 ずっとそんなことを考えていたら、いつの間にかだいぶ時間が経っていた。リビングのドアが開き、スパイシーな香りと共に鷺沢さんが入ってきた。彼女の両手で一枚の皿を持っている。

 

「はーい、晩ごはんですよー」

 

「あれ? 洗濯だとか言ってなかったっけ」


「早めに終わったからね。料理を運ぶのを手伝うことにしたんだよ。ほら、美味しそうでしょ?」


 そう言って彼女は皿を見せてきた。目玉焼きが丁寧に載せられた、月見キーマカレーだった。

 

「本当だ、すごく美味しそう。……でも、ウチにキーマカレーなんてあったかな。いつの間に買ってたんだろう」


「それね、カレールーから作ったんだって」


「うそ!? カレールーから作れるの?」


「ほらほら。喋ってたら冷めちまうぞ」


 仁科さんがお盆を持ってやって来た。

 そのお盆の上には二枚のキーマカレーの皿や、人数分のスプーンがある。テーブルにお盆を置くなり、慣れた手付きでテキパキと並べ始めた。

 

「ああ、ごめんごめん」

 

 一歩遅れて、鷺沢さんも手に持っていた皿をテーブルに置く。

 準備ができたところで、各々が椅子に座った。僕の向かいに、仁科さんと鷺沢さんが並ぶような配置だ。

 

「冷蔵庫にあった材料で作ってみたんだ。カレールーはあったけど、肉がひき肉しかなかったからキーマカレーにしてみて……あ、卵の賞味期限が今日までだったから使わせてもらったぞ」


 仁科さんは饒舌に語る。なんというか、すごく生き生きしている。

 

「……って、おい影山。なにニヤニヤしてんだよ」


 あ。もしかして顔に出てたか?

 まあいい、素直に思ったことを言おう。別に悪いことじゃないんだし。


「いやあ、仁科さんは本当に料理が上手いんだなー、って」


「……っ! そ、そんなの食ってみなきゃ分かんねえだろ。だからとっとと食え」


「わ、分かったよ。それじゃ、いただきます。……あ、美味しい」


「本当か!? 隠し味に醤油をちょっと垂らして……って、またニヤニヤしやがって!」

 

 またしても仁科さんの気に触れてしまったようだ。

 ただ、二人の顔がよく見える位置にいる僕から言わせてもらうと、鷺沢さんの方がニヤニヤしていたように……見えなくもない。確信がないから口には出さなかったけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ