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今日はウチに父さんと母さんが帰ってこないんだ(深い意味はありません)

 話がまとまり、さっそく保健室を出ようとする仁科さんを、僕は呼び止める。

 

「ちょっと待って。教室に荷物置いてるから取ってこないと」


「別にいいだろ。外は土砂降りだし、教科書とか濡れてフニャフニャになっちまうぞ」


「……あっ」


 確かに、と思った。そういう機転が利くのは本当に感心する。

 

「ほら、霧子も。リュックなんか保健室に置いてけよ」


「そうしとくよ。でも、一応薬は持っていくね」


 鷺沢さんはリュックを隅の方に置き、中から薬の紙袋を取り出して、ポケットに仕舞い込んだ。

 

「よし。準備もできたし、今度こそ行こうか」


 仁科さんの合図と共に、三人揃って玄関まで歩いていった。

 

 ビュゴオオオオオオ!!

 

 と、雨と風が合わさったような音が近くなる。

 僕が先陣を切って外の軒下へ出ると、やはり雨風が激しく叩きつけてきた。

 特に風がキツイ。傘を差そうものなら、広げた瞬間に壊れるだろうし、最悪の場合体ごと吹き飛ばされる可能性もある。

 

「仕方ない、濡れることになるけど傘は差さずに行こう」


 僕は身の安全を考慮して、まだ中にいる二人に提案を持ちかけた。

 

「そうだな。どうせ濡れるんだし、差しても差さなくても同じか」


 仁科さんは差そうとした傘を戻した。鷺沢さんもコクリとうなずいて同意する。やがて二人も外に出てきた。

 

 三人固まった状態で学校の玄関を発ち、僕の家を目指す。

 毎日通っているお決まりのコースだが、今日はとんでもない悪路だ。

 強い横風をまともに受けながら、浅く水の張った道路をビチャビチャと進んでいく。

 靴の中に水が入ろうとお構いなしだ。もとよりタダで帰れるとは思ってなどいない。

 

 ……すまん、我がスニーカーよ。おまえの犠牲は無駄にはしない。

 

 そうしてやっと、我が家の前までたどり着けた。いつもは五分くらいで着く道だが、今回ばかりは倍近くかかった。

 

「早く中に!」


 そう言って玄関のドアを開けた。二人が家の中に入ったのを見届けてから、僕も中に入ってすぐさまドアを閉めた。

 

「はー、やっと落ち着けるな」


「そうだね。すごく助かったよ影山くん」


 二人は乱れた髪を整えたり、制服に染み込んだ水を落としながら言……い……

 

 ……はっ!

 

 僕は思わず視線を外した。見えた。……いや、何が透けて見えたかは言うつもりはないが、とにかく見えた。見るつもりはなかったが、見えたものは見えたんだから仕方ないな。

 

 それに、ずぶ濡れになったブラウスがべったり張り付き、上半身のラインをくっきりさせてしまっている。二人とも意外と……ある。……ああいや、何があるとは言わないが。

 

 というか、何を言っているんだ。何回「見えた」って言っているんだ。そんなことは今はどうでもいいんだ。

 

 気を取り直して(雑念を払って)、靴を脱ぎ家に上がった。靴下も濡れていたので裸足になった。

 

「二人も上がってよ。玄関に立ちっぱなしってのもなんだしさ」

 

 僕はできるだけ自然体を装って言った。ただし、彼女達に背中を向けての発言だったが。口調はごまかせても、視線や目の動きはごまかせない。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて。お邪魔しま~す」


「てか影山、なんでおまえ後ろ向いてんの?」


「…………」


 僕は無視を決め込んだ。

 背中越しからでも、家に入ったことは伝わってくる。横目でちらりと確認すると、二人も靴下を脱いで裸足になったところだった。

 そうして歩き出そうとすると、後ろから仁科さんの声が聞こえてきた。

 

「なあ、着替えとかってないか?」


「え、着替え!? あ、ああ、着替えね。着替え着替え……」


「あたし達ずぶ濡れだから――って、何慌ててんだよ」


 しまった。仁科さんからジトッとした目で睨まれているような気がする。どうやら僕は慌てると思った事を連呼する癖があるらしい。それが分かったところで、な気もするけど。

 

 それにしても着替えか……どうしよう。

 彼女達に着させられるような服なんて、ウチにはないぞ。

 年の近い姉か妹でもいればそこから借りればいいんだろうけど、あいにく僕は一人っ子だ。

 

 まあいい、こんな非常事態だ。ある程度のことは許容してもらえるだろう。そう前向きに捉え、衣類を収納している部屋の前まで案内した。

 

「とりあえず、この中で着替えてきてよ。適当に漁ってもらって構わないからさ」


 二人は了解し、部屋の中へと入っていった。

 

「あっ。言い忘れてたけど、ウチにある服にあんまり期待しないでよー」


 僕は壁の向こうの彼女達に対して声を張り上げた。すると、すぐに「大丈夫だー」と返って来た。

 ありがたい。遠慮して言ったのかも知れないが、これでひとまず安心だ。

 

 

 

 そして、待つこと約十分。

 同時に部屋から出てきた彼女達は、Tシャツにハーフパンツという究極にシンプルな格好をしていた。

 

 ……いい。すごくいい。

 僕は意表を突かれたような思いがした。まるで自宅で過ごす自分の姿……というかそのものなのに、すごく魅力的だ。リラックスするための格好なのに、どこか活動的な印象も受ける。

 

 なるほど、飾る必要なんてなかったんだ。ファッションは引き算とはよく言ったものだ。シンプルが故に、彼女達自身の魅力が引き立つというか何というか……本当に、すごくいい。

 

 僕は心の中でサムズアップをした。

 

「影山くん、なんで親指を立ててるの?」


 鷺沢さんが不思議そうに見つめてきた。

 はっ、と手元に目をやると、本当にサムズアップをしていた。

 ……嘘だろ?

 

「それはほら……次、僕が部屋に入るよっていう意味だよ」


 そう言って親指の先をぐいっと扉の方へ向けた。

 つくづく僕はごまかすのが下手だな、と思うのだった。

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