立入禁止の屋上に立ち入ろうとする二人
今週の金曜日も、先週に劣らず激動の一日だった。だから土日は家から一歩も出ずに安静に過ごした。強烈な既視感があるが、気にしてはいけない。
そして月曜日。少し早めに登校し、約束通り鷺沢さんに借りた百円を返す。その際、例のアイコンについての詳細を聞くことはできなかった。
読書中の彼女を邪魔するのも野暮だし、なんというか人の過去を聞くというのは気が引けた。
その後、始業のチャイムが鳴り始めたので、大人しく自分の席に着くことにした。
隣には本人がいるものの、やはり聞き出すことはできないだろう。
人の過去は入れるスペースが限られているのだ。勝手にズカズカ入られて気持ちいいわけがない。
それは、僕も同じ。むしろ、僕だからこそよく知っている。
そんな思いを抱えながら、月曜の学校は終わった。
火曜も同じだった。
水曜も同じ。
木よ――
「影山。最近なんか様子がおかしいぞ」
木曜、昼休みに入った直後。仁科さんが怪訝そうに、隣の席から話しかけてきた。
アイコンの黒髪眼鏡少女と、目の前の彼女との顔がリンクしそうになり、小さく首を振って打ち消す。
あ、いや、まあ……同一人物らしいが。
「なんでもないよ」
僕はできる限り自然な口調で返すことを心がけた。しかし、仁科さんは言葉の裏を読んできた。
「おまえの『なんでもない』は『なんでもなくない』んだよ」
ぐっ、鋭い。……仕方ないな。
僕は観念し、スマホを取り出し、例のアイコンを表示させた。二人の少女が写っていて、片方が鷺沢さん、もう片方が仁科さんと思われる自撮り写真だ。
「ほら、これだよ。このアイコンの左側が仁科さん……なんだよね?」
「ああ、それか」
あれ、普通の反応だな、と僕は思った。てっきり睨んでくるかと思っていた。
それか恥ずかしがるか。まあこっちは大穴予想だけど。
「それはだな――」
仁科さんは詳細を非常に簡潔に、そして平坦な口調で教えてくれた。
その写真が撮られた時期は中学二年の頃。高校入学を機に眼鏡をコンタクトに変え、さらに髪も金色に染めたらしい。そうやって自分を大きく変えられる彼女だから、性格は今も昔も変わっていないように思える。
真面目そうな見た目だけど、言葉遣いはぶっきらぼう……。それはそれで……。
……おっと、話がそれた。まあここに関しては別に重要ではない。そう言うと語弊がありそうだが、これまでの情報はだいたい察しのつくことだ。
重要なのは、仁科さんが最後にぽつりと漏らした言葉だ。
「まあ、これは皆知ってることだけどな」
あー今まで悩んでいた自分が馬鹿らしいっ。
こんな投げやりな感じになっているのには、もちろん理由があってのことだ。
聞くところによると、LINEにはクラスのグループなるものが存在しており、クラスメイトの大半が所属しているのだとか。
その中には鷺沢さんも含まれているため、だいたい一回はアイコンを見ているでしょってことだ。
それにしてもクラスのLINEグループか……。
毎日学校で顔を合わせているのに、ネットでも顔を合わせていたら休まる時間がないじゃないか。
と、考えているからおまえはボッチなんだと言われたら反論は出来ないが。
「入るつもりなら招待するけど」仁科さんが僕に言ってきた。
「気持ちだけ受け取っとく。どうせ入っても何もしゃべらないだろうし」
「そっか。ま、あたしも似たようなもんだ。とりあえずで入ってるだけだしな」
仁科さんはそう言った直後、流れを変えるように「で、」と口にする。
「あたしの秘密も教えてやったことだし、屋上までついてこいよ。そこで昼飯だ」
「えっ、屋上?」
思わずオウム返しになる。
前後の言葉が繋がっていないし、何より屋上は立入禁止のはずだ。
いや、違う。
仁科さんはこの前、屋上に入っていたことを白状していた。
彼女は何かしらの手段で、鍵のかかった扉を突破しているのだ。
合鍵? ピッキング? まさかの力ずく?
……まずいな、どれもやっている姿が簡単に想像できる。でも、とりあえず行くしかないか。
そうして席から離れた時、すでにだいぶ出遅れていた。すぐ後ろの戸の辺りから、ふと仁科さんの声がする。
「何やってんだ、早くしろよ」
「ああ、ごめん」
僕は弁当袋を手に持ちながら返事をした。すると仁科さんは、
「……次はおまえの番だからな」
と不穏な一言を残して教室を出ていった。
「……えっ」
聞き返そうにも、相手はもういない。
僕は不安を胸に抱えながら、彼女の背中を追っていくのだった。




