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脱出計画~決行~

 僕達は自然にお互いの顔を合わせ、頷き合う。

 ごく簡単な脱出プランが、六曲目の開始を待つまでもなく立てられた。

 

 二人同時に部屋を出るのはあまりに不自然なので、約一分の間隔を空けて一人ずつ出る。あとは玄関で落ち合う。

 

 作戦は以上。まあ部屋を出るだけだしね。こんな内容なんて無いような作戦になるのは至極当然だ。

 

 ちなみに順番は公正なる審査(ジャンケン)の結果、僕が最初に出ることとなった。なぜこういう時だけ勝ってしまうのだろう。

 

『♪~』

 

 そうしているうちに六曲目が始まり、視線を前に戻すと、大倉がマイクをガッチリ握っているのが見えた。選曲はなんと演歌。おいおい、そこはアニソンだろ。おまえは変化球投げなくていいから……。

 

 と、冗談はそこそこにして、僕は作戦を決行するために立ち上がった。自然な足取りを意識してドアまで歩く。

 

 すまない、大倉。途中で離脱する失礼を許してくれ。部屋代は僕も支払い済みだし、いいよな……?

 

 僕はドアまでのたった数メートルの間、何度も謝り続けていた。

 

 そして部屋の外に出ると、こぶしの効いた歌声が遠くに消えた。通路を進み、角を曲がると玄関だ。僕はそこの壁に背をもたれて、鷺沢さんを待つことにした。

 

 手筈通りなら一分後に来るはずだ。しかし、こういう一分というのは長く感じるもので、ご多分に漏れず僕も待ちぼうけを食らっている気がしてきた。

 

 一分が三分に感じる。……あれ、本当に遅くないか? もしかして、騙され――と不安になるのもつかの間。

 

「ごめん。待ってたでしょ」

 

 鷺沢さんが曲がり角からひょっこり姿を表した。

 

「いや、そんなことより僕を殴ってほしい」




「…………えっ」


 数秒後、僕は先程の発言をひどく後悔することになる。『一瞬でも鷺沢さんを疑った自分へのけじめ』的な意味でとっさに出た言葉だったが、ふたを開けてみればあら不思議。実際は僕がただのドM豚野郎にしか取れない発言をぶつけていたのである。会話慣れしていないツケがとうとう回ってきたか、て感じ。

 

 鷺沢さんは明らかに部屋に引き返そうとしている。僕はすぐさま事情を説明し、彼女を引き止めるに至った。

 

「冗談だよ、冗談。ちょっとからかってみただけだよ。ほら、行こっ」


 そのわりにはガチトーンの「えっ」だったんですけどね。まあ本当に引き返さなくて何よりですが。

 

 それで鷺沢さんが言うには、僕はどうやら本当に三分間待っていたらしい。体感的にではなく。

 

 なぜ遅れたのかは、カラオケを出て、歩いている最中に教えてくれた。

 

 簡単にまとめると、部屋を出る際、他のクラスの女子に呼び止められたからだ。それで鷺沢さんは「ちょっと気分が優れなくて……」と言ったそうな。すると相手の女子は「わたしもついていこうか?」と心配したため、話がこじれてしまったとのこと。

 

 一人で部屋を出ないと計画が破綻してしまうからなぁ。どうやって相手を説得したのだろう。ただ、それを聞いても「秘密」としか返してくれなかった。

 

 

「それよりもさ。風、気持ちいいよね。なんだか本当に体調が良くなったみたい」


 鷺沢さんは、髪をなびかせながらそう言った。僕は青い空を見上げながら、確かに、と思った。

 

「そうだね。で、鷺沢さんはどこに向かって歩いてるの?」


「……あれ? 影山くんがどこかに連れてくれるんじゃなかったの?」


「えっ」

「えっ」


「……」

「……」


 二人とも同時に立ち止まった。鷺沢さんの頭の上には透明な『?』マークが出ている。おそらく僕の頭の上にも出ている。

 

「おかしいなぁ。わたしは影山くんについていったつもりなのに」


「それを言うなら僕だって、鷺沢さんの少し後ろを歩いてたつもりなのに」


「でもほら、見てよ。わたし達、横一列で歩いてたみたいだよ」


「……本当だ」


 自分達の靴の位置を確認すると、確かに寸分違わず足並みが揃っていた。お互いがお互いを追っている間に、気づかず隣り合っていたらしい。

 

 ちょっとした勘違いなのに、すごく可笑しく感じるのはなぜだろう。それと同時に腹をくすぐられたような感覚が声として出そうになるのもなぜだろう。

 

 最初こそ喉元でグッと抑えていたが、鷺沢さんと目が合った瞬間、コップから水が溢れるかのようにドッと笑い声として出てしまった。彼女も同様に笑っていた。

 

 

「ということはさ、影山くんが訊いてなかったらどこまでも行ってたってこと?」


「それは無い……とは言い切れないな……」


「ふふっ、ファインプレーだったね」


「いや、僕がちゃんと行き先を決めてればよかっただけだよ」


「でも、それじゃこんなに面白いことにはならなかったよ?」


「じゃ、結果オーライってことで。……行き先どうしようか」


「この近くに公園なかった?」


「あ、そういえばあった気がする」


「決まりだね。それじゃ、公園にれっつごー」


 一連の会話を終えた僕達は、えらく気の抜けた掛け声と共に、目的地へと歩き始めた。

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