抜け出しちゃおっか
お互い言いたいことが多かったのか、二曲目が始まってからも話は(申し訳ないと思いつつ)続く。
「鷺沢さんはカラオケにはよく来るほう?」
「ううん。影山くんは?」
「僕もそんなに。第一、人前で歌うの苦手だしさ」
「だよね、わかるよ。わたしもそんな感じ」
……鷺沢さんに対して急に親近感が湧いてきた。なんだろう、この感覚は。同類が現れたとも言うべきか。
ともかく近しい感覚を共有できる相手がいてホッとしている自分がいるのは間違いない。
「なんか、安心した」
だからつい油断して、心の声が口から出てしまっていた。その「うっかり」は当然のごとく鷺沢さんに拾われてしまう。
「安心? どうして?」
「あ、いや……同じ考えの仲間がいて嬉しかったというか何というか……」
一瞬とまどったが、上手く返せはしたはず。仲間……少し気恥ずかしいが、「同類」よりはマシじゃないか?
「あー、それもわかる気がする。なんかさ、影山くんと話してるとすごく落ち着くんだよね。これって、わたしも安心してる……ってことでいいのかな」
「うーむ、なかなか返答に困るな……。まあでも、鷺沢さんがそう思うなら安心してるってことでいいんじゃないかな」
「よかった。影山くんの言葉を借りるならわたし達はアレだね。……同類? だっけ?」
「仲間、だよ……。ナ・カ・マ」
「そうだったそうだった。仲間。えへへ……」
鷺沢さんは控えめな微笑みを浮かべた。
どうも僕は彼女のペースに乗せられている気がする。そうでなきゃ「仲間」というワードを再び出してツッコんだりなどしない。
でもそれは心にゆとりが持てている証拠だろう。彼女も言ってた通り、僕も鷺沢さんと話している時はすごく落ち着く。話す前は手汗がびっしょりだったのに、今はもう乾いている。
僕はカラオケに来ているはずだが、歌なんかより会話の方に集中していた。何を歌っていたかなんて知らない。もうここは蚊帳の内側だ。
で、蚊帳の外では二曲目はおろか三曲目まで終わり、他のクラスの誰かから他のクラスの誰かにバトンタッチしていたようである。
やがて四曲目にもイントロがかかる。アニソンだった。しかも去年の夏にやってた、比較的新しめの。
そんな調子なので、二曲目、三曲目もアニソンだったのだろう。まあ、このメンツなら想像できることか。
そして歌い出しから数秒後、唐突に鷺沢さんがつぶやく。
「あ、この曲……」
「知ってるの?」
「うん、観てたから。『はたらけ参謀』のオープニングだよね」
別に驚きはしなかった。大中小トリオほどではないにしろ、鷺沢さんがアニメに対して造詣があることを知っているからだ。
そんなことより僕は再びカラオケに意識が向いていた。『はたらけ参謀』は人気アニメなだけあって、モニターではキャラ達が動き回るという特別演出がなされている。
僕達はそれを観ながら、『参謀』談義に花を咲かせていた。モニターに新たなキャラが映るたびに、名前がどうだの何話に出ただの、中の人は誰だの……おおよそカラオケでするような内容ではないことは確かだ。
こういう実も他愛もない話をしていると、小学生の頃を思い出す。あの頃は自分もそこまで陰キャではなく、友達とTV番組やゲームについて語り合ったものだ。こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と本気で考えていた時期でもあった。実際は……まあ……。
それはさておき、とても楽しい四分間だった(小学生並みの感想)。合いの手を入れる場面では、僕と鷺沢さんも加わり八人での『はたらけ!』コール。特定の人物に大ダメージを与えそうだ。
そして感傷に浸る間もなくバトンタッチ。他のクラスの誰かから、他のクラスの女子にマイクが手渡された。それから数秒後、僕ですら知らないアニソンのイントロが流れる。
「これで何曲目?」
鷺沢さんが質問してくる。
「五曲目、だね。今のところ一人一曲歌ってる感じ」
「もうそんなにいってたんだ。……ちょっとマズイかも」
「……確かに」
僕には鷺沢さんの言う「マズイ」の意味が分かった。このまま進めば僕と鷺沢さんだけが歌っていない状況になる。
するとどうなる。
そう、催促されてしまうのだ。「歌わないの?」という悪魔の囁きを引っさげて。気を遣っているのかも知れないが、正直構わないでくれと切に願う。
彼らの目からすれば、楽しんでいないように見えるだろう。でも実際は意外と楽しんでいるんだ。さっきの合いの手を入れる僕らを見れば分かるだろう?
「ごまかすにしても、わたしと影山くんの二人じゃ厳しいかもね」
「まあ、すごく不自然に見えるだろうな~」
「でも、わたしにいい考えがあるんだ」
「奇遇だね。僕も今、いい考えが浮かんだところだよ」
「じゃあさ、今やってる曲が終わったら、同時に言ってみようよ」
「……分かった」
「「抜け出しちゃおっか」」




