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花の金曜日、何かが起こる金曜日

 月曜以降、鳴りを潜めていた男が再び動き出した。無駄にデカイ体を揺らし、帰る間際の僕に声をかけてきた。そいつと話すのは久しぶりな気もするし、そうじゃない気もする。

 

「影山殿、花金ですぞ! というわけでカラオケでもご一緒にいかがですかな?」


 大倉である。というか、花金っておまえ……何年生まれだよ。僕はたまたま意味を知っていたからいいものの、他のクラスメイトには伝わらないと思うぞ、それ。

(花金=花の金曜日。明日は休みだからパァーと遊ぼうの意)

 

「ね、行きましょう、ねっ?」


「……分かった、行くよ」


 あまり乗り気ではなかったが、大倉の熱意に免じて従うことにした。最近の放課後は時間が余っているので、付き合うのも悪くはないかも知れない。

 

 でもカラオケか……。

 その行き先は僕が乗り気でない要因の一つだ。

 

 一応カラオケには行ったことはある。一曲たりとも歌いはしていないが。

 

 そもそも人前で歌声を披露する以上の恥辱がこの世にあるだろうか。いや、ないね。

 

「オッケイ! では、二丁目のカラオケ店で落ち合いましょうぞ!!」


 それにしてもこの男、ノリノリである。別にいつものことだが今日は特に活きが良い。

 

 これで大倉から誘いを受けるのは二度目だ。それを意識すると、どうしても最初に拒絶したことを思い出す。今回の誘いを許諾したのは、熱意に負けたからではなく、実際は大倉に悲しい顔をさせたくないからというのが本音だろう。

 

 その件はすでに精算できたはずだが、どうも慣れないな。

 

「それではまた! 九人も集まるから楽しみですな~!」


 そうして大倉はルンルンと教室を出ていった。

 

 ……九人?

 

 

 

 ◆

 

 

 

 薄々気づいていたことではあるが、大倉には謎のカリスマ性がある。それを発揮する場面は多々見てきたつもりだ。だが、今回の()()は今までの()()を大きく凌駕していた。

 

 とあるカラオケ店の一室。そこそこ広めなその部屋には、僕を含めて「九人」の高校生が集結していた。

 

 ……聞き違いではなかった。

 

 いつもの大中小トリオはもちろんのこと、他のクラスの連中、さらには女子までいる……三人も。

 

 しかもその三人の女子のうち、一人は僕のよく知る人物だった。

 

 

「ごめん、遅れちゃった」


 今から少し前に、そう言って最後に入ってきた九人目――鷺沢霧子。遅れたとは言っても、八番目に来た僕から数えて五分も経っていない。

 

 彼女は部屋に入るなり立ち止まって辺りを見回す。そして再び動き出すと、僕の隣へと座った。

 

 それは別に不自然なことではない。空いていたのが僕の隣しかなかったからだ。人見知りを発動し、少し離れた所に陣取ったのがこの結果を招いたと言える。おかげで僕の手のひらは汗でびっしょりだ。そう、不自然なほどに。

 

「影山くんも来てたんだ」


「まあ……ね。鷺沢さんも大倉に呼ばれて?」


「うん。皆と同じくね」


 意外っちゃあ意外だが、そこまでではなかった。鷺沢さんと大倉には接点があったからだ。放課後に大中小トリオと何度かやり取りをしているのを耳にしている。最近は僕側の事情(放課後にすぐ帰るようになったこと)で知らないけど。

 

 そうして一言二言交わしているうちに、トップバッターがモニターの前へと立った。あれは……そうそう、大中小トリオの一角、中村だ。

 

「いやあ、自分が最初なんて緊張するな~」

 

 僕よりはマシだろうが、中村は背丈から何まで平均的であまり印象にない。声をまともに聞いたのも初めてな気がする。

 

 選曲もわりと定番なアニソンだが、一発目ということで僕達は会話をやめ、彼がマイクを手に取るのを黙って見つめていた。

 

 

『あーあー。コホン…………いくぞオメェラアアアーーー!!』


「――!?」

 

 多分、この場にいるほとんどが体をビクッとさせた。中村のシャウトと共にイントロが流れ出したが、残念ながら頭に入ることはない。

 

『俺の歌を聴けえええええーーー!!』


 再びシャウト。直後、モニター上に歌詞が現れ、中村は大胆なアレンジで熱唱を開始した。

 

「いいぞー中村ァー!」

 

 周りは最初こそ圧倒されていたが、次第にリズムに合わせて腕を振ったり、合いの手を入れるようになっていった。そして約四分後、熱狂度は最高潮を保ったまま一曲目が終わった。

 

「すごかったね……その、色々と」


「マイク持ったら性格変わるやつが実在するなんて……」


「みんな、あんな風になっちゃうの?」


「いやー……たぶん中村だけだと思うけどなぁ」


 そんな中で僕と鷺沢さんの二人だけは、未だに圧倒されたままだった。

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