野郎共の昼下がり(後編)
「あれは先週金曜の夕方――」
宣言どおり大倉はなめらかに語りだした。周りは僕を含め、昼食を食べながら大倉の言葉に耳を傾けている。
「中村殿と小林殿、それから拙者の三人で、秘密の月イチ会合を行っていたのです。場所は校舎裏の建物と建物の間……静かで落ち着く路地裏のような所です」
こいつら、いっつも集まってんな。それなのに秘密の何とやらをやる必要あるのか?
周りからはその答えがNOであること示すかのように「いや自分で秘密って言うなよっ」というツッコミが入る。直後、そのやり取りに釣られて笑いが起こり、少し固かった雰囲気が和らいだ。
……上手いな。話作りのいろはを心得てやがる。計算なのか天然なのか分からないが、今ので聴衆のハートを鷲掴みだ。
笑いがいったん収まると、大倉は再び話し始める。
「それで我々が意見を交えていると、路地裏奥の暗がりから怪しい五人組が……! 彼奴らの姿があらわになった時、拙者……恥ずかしながら身震いがしましたな。明らかに『関わったらヤベー』集団だったのですから……」
さっきまでとは空気が一転。中には食事の手を止めてまで聞き入っているやつもいる。
「彼奴らは横暴にも金銭を要求してきたのです。言うとおりにすれば何もしないとも話しておりましたな。しかし、拙者にはその言葉が真には思えず、仮に真だったとしても一度金を差し出せば『いい金ヅル』だと判断されてしまう。ですので拙者は決死の覚悟で抵抗する道を選んだのです!」
なるほどな。大倉にも考えがあって抵抗してたのか。すまなかった、前に馬鹿だと思ったのは撤回しよう。あとはやたら仰々しい語り口調をやめれば完璧なんだが。
「正直いますぐにでも逃げ出したい……助けを求めたい……。そうは思っても、場所はめったに人が通らない校舎裏。望みが薄く、諦めかけていたのですが、そこに一筋の光が! そう、人が通ったのです! 二人組の男女と……ここにおわす影山殿が!」
なっ……! 気づかれていたのか……!
まずい。それなら僕が隠れていたこともバレている。
このまま大倉が話を進めれば確実にそのことに触れてくる。止めるべきか……いや、止めたとしてその先はどうなる。ただただ不審感が募るばかりじゃないのか?
そうやって決めあぐねる僕を差し置き、大倉は話の続きをしてしまう。
「責める気はありませんが、二人組の男女はこちらを見るなり足早に去ってしまわれました。ですが影山殿は別……なにか機をうかがうように、こちらを注意深く観察していました。おそらく悪輩共が手を出すという決定的な犯行の瞬間を待っていたのでしょう。そうなれば言い逃れができなくなりますからなあ!」
おや? なんだか都合のいいように解釈してくれているぞ?
とりあえず、ここはそっとしておこう。その方が僕にも都合がいい。
「案の定、拙者は暴力を受けることになります。腹に蹴りを一発、ガスッと……。ですが不思議と怖くありませんでした。それは当然、影山殿が付いているのですから! そして数発殴られた後、とうとう影山殿が登場します。『俺のダチに手を出すんじゃねえ』というイカしたセリフを引っさげて……!」
はいダウト。
いつかやらかすと思っていたが、とうとう尻尾を出したな。
「……おい大倉」
僕は話を中断させた。幸いにも今はギャラリーが盛り上がっており、中断させても差し支えはなかった。
「ん? なんですかな影山殿」
素知らぬ顔で大倉は振り向く。その目には一切の曇りがない。
だいたい何だ『俺のダチに手を出すんじゃねえ』って。かすりもしていないじゃないか。口調も全然違うし。本家はもっと頼りない感じだったぞ。
ただ、いちいち指摘しても仕方ないので、簡潔に忠告するに留めることにした。
「おまえが話してくれるのはありがたいが、ちゃんと正確に言ってくれないか。たとえそれがみっともない結果だとしてもだ」
「し、失礼いたしました。どうやら記憶の齟齬があったようです。今後は気をつけます」
これでもう大丈夫だ……とは思えないのが大倉の怖い所である。決して悪いやつではないが、どうも信用するにはあと一歩足りない。
と言ってもこれ以上話を中断させるわけにはいかず、忠告はここでやめることにした。大倉は再び向き直り、話を展開させる。
「まあ結論から申し上げますが……影山殿は負けてしまいます。ここは皆さんもご存知でしょうが、肝心なのは結果よりも内容! なんと影山殿は我々の身を案じて『ここは俺に任せてさっさと逃げやがれ!』と言ってくれたのです!
しかしこの不肖大倉、逃げるという行為を良しとしませんでした。すると影山殿は『状況わかってんのか! もっと自分を大切にしやがれ!』と一喝し、中村殿と小林殿に拙者を運ばせるよう指示したのです。あの時の拙者は実に愚かでした。影山殿の御言葉により、意固地な自分に気づかされたのです。ありがとうございます影山殿……あなたは拙者の恩人でございます~~!」
またやりやがった。いくらなんでも盛りすぎだろ。だがそれを突っ込む余裕は、大倉の迫真の演技とマシンガントークによってかき消されてしまった。
だいたいそんなハードボイルドなことを僕が言うと思っているのか?
……あれ、もしかしたら言ったかも知れない。よく考えたら不良共に叫んだ後の記憶は曖昧だ。前半部分は確実に言っていないが、後半部分は似たようなことを言った気もする。
その辺の記憶を探ろうにも、周りが「すげー!」だの「かっけー!」だのうるさくてできやしない。
「どうでしたか、影山殿。出来る限り正確に伝えてみたつもりです。ちょっと拙者の悪い癖で無意識に盛ってしまった所もありますが……」
大倉、おまえがノンフィクション作家になれないことはよーーーく分かった。
まあでも……よくやってくれた、とも思う。だから僕は素直に、
「最高だった」
と伝えた。何が最高だったかは伏せておくとして。
「当然のことをしたまでです。なにせ、影山殿は拙者の恩人ですからな」
それを聞いた大倉は何のためらいもなく気恥ずかしいセリフを言う。そんな面と向かって言われたら、こっちも恥ずかしくなってしまうじゃないか。
それにしても恩人か……。さっきも使っていたし、気に入ったんだな、その言葉。
なら僕もその言葉を使わせてもらおう。僕の恩人は……大倉、おまえが今座っている席の人物だ。誇ることじゃないが、僕には二人もいるぞ。しかももう一人の方も、かつてその席の場所にいた。
だから、大倉……おまえに頼みがある。
「おっと、もうこんな時間! 話に夢中になりすぎましたな。拙者も早く弁当を食さねば!」
……もっと落ち着いて食べてくれ。米が一粒、机の上に落ちてんだよ。
仕方ない。後でこっそり取り除いて、ティッシュで拭いておこう。
はあ、とにかく騒がしい昼食だった。こんなの初めてだ。
だけど、こんな時間も……たまにはいいものだ。




