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第9話 交差する思い


「・・・はぁ、こんなに遠く移動しなくても」


そんな事を愚痴りながら、手のひらの上にある羅針盤の赤い針が指す方へ足を進める。


自分の右眼を悠翔と呼ばれるサイコ野郎から抜かれた後、自分が持って行きたい物と全財産を持って来いと私は言われ、この魔道具を渡された。


それからまぁ、隠れ蓑にしているソープから抜ける時に私を脅して来た経営者の一人を短剣で刺し殺して、そいつの金を奪ったりとか色々しながら、今は悠翔の所へ向かっている。


(さーて、これからどうなるのかな〜?)


これから自分はどうなって行くのだろうかと疑問に思いながら足を進めていると、急に右肩に大きな物がぶつかってしまう。


「おっと」


転ばないように右足で踏ん張りながら、ぶつかった方に視界を向けて見てみると、そこにはただの木があった。


(右眼が無いと・・・不便だなぁ)


自分の右眼が無い事に違和感を覚えながら、右側を気をつけながら赤い針が指す方へ向かっていると、大きな池の様な場所にオレンジ色のテントが張られており、そのテントの前に組み立て用の椅子に座っている全身真っ黒な服を着た悠翔が見えた。


「来たか」


「はい、来ましたよ〜」


こちらに顔を向ける悠翔に笑顔を返し、自分の全財産が入った袋を悠翔の足元に投げつける。


「それ、私の全財産です。ちょっとした収入もあったので、金貨100枚くらいはありますよ〜」


「・・・そうか、なら自分で持ってろ」


(んっ?)


全財産を持って来いと言う命令は、前金を持って来いと言われたと思っていたため、その言葉はとても意外だった。


「あれ?お金欲しいんじゃなかったんですか?」


「いや、金には困って無いからな」


金には困っていないと言う悠翔を羨ましいなと思いながら、悠翔の周りを見渡して見ると、ある違和感に気が付いた。


「あれ?一人で旅なんですか?てっきりあの女が居るかと思ったんですが?」


「いや、あの人が俺を助けてくれたのは偶然あそこに居てくれたからだ」


その言葉に少し安心してしまうが、これからの私の仕事が知りたく、それを悠翔に聞いてみる。


「それで? 私は何をすれば良いんですか?」


「・・・この中に子供が居る。そいつの世話をしてくれればそれで良い」


「んっ?」


そんな簡単過ぎる仕事の内容を聞いて、少しの間だけ呆然としてしまう。


「・・・えっ? 荷物持ちとか鬱憤を晴らす道具じゃ無いんですか?」


「いや・・・それだけだ」


拍子抜け過ぎる自分の仕事に裏があるんじゃ無いかと言う考えが頭の中を駆け巡り、慎重に、悠翔の機嫌を損ねない様にしながら会話を続ける。


「・・・子供と言う名の巨漢とかですか?」


「いや、本当に子供だ。女だから男が世話するのはあれだからな」


そんなしょうもない仕事で良いのかとさらなる疑問が頭の中を駆け巡るが、本当にそれだけなのなら裏で生きるよりよっぽど楽だと感じ、自然と口角が上がってしまう。


「はい、かしこまりました。私にお任せ下さい」


「ならさっそく世話を頼む。俺は今から街に戻る」


「・・・はい?」


せっかく街を出たのに、また街に戻るのかと少し疑問に思ってしまうが、そんな事よりも悠翔がこの場から離れると言う事は、離れても構わないと言う意味でもあり、少し探りを入れてみる。


「あれ? そんな事したら全部の荷物持ってばっくれますけど?」


自分に何かされているのは確実だから、それが何か明確にする為にそう聞いてみると、悠翔はため息を吐きながら右腕の袖をめくり、そこから赤黒い植物の蔓を蠢かせた。


「この蔓を埋め込んだから安心しろ。これでお前が何処に居るか分かるし、いざとなったらお前の心肺活動を止れるからな」


(流石にそれくらいしてるよね〜)


とりあえず自分は逃げれず、いざとなれば殺されると言う現状を理解してから、悠翔に向かって笑みを向ける。


「了解しました〜。では、行ってらっしゃいませ〜」


「・・・よろしく頼んだ。後、お前は俺の仲間って言う設定で、俺は用事があって一旦帰るって事にしとってくれ」


「分かりました〜」


自分の命が握られているのならば、相手が逆上しない様に命令に大人しく従う方が得策だと考え、悠翔に頭を下げる。


すると悠翔は私の隣を手ぶらで横切り、森の中へ向かっていく。


(・・・さてと、女の子とご対面と行きますか)


悠翔がこの場から消えた事を確認し、自分が忠実だとアピールするためにさっそく子供の世話をしようとテントのジッパーを開いてみると、そこには枕に小さな頭を置き、白い毛布の中で包まっている、12歳くらいの黒髪の小さな女の子が居た。


(・・・ロリコンなのかな?)


あの男にこんな性癖があるのかと意外に思っていると、女の子は日の光を感じたのかゆっくりと体を起こし、私の方にぼやけた眼を向けてきた。


すると急に驚いた様な顔をし、慌てて毛布を体に抱き寄せた。


「ふぇ!?ど、どちら様ですか!!?」


「あー・・・起こしてごめんね。私は悠翔の仲間なんだ」


「あ、貴方が悠翔さんが言ってた人なんですね。えっと・・・これからよろしくお願いします」


悠翔に似た服を着た女の子は私に丁寧にお辞儀をすると、そのまま可愛らしい笑みをこちらに向けられ、私まで頰が緩んでしまう。


「うん、こちらこそよろしくね」


自分が思っていたより平和そうな仕事に内心喜んでしまうが、それとは反対に何が起こっても良いようにと、これから起こる最悪な事を想像をしながら、作った笑みを少女に向けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの、煌さん。もうそろそろ正午ですよ」


ソファに膝をついて寝ている煌さんに、声を掛けながら体を揺さぶると、煌さんは体をビクつかせる様に起き、なにかを探す様に辺りを見回しはじめた。


「あの、どうかしました?」


「いや・・・家族の夢を見ててな」


その言葉に胸奥に嫌な感情が漂い始め、眉をひそめてしまう。


煌さんの血縁はΜοῖρα[モイラ]というブラックリストに載っている血縁らしく、それが原因でゼウス達に追われる身になったらしい。


それを匿ったお嫁さんは捕まって処刑され、煌さんだけは命からがらこの街に逃げてきたらしい。


それは私も同じ様なもので、旦那と子供の血縁がブラックリストに登録されてしまい、2人とも殺された。


だからこそ煌さんとはあいつらへの復讐の為に生きる、いわば同士の様なものだ。


「大丈夫ですよ。もうすぐ・・・報われますから」


「あぁ・・・長かったな」


煌さんの肩に触れ、宥めるように自分の体温を煌さんに伝えていると、入口の扉が突然開かれ、焦りながら慌てて煌さんの肩から手を離す。


「あっ・・・俺お邪魔でした?」


「いや、そんな事は無い」


地下室の出入り口を閉めに行ってくれた、赤髪の(あきら)に煌さんは手を組んで他愛のない言葉を投げると、今度は大きなため息を吐き、少し悲しそうな笑みを浮かべた。


「2人とも、よくここまで付いてきてくれたな」


そんな煌さんの改まったような態度に、本当にここまで来たんだなと改めて実感してしまい、気をさらに引き締める。


「必ず、成功させましょう」


「あいつらに目に物みせてやりましょうよ!」


「・・・あぁ」


私達の言葉に煌さんは少しだけ笑うと、煌さんは私の肩を持って立ち上がり、真っ直ぐな笑顔を私達に見せて来た。


「さぁ、始めようか。輝!!」


「おう!任せろ!!」


輝はそう声を張ると、黒い眼を一気に赤く染め、眼を閉じた。


確か輝の血縁はCacus[カークス]と呼ばれる盗賊の巨人らしく、爆炎を閉じ込めた小さな壺を作れるらしい。


今回の作戦の手順としては、まず輝が血縁の力で街を崩壊させてパニックを起こし、私のΑἰθήρ[アイテール]の力で街に結界を張って逃亡を阻止する。


そして煌さんが無常の花を地上に咲かせて血縁の力を封じてから、上にいる仲間達が、数多もの銃で上にいる奴らを制圧するというものだ。


だからこそ私達の役目は、血縁の力を使って見つからないよう、死なないようにこの地下室に隠れている事だ。


そんな今回の作戦を頭の中で振り返っていると、急に地面が勢いよく揺れ、尻餅をついてしまう。


「いっ」


「・・・大丈夫か?」


「あ、はい。ありがとうございます」


右手を差し伸ばしてくれる煌さんにお礼を言い、差し出された右手を取って立ち上がると、肩をポンと叩かれ、真っ直ぐで真剣な顔を私に向けて来た。


「頼んだぞ」


「っ、はい!!」


自分を心を叩き上げる様にして声を張り、体の力を抜いて眼を閉じる。


しばらく暗闇と自分の心音を感じていると、この街を上空から見る様な景色が暗闇に浮かび上がり、その街を青色の結界が覆う様に想像すると、体からごっそりと何かが持って行かれた様な感覚が体を襲い、尻餅をまた付いてしまう、


「はぁ、はぁ」


「ほい、水」


「あ、ありがとう」


水を汲んでくれた輝にお礼を言い、グラスに注がれた水をゆっくりと飲んでいると、前に立っている煌さんの黒い服の糸がほどけて行き、その糸達が唸り上げて外へと繋がる細いパイプに通って行った。


それが煌さんの白いワイシャツが見えるほどまで続くと、煌さんは大きなため息を吐き、体を倒す様にしてソファーに座り込んだ。


「ふぅ・・・後は上にいる奴らに任せるしかねぇから適当にくつろいでおけ」


「了解、です」


「分かりました」


煌さんの言葉に従い、大人しく空いているソファーに水を飲みながら座ると、誰かの声が頭に響いた。


誰かの悲鳴。


誰かの困惑している声。


子供の・・・泣き叫ぶ声。


その声を聞いた瞬間、胃から何かが込み上がり、それを間一髪のところで口を押さえて堪える。


(うっ、っ)


それを無理やり胃の中に戻すと、喉に焼ける様な痛みが現れ、気持ちが悪い。


けれどそれを2人に気付かれたくないため、急いでソファーから立ち上がる。


「ちょっと、お手洗い行ってきますね」


「んっ、分かった」


「行ってら」


足を速めながらトイレに向かい、入口の隣にあるドアを閉めてから、胃酸を感じる唾液を手洗い場に吐き出して、汚れてもいない手を水に擦り付ける。


私の血縁は天空の神で、力を使えばゼウスとかでは無い限り破壊されないほどの結界を張れるけど、それをしてしまうと地上の悲鳴や喚き声が結界を通じて聞こえてしまい、それが聞こえる度に頭の中でこの選択は間違いだったのだろうかと思ってしまう。


夫や息子を殺されたからと言って無関係な人を巻き込んで良いわけでも無いし、未来ある人達の人生を奪っていると言う事実は私の心の奥を蝕んでいく。


けれどここでもう止まれば上の仲間達も、輝や煌さんも裏切る事になるため、もう止まれない。


そうやって自分の心の迷いに一区切り付け、顔に水をぶつけて気を引き締める。


「よし」


水で濡れた顔をポケットの中にあるハンカチで拭き、このまま戻っても顔色が大丈夫か確認しようと顔を上げた瞬間、鏡には見知らぬ男が映っていた。


(なっ!!?)


心臓と体が跳ね上がり、急いで振り返ろうとしたが、それよりも速く首回りに男の左腕が周り、首を絞められる。


「っ、ふっゔ!?」


こいつが何者かとか、どうやって侵入して来たかという疑問が頭を巡るが、血液が頭に溜まる感覚のせいでそんな考えは(ほど)けていく。


このままでは死ぬと直感的に悟り、腰のベルトに付けているナイフを抜いてそいつの右の脇腹に刺そうとしたけど、私の右腕に男は右腕を絡めると、私の脇が開くように腕を固められ、後頭部を押さえ付けられる。


(息・・・がっ!!)


さっきよりも強く絞まる首に体が苦痛を訴え始め、足をバタつかせてもがくが、絞まる腕は緩まない。


(し・・・・・・)


ふと、意識を保つなにかが消え、そのまま意識が上に落ち・・・・・・た?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・落ちたか?」


首を絞めている女のナイフが落ちるのを確認し、恐る恐る腕を(ほど)いてみると、名も知らない女は漫画のように膝から崩れ落ちた。


「・・・ふぅ」


ひとまず一人制圧出来た事に安心し、女の口と鼻を肉枝で完全に塞ぎ、呼吸を完全に止める。


確かどっかのサイコキラーが、首を絞めて気絶させた後、首の周りの紐を緩めて、意識を戻してからもう一度首を絞めて遊んでいたらしいから、落とした後こうやってちゃんと呼吸を止め続ければ、ちゃんと死んでくれると思う。


「さて・・・」


時期に死ぬ女の腰から、グリップに星の様な模様が掘ってある銃と、音が極力鳴らないように靴の上に落としたナイフの柄に肉蔓を巻きつかせ、左手で拾い上げる。


「・・・急がねぇと」


外に出した枝で状況を見ていた限り、煌さんがΜοῖρα[モイラ]の力を使ってから体感で数分。


速くしないと上のお仲間達が()()()を殺してしまう可能性がある。


気を急がせながらも、冷静に枝に意識を向けて外の状況を確認すると、2人は立ち上がっており、なにかを話していた。


(行くなら・・・今か)


もうあの種を飲んでいるため、極力音や気配は立てずにそれなりに戦えるが、いざ接近戦となれば煌さんには絶対に勝てない。


だからこそこの銃で狙う相手を正確に決め、そっとのドアノブを倒し、扉をゆっくり開ける。


話している2人に気付かれないよう、ソファーの向こうに立っている煌さん達に殺気を隠しながらをゆっくりと近付いて行く。


(うるせぇな・・・)


生ぬるい汗とうるさい心音を感じながら、2人を間合いの中へ入れた瞬間、勘でなにかを感じてしまい、すっとソファーの足元に身を沈めると、二人は多分振り向いた。


「そういやあいつ・・・遅く無いっすか?」


「いや、女子だから長い時は長いだろ」


「まぁ、そうっすね・・・あれ?」


「・・・どうした?」


「いやあいつ、トイレのドア閉めてましたよね?」


「っ!!」


バレると悟り、その言葉に合わせて立ち上がる。


そして素人でも当たる様に銃を2発驚いた顔をした煌さんの腹に撃ち込むと、煌さんはそのまま吹き飛ぶ様にして地面に倒れ込んだ。


「がっ!?」


「なに」


もう1人の男は咄嗟に銃を取り出そうとしたが、そいつに銃を撃たれては()()()ため、銃を顔面に投げ、そいつが怯んだ隙に首にナイフを投げると、そのナイフは男の首に浅く突き刺さった。


「ごっ!!!」


急にナイフを刺され困惑している男は体を丸めてナイフを抜こうとするが、それよりも速く肉蔓を首に巻きつかせ、ナイフを抜けない様にする。


「っ!?」


男は必死にナイフを抜こうとするが、蔓が首に巻きついているため、絶対に抜けない。


その隙にクッションを踏んでソファーを飛び越え、男の髪を掴んで髪を引きながら足を払って地面に倒し、首に刺さっているナイフを首の奥にさらに沈めると、男は小さな悲鳴を声から漏らし、動かなくなっていった。


「ふぅ」


とりあえず計画通りに2人を制圧出来た事に安堵しようとするが、煌さんが体を起こそうとするのが視界の端で見え、急いで自分が投げた銃を拾って煌さんの脇腹に弾丸を撃ち込む。


「ぐっ!!」


うつ伏せに倒れ込んだ煌さんと話をしようと近付こうとすると、首にナイフを刺した男はまだ生きている事に気付いた。


そいつは血が張る地面を、何をしようとしているのか爪先でカリカリと引っ掻いていた。


「っ!!」


その光景にあの時の事を思い出してしまい、瞼がピク付き、耳鳴りがし始めた。


「さっさと死ね!!!」


あの時のあいつに叫ぶように男の後頭部に銃弾を撃ち込み、何発か辺りに銃声が響くと、銃のスライドが開いた。


けれど指は止まらず、引いても何も出ないトリガーを何度も何度も何度も何度も引き続ける。


「・・・はぁ、はぁ」


それからしばらくすると、ひとまず冷静を取り戻したが、この行動は俺の計画に支障をきたしてしまう。


(いや・・・大丈夫。まだ、行ける)


感情的になってしまったが、これならまだ大丈夫だと自分が考えたシナリオを書き換えながら、後頭部がぐしゃぐしゃになった男の腰の銀色のリボルバーを取り、地面に苦しそうに呼吸をする煌さんの肩を掴んで無理やり体を壁にもたれかかさせると、煌さんの口以外からは血が出ていない事に気が付いた。


「やっぱり、防弾チョッキ着てましたか」


「な゛ぜ、ごの場所をっ!どうじで・・・おまあがっ!」


苦しそうに、どこか信じられないように聞いてくる煌さんに笑みを向け、最後の手向けとしてその質問全てに答えていく。


「いやー単純な話、ここって結界かなんかで人探しの魔術は使えないんですけど、人探しの血縁者の力は使えるんですよね。だから場所を特定して、指定の位置に仕掛けた爆弾が爆発する前に地下室の所に仕掛けて、扉が壊れてから貴方達が力を使っている最中にトイレに忍び込みました」


淡々と煌さんにどうやって入ったかを説明していくと、煌さんは血を吐きながら、怒りに満ちた眼をこちらに向けてくる。


「ゆ゛る、ざねぇ」


「・・・すいませんね。貴方に・・・教わりましたから。復讐を成し遂げる為には、自分以外の命を犠牲に捧げなきゃ行けないって」


それを自分の中で別れの挨拶にし、苦しそうにしている煌さんの右のこめかみに銃口をくっつけ、トリガーを引く。


すると激しい銃声と共に煌さんの頭がブレると、血を撒き散らしながら地面に頭を打ち付けた。


「・・・さて、後4()()だ」


自分が殺したい奴は後4人いるが、ひとまずここの始末をしようと、トイレで殺した女をこの部屋のソファーに座らせてから鼻と口に入った枝を体内に取り込む。


そして赤髪の男から奪った銃で女の腹に3発弾丸を撃ちむ。


「・・・さて」


下準備を済ませ、右腕の袖をめくって腕から蔓を生やし、食用油を染み込ませた蔓を女の死体の上に絞る。


「後・・・は」


後はいつも通りに滅多撃ちにした男に近づくと、煌さんの弾痕が付いた死体が必然的に見えてしまった。


すると、この人との色々な思い出がフラッシュバックした。


死にかけのこの人をあの病院に運んだ事。


2人で美味い飯と酒を飲んだ事。


復讐を分かち合った事。


女を紹介された事。


俺があの街に帰る時も、手が欲しかったらいつでも言えと言ってくれた事。


そんな思い出達が頭の中をぐちゃぐちゃに引っ掻き回し始め、銃が勝手に手元から落ち、後ろのソファーに後頭部を打ち付ける。


「あぁぁああ!!!!!」


(なんで殺した!)


(いい人だったのに!)


(良くして貰ったでしょ!?)


(なんで・・・殺したの?)


(もう・・・会えないの?)


「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!!!!」


頭の中で叫ぶ声を消すように何度も何度もソファーの角に頭を打ち付け続ける。


しばらくすると、後頭部の痛みと脳が揺れる気持ち悪さのおかげで頭に響く声は薄れていき、引っ掻き回された頭も揺れる気持ち悪さだけになってくれる。


「はぁ、はぁ」


荒い息を落ち着かせ、ソファーを背に煌さんの死体の前に座り込む。


「本当に良く・・・して貰ったなぁ」


溢れる涙を手首でゆっくり拭っていると、いつも通り涙はすぐに止まり、それと同様に悲しみもすぐに止まった。


けれど煌さんの死体を前に何も出来ず、これからの事などを全部忘れてしまい、ただ呆然と、煌さんの死体を眺め続ける事しか出来なかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ヒナノー!返事をしろ!!」


「・・・んっ?」


遠い場所で聞き覚えのある声が響き、何故か痛む体を起こそうとしたけど、背中に冷たい何かがあり、起きれない。


(何・・・がっ?)


何が起こっているのか分からず、重たい瞼をゆっくりと上げると、暗闇の中に無数に細い光が差している狭い場所が見えた。


「ど・・・こ?」


自分が今どこにいるか分からず、ぼやける頭で何が起こったか思い出そうとする。


確か私は雷にお別れの挨拶と、昨日の嘘の事を話そうとして・・・大きな音が響いて・・・エレナさんを雷の方に押して・・・どうなった?


「ヒナノーー!!何処だ!!?」


「ヒナノーー!返事をして!!」


さっきから聞こえる声がエレナさんと雷の物だと分かり、冷たい地面の上で息を吸って声を出そうとするけど、粉っぽい感触が喉に貼り付き、咳き込んでしまう。


「ゴホッゴホッ!!!」


「そこか!?」


自分の咳き込んだ音に合わせ、轟音と共に眩しすぎる光が眼に差し込むと、辛うじて見える景色には銀色の小手が映っていた。


すると上にあった黒い物は吹き飛び、明る過ぎる日光が辺りを照らした。


白に染まる視界で辛うじて見えたのは、必死そうな雷の顔と、顔を真っ青にしたエレナさんが見えた。


「だいじょ・・・」


「ヒナノ、大丈夫だからね」


朦朧として冷たい体をエレナさんの温かい体に包まれ、感覚がない両足と左腕がとても温かくなっていき、安心してしまう。


「姉ちゃん、ヒナノは!?」


「止血はした。止血はしたけど出血が・・・速くお医者さんを!!」


何が起こったか分からず、朦朧とする視界で辺りを見ようとすると、木の鋭い破片に血が染み付いているのが見えた。


(誰の・・・血?)


その破片が何に刺さっているか確認しようとすると、慌てる様に両眼を隠され、何も見えなくなる。


「エレ・・・ナ、さん?」


「大丈夫だからね!大丈夫だから寝ちゃダメだよ!!」


そんなパニックになっているエレナさんの声に、不思議に思いながら重たい首を横に向けようとした瞬間、無数の銃声が辺りに響いた。


「っう!邪魔を!!」


「なっ!?なんで血縁の力がぁ!?」


「おうえぇ?」


聞き覚えのない声と骨が砕ける様な音が聞こえた。


すると地面が砕ける様な音と共に、小さな破片が無数に落ちる様な音が近づいてきた。


「姉ちゃん、ヒナノを頼む」


「えっ?お医者さんを」


「まだ・・・いる」


その言葉に合わせて重たい瓦礫が落ちる音が響くと、はっきりしない意識は何処か冷たくて暗い場所へ落ちて行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「っ!」


痛む腹に耐えながら地面を足で砕き、手頃な瓦礫の破片を作り出す。


(なんでこんな事に)


辺りに転がる俺たちの家の残骸と、銃を持った男達の死体を見て、腕に嵌めた小手を強く握りこむ。


ついさっきまで、ふつうにヒナノと宿の中に話していたのに、爆音と共に宿が崩れ始めた。


建物が完全に崩れる前に、ヒナノは姉ちゃんを守る様に俺の方に押し、すぐさま血縁の力を使ってヒナノも助けようとしたが、何故か血縁の力は使えず、俺らは仲良く瓦礫の下に居た。


けれど急に血縁の力が使えるようになり、瓦礫を吹き飛ばして外に出ると、辺りの家達はほとんど壊れており、自分の腹には木片が突き刺さっていた。


それを抜き、傷はすぐに姉ちゃんの力で塞いで貰ったから痛いだけで済んだが、両足は柱で潰れ、左腕には木片が無数に貫通しているヒナノは失血が酷い。


その状況は一刻も早く医者を連れて来なければ行かないと素人でも分かるが、辺りの壊れていない建物の窓から銃口を向けられているせいで、手負いの2人を動かすのは危険過ぎる。


(時間がねぇ・・・殺すか)


人を殺す覚悟を決めると同時に銃声が響き、迫り来る弾丸を右手の小手で弾いて、さっき踏み壊した地面の破片を建物に向かってぶん投げる。


すると轟音と悲鳴が聞こえ、男の大声が辺りに響いた。


「撃てぇ!!」


その声に合わせ、辺りから一斉に弾丸が迫るが、顔以外の攻撃は全て体で受けきる。


血縁の力で弾丸は肌を通さないものの、内臓が揺れる苦痛は感じる。


けれどそんなチンケな痛みは無視し、でかい瓦礫を片手で掴んでそれを建物に投げつける。


「オッラァ!!!」


「たい」


何か声が聞こえたが、それは瓦礫と建物が砕ける音が搔き消し、瓦礫を投げつけた建物はゆっくりとバランスを崩し、土埃を撒き散らしながら崩壊した。


「はぁーっ」


敵がどんな奴だったのかは知らないが、そんな事よりヒナノの安否が不安になり、瓦礫の後ろに隠れている姉ちゃん達の方へ行こうとした瞬間、風切り音が聞こえた。


(あ?)


次の瞬間、左肩に鈍い衝撃が走り、咄嗟に地面を踏み込んで踏ん張るが、左肩の骨が聞いたことのない悲鳴を上げ、その衝撃が収まると左肩が燃える様に熱く、腕が上がらない。


「っ!?」


突然過ぎる衝撃に敵を殺し損ねたと悟り、後ろを振り向いた瞬間、赤い銃弾が眼の前に見えた。


(しまっ)


そんな後悔が心の中で唱えられるより速く、頭に弾丸がぶつかり、首の骨から高い悲鳴が聞こえた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふぅ」


撃った男が倒れるのをスコープで確認してから、俺の力で生み出した『ロンギヌス弾丸』を魔道具で軽量改造したゲパードM1に装填し、右耳の中に入れた通信魔道具に手を当てる。


「こちらジェーン。推定ランクSの血縁者を撃破」


「こちらSköll[スコル]、よくやった。今はΠροστατέρ[プロスタッテー]本部周りで戦闘中。ランクSSのアテナとゼウスが居るが、今は住人の避難で精一杯な感じた。殺れるか?」


「了解、今から移動する」


スコルの指示に従おうと、対物ライフルを背負おうとすると、通信魔道具から息を大きく吸う声が聞こえ、その魔道具を取り出して耳から離す。


「お前ら!!状況を見る限りあの3人は死んだ!!だが!ここで辞めれば俺らは処刑され!今までの苦労は無駄になる!!だから戦え!!女を盾に!!子供を囮に!!どんな手を使ってでも勝て!!!!」


スコルのうるさいかけ声にため息を吐きながら魔道具を耳に付け直してライフルを持ち上げた瞬間、風切り音が聞こえ、ぞわりと鳥肌が立った。


(なっ)


死の気配を感じ、4階の窓を肩で砕いて窓から飛び降りた瞬間、今まで俺がいた建物が内側から爆発する様に吹き飛んだ。


(あぶっ!?)


その威力に驚きながらも、風のルーン文字を掘った両靴、膝、肘、肩の順番で着地をして体を転がし、落下の衝撃を緩和してから瓦礫の陰に隠れ、望遠鏡を使って何かが飛んできた来た方を見る。


「なっ!?」


そのスコープの先に映った光景に、声を漏らしてしまった。


スコープの先にはさっき頭を撃って首をへし折ったはずの男が立っており、その男の右手には、血を染みつかせた様に赤く、巨大な鎚が握られていた。


その鎚には、見覚えがあった。


巨大な金属には不釣り合い過ぎる柄が短いハンマー。


それを握る銀色の小手。


そして、体に巻き付いた白い力帯。


(奴は・・・あいつは!!)


自分がテロ部隊にいた時、たった1人から俺以外の仲間は殺された。


そいつが・・・奴だ。


それが分かり、ポケットの中に入れた緊急連絡の通信魔道具を取り出し、スコルに声を荒げる。


「スコル!!狙撃部隊をAからCまでこっちに回せ!!」


「はっ?一体どうし」


「奴だ!ランクはSS!!北欧神話最強の戦神・・・トールだ!!!!」


「奴か!?」


スコルにはあの時の事を話していたためすぐに状況を理解してくれ、隊に指示を出してくれた。


「狙撃部隊!!AからDまで転送した座標に向かえ!!」


応援部隊がたどり着くまでの間、どう動くべきか瓦礫の中に身を潜めてあいつを観察していると、そいつの後ろにある岩をチラチラと見ている事に気が付いた。


(なんだ?)


そいつが何をしているのかが気になり、息を潜めてスコープの倍率を上げてみると、岩の後ろから赤い髪の様な物が見えた。


(誰かを・・・守っているのか?)


確証を得るために瓦礫の中からいつでも逃げれる様にしてから、薬莢を抜いて今度は特製の弾をライフルに込め、地面にバイポッドを付ける。


「ふーっ」


意識を集中させ、奴の顔を狙う様に狙撃をすると、轟音に合わせて奴は縋を振り回し始めた。


けれどその弾は俺の特製弾なため、それが奴の顔に届く前に弾け、無数の鋭い破片が奴の体に突き刺さる。


(やはり・・・)


避けなかった。


その行動に確信を持ち、次の狙撃をしようとすると、男は体を横に回し、遠心力を利用して鎚を投げてきた。


(まっ!?)


その縋の威力は知っているため、足に取り付けた魔道具を暴発させて崩れていない路地裏に入ると、さっきまで俺が居た瓦礫の山は空に舞い上がり、それは轟音を立てながら地面に落ちて行った。


(あっぶね)


改めて『トール』の力の恐ろしさを実感していると、右耳の魔道具にノイズが走り、声が聞こえた。


「こちらA班、到着しました」


「りょーかい、奴の力は分かるな?」


「はい」


「なら1人は接近して待機、もう2人は遠くから狙撃して注意を晒せ。弾丸は通さねえが、対物ライフルなら骨は持っていける。その情報をここに来る全ての班に回せ」


「了解」


物分かりが速いヨールに感謝しながら、事前に調べておいた狙撃ポイントへ向かって走っていると、耳の中の魔道具から、また声が聞こえた。


「こちらB班到着、いつでも狙えます」


「了解。普通に撃っては弾かれる可能性があるから、そいつの後ろ居る奴を殺さない程度に狙え。この情報も全班に回せ」


「了解」


奴の反応を少しでも鈍らせるためにそう指示し、空中で工事などで利用する腰の魔道具のスイッチを入れて透明な足場を走り、屋根の上に登ってスコープで奴の方を見ると、身体中の骨を弾丸から折られながら巨大な鎚を振り回し、岩の後ろに迫る弾丸を弾き続けている化け物が見えた。


(・・・お前はここで死ね)


あの時の仲間の事を思いながらライフルを屋根の上に投げ捨て、腰に差したらナイフで手の甲を切り付けて血を床に流しながら血縁の力を解放する。


すると眼球に力が入り、流した血が三叉の槍の形に形成されて行き、その3つの先は捻れる様にして1本に収縮して行く。


その形成され終えた槍の真ん中を右手で掴み、槍の後ろを屋根に突き刺してから重心を後ろに移動させ、息を肺が破裂する寸前まで吸い込む。


「ふっ!!!」


屋根を踏み壊しながら槍を上に投げ、痛む体に耐えながらすぐさま双眼鏡を奴の方に向けると、時間差で奴の後ろにある岩を俺が投げた槍が空から砕き、その後ろにいる黒髪と赤髪の女が露わになった。


「全員、一斉射撃」


その指示に合わせ、男に向かって隠れていた奴らも一斉に弾丸を撃ち始め、男の腹や背中、頭に弾丸をぶつけて行く。


けれど男は鎚を手放して自分を守ろうとはせず、後ろにいる女達を抱きしめる様に守っている。


(っ!?)


その光景が自分の過去と重なってしまい、鋭い頭痛がした。


瓦礫の中・・・粉が舞う空気・・・下敷きの仲間達の呻き声・・・下半身が潰れて生き絶えた・・・俺の・・・大切な人・・・・・・・・・・・・・・・


(虫酸が・・・走るんだよ!!!)


嫌な過去を塗り潰す様に怒りが体を熱くさせ、その激情のまま大量の血を使う。


もう1本。


奴と、奴の後ろにいる奴らを確実に殺せる様に、禍々しく、強大で、おぞましい槍を血で作り出し、重心を後ろに移動させる。


「死ね」


全身を使い、床を砕きながら槍を投げると、その槍は空を裂きながら男の背中に一直線に向かっていき、赤い物が空へ舞った。


奴から血飛沫が飛んだのかと思ったが、空に飛んだ物をよく見ると、それは・・・俺が投げた槍だった。


「はっ?」


その光景に困惑の声が口から漏れ、空に舞った槍を眼で追っていると、落ちる槍を見た事がない明るい鼠色の髪をした男が掴んでいた。


「なんだ・・・あいつ?」


急に現れた男に困惑しながらも、すぐに投げ捨てたライフルでそいつを殺そうと弾丸を装填し、スコープを覗いた瞬間、そのスコープを赤い何かが塞いでいた。


(な)


次の瞬間、青い空が見えた。


いい・・・天気だ。


あいつの髪にそっくりな・・・綺麗な青。


何か・・・あいつに・・・合える様な気がする。


(へへっ、どんな顔、すんだろうな)


楽しみだ。


体が落ちる。


けれど、なににもぶつからない。


落ちる。


落ちる。


落ちる。


落ち・・・た。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 自信はないそうですが、結構描写力(必要なものを選んで書く力)やテンポをよくするセンスはあるように感じます。映像と音楽を想像しながら書ける強みでしょうか。 もしここへ文章力(読みやすさの方…
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