第22話 黄昏
「んっ・・・ 」
か細い声が乾いた喉から漏れた。
「ふわぁぁ・・・ 」
それに続くように大きな欠伸が漏れ、手で口を隠さずに欠伸を堪能し、涙でボヤけた視界で薄暗い辺りを見渡すと、こちらに顔を向けるルーナさんの緑色の目と視線が合った。
「んっ、目が覚めたの?奏ちゃん 」
「あっ、はい 」
今度は口を隠してもう一度欠伸をし、出て来た涙を指先で拭ってから辺りを見渡すと、ここがテントの中だと言う事に気が付いた。
「・・・はぁ 」
「どうかした? 」
「い、いえ、なんでもありません 」
口先だけではなんでもないと言えるけど、やっぱりというか、心の中は少し気持ちが悪い。
それは、夜中に寝る少し前に久しぶりに会った悠翔さんからこう言われてしまったからかもしれない。
『ここには長居出来なくなった。すぐにここを出る準備をしろ 』
悠翔さんの言葉はどこまでも私を思っていてくれているのだと簡単に理解できるし、とても嬉しいんだけども、やっぱりとても良くしてもらったアルマスさん達にお別れの挨拶も出来ないのがとても悲しかった。
その事を悠翔さんに伝えると、置き手紙をしたらどうだと提案され、慣れないえんぴつと呼ばれる硬い筆で手紙を書いたけど、それがどのように伝わり、どのように読まれているか分からないからとても不安だ。
けれどそんな身勝手な不安に、私を逃がそうとしてくれている悠翔さんとルーナさんを巻き込むわけにはいかないため、私が我慢するしかない。
「アルマスさん達、元気にしてますかね? 」
「さぁ? でも・・・いい人達だったね 」
「・・・はい 」
「奏ちゃん、あいつがいつ帰ってくるか分からないけど、何が起こってもいいように寝た方がいいよ 」
「・・・じゃあ、ルーナさんも一緒に 」
「私は外を見張ってるから、ごめんね 」
「い、いえ、私だけすみません 」
私のために起きて居てくれるルーナさんに申し訳なさを感じながらも、眠い体に鞭を打つ行為がどれだけしんどいかは知っているため、ルーナさんに頭を下げ、せめて足でまといにならないように枕に頭を置いて目を閉じる。
どこまでも暗い暗闇が続く中、そこに一筋の光が見え、その光がなんなのかと眺め続けていると、暗闇から飛び出すようにあの時の死体が瞼の下に現れ、心臓がドクンと脈打ってしまう。
怖い。
けれどこれ以上ルーナさんに気を使ってもらうのも気が引けてしまい、ルーナさんに気付かれない様に体をギュッと丸め、長い長い夜が過ぎるのを首にかけた香袋から微かに香る桜の匂いを嗅ぎながら待ち続けた。
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「・・・ 」
頭が無くなったゲイルの体を引きずり、それをユグドラシルの根へ投げると、ユグドラシルの根にゲイルの死体は骨を折られながら締め付けられ、青白くなったゲイルの肌は黄茶色に変わって行く。
しばらくすると地面が大きく揺れ始め、ユグドラシルの苗の周りにある巨大な根達がユグドラシルの苗に向かって大きな音を立てながら移動し、それに巻き込まれないように空中に転移し、ルーン文字で足場を作ってから移動するユグドラシルの根を眺め続ける。
死体の骨もろとも移動したユグドラシルの根はユグドラシルの苗に吸い込まれていき、小さく凝縮されていく。
そして巨大な根達が小さな苗に吸い込まれ終えると、微かな脈動が耳を叩き、目を凝らして暗闇の中に見えるユグドラシルの苗を眺めると、ユグドラシルの苗が小さく脈動していることに気が付き、だんだんとその脈動が大きくなっていく。
「・・・やっと・・・ここまで来たよ 」
ここに居て欲しかった奴に向かって言葉を呟き、だんだんと幹を伸ばしていくユグドラシルの苗を眺め、苗が木と呼べる高さまでユグドラシルは成長すると、成長するスピードは更に速まり、この空間に大地を突き上げるような轟音を響かせた。
「そうだ・・・もっと幹を伸ばせ! 大地を」
貫くように!
そう声を荒らげようとするが、その声は幹の成長と共に止まってしまった。
「はっ? 」
なぜユグドラシルの成長が止まったのか。
意味が分からず、暗闇の中で目を白黒させていると、後ろから熱烈な殺意が肌を叩き、勘がしゃがめと訴えて来た。
「っ!? 」
咄嗟に身を下げた瞬間、暗闇に無音の赤黒い槍が通り過ぎた。
後ろに誰かがいると悟りすぐさま後ろを振り向いた瞬間、一部分が欠けた赤い戦鎚を振りかぶる人影が見え、すぐさま銀小手と『盗賊の叡智』を手元に生み出し、その攻撃を受けるが、強烈な衝撃と共に地面へ吹き飛ばされる。
「うぐっ!! 」
頭の受け身は取ったが体は地面に打ち付けられ、血が体内を逆流し、大量の血液を口から吐き出してしまうが、俺の周りに茶色いツボが無数に浮かんでいる事に気が付いた。
(これは! )
あの時のツボを思い出し、体の周りに守護のルーンを張り巡らせると、ツボは轟音を響かせながら爆発し、爆炎が辺りを明るく燃え上がらせたが、その爆炎の隙間を縫うように1本の赤黒い槍がこちらに撃ち込まれ、それは容易く守護のルーンを打ち破った。
「っう!? 」
顔に向かってくる槍を首を曲げて間一髪で躱すが、その槍の根元にあのツボが付いている事に気が付き、両手で顔だけを守ると、爆炎が体を炙り、熱気のせいで息ができない。
「かふっ!! 」
その一気に空気を奪われた苦しみを味わっていると、爆炎は闇に消え、辺りには静寂だけが響く。
(なにがおこ)
「・・・死んだか? 」
そんな爆音のせいで微かにしか聞こえない声を頭が理解すると、その声の持ち主が誰なのか理解した。
・・・悠翔のものだ。
「おーおー、真っ黒に焼けてんな・・・どこを喰えばいいんだ? 」
そんな意味の分からない事を話す悠翔の言葉に疑問を感じていると、土を踏む音はこちらにゆっくりと近付いてくる。
「っても、呆気なかったな。これが北欧神話を滅ぼした神の力か 」
その言葉の意味が分からない。
けれど、ただ分かるのは・・・
こ い つ が ア ル マ ス を 殺 し た 事 だ け だ 。
瞬時に体を再魂のルーンで修復させて地面を蹴り、ドロップキックを悠翔にぶちかますと、悠翔は壁に強く打ち付けられたが、悠翔はダメージがないように壁から立ち上がった。
「仕留め損なったか 」
その言葉でこいつは俺を殺そうとしていると理解出来た。
けれど、理解できないことが1つある。
「何故・・・アルマスを殺した? 」
「んっ? 簡単な事だ・・・お前を殺すためだ 」
その言葉と言う名のハサミが、頭の中にある理性を切った。
「いやーでも良い奴だったな。最後まで仲間を思って、最期までお前を思っていたよ 」
「・・・まれ 」
「あっ? 」
「お前はもう、喋らなくていい 」
体に金色の鎧を装着させ、全身にルーン文字を張り巡らせて暗闇に瞬時に目を慣らすと、暗闇には認識阻害のローブを着た悠翔らしき者が映っていたが、脳はただ一つの命令しか体に司令しない。
こいつを殺せと。
(叡智よ )
あの時に悠翔の体に貼り付けたルーン文字を起動させ、こいつの心肺活動を停止させる。
しかし、悠翔は倒れる様子も無ければ苦しむ様子もなく、こちらにゆっくりと近付いてくる。
(なに!? )
心肺活動を止めても死なない悠翔に動揺してしまうが、それならばこいつを物理的に殺せば良いだけだとすぐさま思考を回し、悠翔の後ろにある『盗賊の叡智』を手元に戻し、その戦鎚を全力で振りかぶると、悠翔も短い柄を赤黒い枝で補強した戦鎚を振りかぶり、鈍い轟音が空間を震わせた。
けれど向こうの方が力が強いのか後ろに吹き飛ばされ、地面を何度か跳ねるが、すぐさま『盗賊の叡智』を地面に刺して勢いを殺して前を向くが、そこには悠翔の姿はない。
(どこ)
消えた悠翔を目で捉えようと強化された視力で辺りを見渡していると、地面の影が微かに揺らぎ、咄嗟に後ろに飛びながら『盗賊の叡智』を構えると、影の中から悠翔が飛び出し、その赤い戦鎚で『盗賊の叡智』を打ち付けた。
「ぐっ!! 」
また後ろに吹き飛ばされ、すぐさま両足でブレーキを掛けると、勘が地面から飛べと叫び、勘に身を任せてその場から飛ぶと、地面から見た事がある青い炎が現れ、俺の足を鉄靴ごと炙った。
「っ゛! 」
その痛みを感じる暇もなく今度は空中に無数の氷の巨大な針が現れ、それを守護のルーンで防ごうとするが、氷は容易くルーン文字の結界を貫き、俺の命を奪おうと迫る。
「ふっ! 」
咄嗟に飛んでくる氷の針の側面を左手で掴み、体を回転させながらそれらを躱して地面に着地をして悠翔を睨みつけると、そこには左手をこちらに伸ばす悠翔の姿が見えた。
「よく躱したな 」
そう賞賛の言葉が耳を叩くが、こいつの声は俺にとって雑音にしかならない。
すぐさま持っている氷の巨大な針をルーン文字の魔法陣を通して投げ返すが、それを悠翔は簡単に赤い戦鎚で壊し、こちらに氷の破片が飛んでくる。
鎧にあたる氷を無視してこいつには神態をしなければと神態の準備を密かに進めながら再魂のルーンで足を治癒する。
こいつは何らかの方法を使って無数の血縁の力を扱えるようだ。
だが、そんなタネなどどうでもいい。
こいつを殺しさせすれば!
(氷の裁き!! )
青いルーン文字を周りに展開させ、大地を砕きながら氷を強引に創成させるが、それが悠翔に届く前に生み出された青い炎の壁に阻まれたが、それでは向こうからもこちらは見えないため、すぐさま魔法陣を展開し、魔法陣を通して『盗賊の叡智』を炎の向こう側にいる悠翔に投げ付けるが、『盗賊の叡智』が青い炎を貫いた先には悠翔の姿はなかった。
(また影に同化したか!? )
すぐさま投げた『盗賊の叡智』を手元に戻そうとするが、それよりも速く足元の影が揺らぎ、黒い影がこちらに伸びてくる。
「っ!? 」
それに一瞬遅れて反応して後ろに飛ぶが、その影の先に茶色いツボがある事に気が付き、すぐさま両手で顔を守るが、ツボはいくら待っても爆発しない。
(罠)
すぐさまがら空きの腹を守るために身を丸めた瞬間、赤い戦鎚が迫り、どこからか現れた悠翔の一撃をモロに受けてしまった。
「がぁ!!! 」
蹴られたボールのように地面を跳ね、ユグドラシルの巨大な根に打ち付けられると、またも血が逆流し、その血のせいで溺れそうになってしまう。
「がはっ!! 」
気管に入りそうな血を吐き出し、すぐさま立ち上がろうとしたが、両足は感覚がなく、そこに目をやると鉄靴の中で俺の足は潰れていた。
恐らくあの一撃をモロに食らったからだろう。
けれどあいつは何がなんでも殺さなければいけない。
すぐさま両足をルーンで再生させ、こちらに飛んでくる『盗賊の叡智』を右手で掴んで構えるが、静寂だけが響くだけで悠翔は攻撃を仕掛けてくる気配はない。
「っ!? 」
次の瞬間、その静寂の中に何かが折れる音が響き渡り、音が鳴るユグドラシルの方へ顔を向けると、そこには茶色く枯れ、自分の重圧に耐えきれず横向きに倒れて行くユグドラシルが見えた。
その光景に言葉が出ず、俺の夢とも言えるユグドラシルが朽ち果てた事に静かに驚いていると、後ろから無音の殺意が肌を叩いた。
「っう!! 」
『盗賊の叡智』を振り回し、振り向きざまに赤く焼けた戦鎚の部分を振り回すと、その戦鎚は俺のと似ている赤い戦鎚と重なり、空気を震わせた。
が、やはり悠翔の方が力が強く、後ろに吹き飛ばされ、枯れたユグドラシルに打ち付けられた。
「がはっ!! 」
こう血を吐くのは何度目だろうか。
心を、絶望が塗りつぶしていく。
俺は・・・人を殺した。
何人も・・・何人も・・・
それは何故か?
ユグドラシルの・・・いや、妹のためだ。
それがこうだ。
常人には、いや、普通なら理解されない願いを理解してくれた者は殺され、妹は枯れ、この人生を全て踏み壊された様な気分だ。
『私が死んだら、世界は平和になるの? 』
そんな言葉が頭の中で聞こえた。
その涙混じりの言葉に、俺はこう返したのを覚えている。
『あぁ、きっと世界は・・・平和になる・・・ いや、してみせる。だからお前は安心して・・・死ね 』
それがあいつとの最期の会話だった。
愚かな人生だ。
己を神と偽り、国民に偽り、本音を話した奴らは次々と死んでいく。
けれど、俺は生かされた。
だから・・・だから・・・
ここで死ぬわけに・・・いかない。
絶望の胎動が聞こえた。
希望の鼓動が聞こえた。
それら全てが混じり合う。
奴を・・・殺せと。
「もう再生しないのか? 」
遠のいた意識の先に悠翔の声が聞こえた。
耳障りだ。
赤い再魂のルーン文字を展開させ、傷付いた内蔵と揺れた頭を治癒し、枯れたユグドラシルに寄りかかりながらゆっくりと体を起こすと、体の細胞が死滅して行くのを感じ、それに変わるように新たな細胞が全身を包み込んでいく。
「ふぅ 」
体が軽い。
息も軽い。
そんな生まれ変わったような気分を感じていると、悠翔は認識阻害のローブの隙間から赤黒い枝を蠢かし、それを1本の槍へと変えると、それを俺の方に投げ付けて来た。
向かってくる槍。
けれど・・・
「おせぇ 」
飛んでくる槍を右手で掴み、槍を回して矛先を悠翔に向けて巨大な魔法陣を展開し、地面を砕きながらその槍を投げ付けると、その槍は空気を切り裂きながら悠翔に向かって行き、槍を悠翔は咄嗟に体を傾けて躱そうとしたが、槍は悠翔の右肩を吹き飛ばし、辺りに転がる瓦礫を消し飛ばした。
けれど悠翔は痛がる素振りを見せず、無くなった右肩を眺めると、そこから赤黒い枝が蠢き、それが右手の代わりになった。
(なるほど・・・こいつも神態を行っていたのか )
心臓と肺を神の細胞に変えていたため、ルーンで心肺活動を止められなかったのだと納得していると、悠翔は落ちた戦鎚を蹴りあげて手元に戻し、歪な右手で戦鎚を構えた。
そして悠翔は地面を踏み切るが、それに合わせて見えない糸を引くと、悠翔の後頭部を貫くように『盗賊の叡智』を手元に戻そうとすると、悠翔はそれをしゃがんで避けたが、手元に戻った『盗賊の叡智』を振り下ろす。
それを悠翔は赤黒い柄を横にして防いだが、神態が終わった俺の方が力は強く、その柄は砕かれ、戦鎚が悠翔の頭を押し潰したが、頭の潰れた悠翔は影と同化し、その場から消えた。
(まだ足りないか )
頭を潰して死なないのであれば、体を再生不可能なほど損傷させれば良いと思い、『隻眼の神槍』と『巨人殺しの戦鎚』を分解し、右手に槍を、左手に戦鎚を構える。
そして辺りに崩壊のルーン文字を張り巡らせると、悠翔は影の中から慌てるように飛び出し、空中に居る悠翔に向けて炎と氷のルーン文字を展開させて攻撃するが、悠翔は右手の枝を蠢かせて盾を形作ると、その盾は氷を防ぎながら炎を飲むように吸い込み、赤い花を
その盾に咲かせた。
「咲け 」
その言葉と共に視界を覆い尽くすほどの炎が強化された目を焼かれ、一瞬だけ視界が塞がれるが、咄嗟に閉じた右目を開くと、崩壊する氷を足場にしながらこちらに向かってくる悠翔が見えた。
(チッ!! )
すぐさま重力のルーンを展開させ、辺りの重力を3倍にすると、悠翔は地面に打ち付けられたが、すぐさま体を滑らせながら俺に左足の蹴りを放って来た。
が、神の細胞を崩壊させるのには時間がいるため、悠翔ならそうしてくるだろうと予測はしていた。
こちらに迫る蹴りを『隻眼の神槍』で太ももから切り落とし、『巨人殺しの戦鎚』で悠翔の体を地面に叩きつける。
「ガハッ!!! 」
(崩壊しろ!! )
『巨人殺しの戦鎚』で悠翔の体を押さえつけ、体をバラバラにされればどんな血縁でもひとたまりもないだろうと考えていたが、何かが変だ。
悠翔の体はいくら待っても崩壊しない。
というか・・・ルーン文字がいつの間にか消えている。
「ふっ!! 」
悠翔は地面をから無理やり体を起こし、『巨人殺しの戦鎚』を弾き飛ばすが、その勢いを殺さずに体を回転させ、起き上がった悠翔の腹に『巨人殺しの戦鎚』を打ち込むと、悠翔は血を吐き出しながら瓦礫に打ち付けられた。
けれど変だ。
さっきより、力が出ていない。
いや、体に貼り付けたルーン文字がいつの間にか消えている。
「何をした?てめぇ 」
体を瓦礫から起こし、左足の代わりに枝を生やした悠翔にそう言葉を投げかけると、悠翔はしばらく無言を返したが、何かを考え付いた様に認識阻害のフードをゆっくりと脱いだ。
するとそこには、赤みがかった黒髪を部分的に白銀に変えた悠翔の姿があり、いつの間にか右目はアナベルと同じ色の瞳になっていた。
いや、そんな事はどうでもいいが、あの白銀の髪の色には見覚えがある。
「・・・母・・・さん? 」
「・・・簡潔に説明してやる 」
悠翔は俺の言葉を無視すると、不敵な笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ここら一帯にルーン文字を阻害する魔法陣を展開した。これでお前お得意のルーン文字は使えない 」
「っ!! 」
悠翔がいつそんな魔法陣を展開したのかは分からないが、その説明に納得してしまっていると、悠翔はゆっくりと体を伏せ、地面に歪な右手を付いた。
「こっからが・・・本番だ 」
悠翔はそんな言葉を吐くと、背中から赤黒い8本の蜘蛛の生やした。
それがこいつが時間稼ぎをしていたのだと言うことを示しており、愚策を踏んだと後悔してしまうが、そんな後悔を他所に、体は勝手に悠翔を殺そうと足を進めていた。
それに続くように悠翔は地面を砕きながらこちらに飛び掛ってきたが、いくらルーン文字が阻害されたとしても神態を行っている目でその姿を追い、『巨人殺しの戦鎚』で悠翔の体を地面に打ち付けるが、悠翔は蜘蛛の足でその勢いにブレーキをかけ、その体制のまま体を回して左の踵を俺の顔面に落として来た。
が、それもまだ目で終えたため、『隻眼の神槍』でその足を切り落とそうとしたが、悠翔の左足には白い花が咲いており、その花から白い閃光が溢れた。
「っ!! 」
両目を潰され、すぐさま後ろに引こうとしたが、それよりも速く何かが蠢く音が聞こえ、それが俺の体にまとわりついた。
「ふんっ!!! 」
まとわりついた何かはがっしりと俺を捕まえると、地面に押さえつけられ、そのまま体を引きずり回し始めた。
(ぐぅぅ!! )
鎧を着ているためダメージは軽いが、このまま捕まえられていてはまずいと勘が訴え、閃光に眩んだ目を何度も瞬きして目を慣らすと、俺の体には赤黒い枝がまとわりついている事にも気が付いた。
(っ!! )
それを『巨人殺しの戦鎚』で砕き、地面を転がりながら『隻眼の神槍』を悠翔に投げ付けると、悠翔は体を捻って槍を躱したが、見えない糸を引くと、飛んで行った『隻眼の神槍』の刃先は悠翔に向き、背から悠翔の腹を貫いた。
「ぐっ!! 」
血を吐く悠翔の体を『隻眼の神槍』ごと引っ張り、こちらに向かってくる悠翔を振り回して勢いを付けた『巨人殺しの戦鎚』で打ち付けると、悠翔の上半身はひしゃげ、その歪な肉は瓦礫を砕きながら暗闇の中に飛んでいくが、それではまだ死なないのは知っているため、すぐさま『隻眼の神槍』を悠翔に投げ付ける。
しかし悠翔は上半身を唸らせながら再生させ、足で『隻眼の神槍』を蹴りあげたが、その『隻眼の神槍』の根元に絡み付いた『方舟』を展開させ、巨大な木造の船を悠翔の頭上に生み出す。
(『ヘルヘイム! )
すぐさま悠翔の足を骨で作られた無数の手で拘束し、展開した『方舟』で悠翔を押し潰そうとするが、悠翔は蜘蛛の足を18本に増やし、空気が震えるほど大きく息を吸い込んだ。
「ふぅ!!! 」
その掛け声と共に悠翔の体は『方舟』の巨大な先端が悠翔を覆うようにのしかかり、地面に無数のヒビが入るが、悠翔は潰れない。
「ぬぅぅぅううう!!!! 」
(おいおい冗談だろ!? )
その夢であって欲しい光景の中、耳障りな雄叫びが響き続けると、グラりと船はバランスを崩し、巨大な船はこちらに向かって大きく傾いた。
(マジか、よ!! )
すぐさまルーン文字を展開させようとするが、一瞬遅れてルーン文字が展開されないことを思い出し、すぐさま『巨人殺しの戦鎚』を振り回し、勢いをつけてから倒れてくる『方舟』に投げ付ける。
風を切り裂きながら飛んでいく『巨人殺しの戦鎚』は『方舟』の側面を吹き飛ばしたが、残った瓦礫と壊せなかった残骸は俺へと倒れてくる。
ルーン文字を使えず、手ぶらなこの状態ではまずい思い、すぐさま『隻眼の神槍』を手元に戻そうと見えない糸を引くと、暗闇の中から槍がこちらに飛んでくる。
しかしそれを手に取った瞬間、違和感に気が付いた。
いつもより、槍が重い事に。
その違和感に反応し、すぐさま『隻眼の神槍』に目をやると、槍の根元には無数の茶色いツボがくっ付いていた。
(しまっ)
奴が槍を蹴りあげた時に付けたのだと理解すると同時にツボは爆発し、防げない爆炎をもろに食らうと、視界が白く焼かれ、喉もやられたのか上手く呼吸が出来ない。
けれど、死ぬ訳にはいかない。
まだ死んでいない神の細胞を酷使し、こちらに降り注ぐ木片を感覚だけを頼りに槍を振り回して防ぎ、神の細胞を増やして視力を回復させると、そこには倒れてくる『方舟』と同時に向かってくる枝で体を包んだ悠翔の姿があった。
(上等だ!!! )
手元に投げた戦鎚を左手に戻し、その戻した勢いを利用しながら鎧ごと悠翔を潰すように戦鎚を振り回して腕が引きちぎれるほどの勢いが乗った戦鎚を悠翔にぶつけた瞬間、悠翔の鎧はいとも簡単に砕けた。
(はっ? )
けれどその鎧の中には誰も居らず、鎧の中身が空っぽだった事を一瞬遅れて理解した瞬間、倒れた『方舟』が俺の視界を埋めつくした。
(ぐっ!! )
体に強烈な衝撃が走るが、幸い船の中は空洞なためかダメージは少ないが、轟音を立てながら自重で推し潰れていく船のせいで視界が狭まってしまう。
「っ!! 」
その砂埃と暗闇のせいで1m先すらも見えない状況に焦りを感じてしまう。
(どこに行った? )
悠翔は影に同化できる。
それは足場が悪いこの状態でも変わらないだろう。
加えてこちらはルーン文字を展開できないため、ユミルの血を出そうにも己を巻き込んでしまう。
(どうする・・・どうする!? )
焦りが静寂を際立てる。
けれど、自分が今何をするためにここに立っているかを今一度思い返す。
(奴を・・・殺す! )
余っている人間の細胞を死滅させ、更に神の細胞を増やすと、ルーン文字を展開していないにも関わらず視界が暗闇に慣れていき、耳の調子も良くなっていく。
息を吐き、何が来ても良いように体をリラックスさせていると、背後から地面を蹴る音が響き、体の力を抜きながら後ろを振り返ると、そこには赤黒い目や口が付いた枝を振りかぶる悠翔の姿があったが、そのスピードは今まで1番遅く感じる。
(おせぇ )
向かってくる枝を戦鎚で弾き、地面を蹴って悠翔に向かって槍を全力で投げつけると、悠翔の腹を槍は貫き、遥遠くの壁に悠翔を打ち付けた。
「がはっ!! 」
地面を踏み砕きながら悠翔に向かって走り、壁に串刺しにされた悠翔の体を押し潰そうと戦鎚を振りかぶる。
悠翔は俺の攻撃が届く前に左手で槍を引き抜き、右手の枝を蠢かせて見た事がある銀色の剣を枝の中から取り出したが、遅い。
(死ね )
振りかぶった戦鎚を振り下ろし、悠翔を推し潰そうとした瞬間、悠翔は壁を蹴り、俺の視界から消え失せると、冷たい感触が腰に滑り込んだ。
(なに・・・が・・・)
「引っかかったな 」
そんな言葉と共に受け身も取れずに地面に落ち、砂埃がまう地面を這っていると、瓦礫を踏む音が段々とこちらに近付いてくる。
「ふぅ、お前が馬鹿で助かったよ 」
そんな耳障りな声が聞こえると、悠翔は俺の顔を覗き込むようにして地面にしゃがみ込んだ。
「何を・・・てめぇ・・・ 」
「・・・簡単な事だ。お前、途中からやけに気分が良かったろ? それは俺がお前に『金色の加護』をエンチャントしたからだ 」
「っ!! 」
その言葉には確かに心当たりがある。
神態を行った事は何度かあるが、今日はやけに調子が良かった。
それがこいつの罠とも知らずに・・・俺は・・・俺は・・・
「んで唐突にそのエンチャントを解除したらどうなる? ・・・簡単な事だ。目は急速に衰え、目で追えていた物は追えなくなり、体はそれに反応できない 」
「だま・・・れ・・・ 」
まだ終わっていない。
神の細胞を増殖させ、落ちた下半身を再生させようとするが、再生しかかった腰に赤黒い枝が突き刺さった。
「がっ!! 」
「・・・わざわざ再生するまで待つと思うか? 」
「うる・・・せぇ・・・ 」
更に神の細胞を増やし、無理やり体を再生させようとするが、更に赤黒い枝が腰に突き刺さっていく。
「がっ! あ゛ぁ!! 」
「お前は楽に殺さねぇからな。覚悟しとけ・・・ 」
そんな耳障りな声が耳を叩くと、ある感情が胸の中に生まれた。
「ふざける・・・な・・・ 」
「あっ? 」
こいつが何をしたか今一度思い返すと、こいつは何がなんでも殺さなければならないという考えが体を支配する。
「てめぇはここでがはっ!! 」
「うるせぇよ 」
右胸に赤黒い枝が突き刺さった。
だが、こいつだけは・・・
こいつだけは・・・
「じね 」
(終焉の一振)
そう心の中で呟くと、悠翔の後ろにだだっ広い空間の天井に届きそうなほどデカいな燃える大剣が現れ、辺りを大きく照らした。
「っ! てめぇ!! 」
それを操作してこちらに向かって振り下ろすと、炎が空気を焼く音が辺りに響き、こちらに『終焉の一振』はゆっくりと倒れてくる。
悠翔はその場から慌てて逃げる様に暗闇の中を走るが、遅い。
倒れた『終焉の一振』は地面を砕き、熱風と轟音を辺りに轟かすと、俺が倒れている地面は崩壊して行き、瓦礫の隙間に体は滑り込まれる様に落ちてしまった。
(クソ・・・が・・・ )
そんな言葉を最後に、意識は暗闇の中に落ちて行ってしまった。




