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第11話 捜査


「ん?」


眼が開き、何度か瞬きをしてぼやける視界をハッキリとさせると、今がまだ少し暗い朝だという事が分かった。


少しぼやける頭を回して頭を覚醒させていると、仮眠を取っていた私に変わって見張りを続けてくれている、金色の鎧を着けたスーさんの背中が見えた。


「あ、スーさん。おはよう」


「おっ、起きたか。おはよう」


スーさんは私の挨拶に笑みを向けて返すと、大きな欠伸を口から漏らし、空色の眼を潤ませた。


「私、どれくらい寝てた?」


「30分、くらいか?」


「なら見張り変わりますよ〜」


「助かる・・・10分経ったら起こしてくれ」


私の返事にスーさんは疲れた笑みを返すと、大きな欠伸をまた口から漏らし、私の隣にある煙突に背中を預け、そっと眼を閉じた。


すると、すぐに静かな寝息を立て始めた。


「・・・よし」


スーさんが寝たのを確認し、我慢していた欠伸を口を隠しながら漏らし、少し嫌な黒い鎧を着てから屋根の上からボロボロになった街並みを眺める。


「はぁ・・・」


あれから私達は突如現れたテロ部隊を全員制圧し、Προστατέρ[プロスタッテー]と特殊部隊の協力によってプロスタッテー本部や病院などに避難した人達は護れたけど、やはり全員は護れず、避難中に殺された人や、瓦礫の下敷きになって死んだ人も沢山居る。


だからこそこれ以上犠牲を増やさない様にみんなで街を見張っているけど、今のところ何事も無く、私の勘でもこれから起こるのは、せいぜい物取りくらいだろうとしか思えない。


けれど念には念を入れて辺りを警戒していると、後ろから通信魔道具の着信音が騒がしく鳴り始め、せっかく寝てくれたスーさんが慌てる様に飛び起き、鎧に埋め込まれた通信機を軽く叩いた。


「もしもし?」


「凛です。病院で少々トラブルがあったので、今から来てもらえないでしょうか?」


「分かった、すぐ行く」


凛ちゃんの言葉に、スーさんは疲れた顔のまま頷いて立ち上がると、大きな欠伸を口から漏らし、私の方に空色の眼を向けて来た。


「灯、行くぞ」


「・・・はーい」


その言葉に何を言っても無駄だろうと思い、ため息を吐いてから足に金色の靴を生み出す。


「それじゃ、先に行ってますね」


「助かる」


スーさんからお礼を言われるのを待ってから屋根から飛び降り、私の血縁の力で空を切りながら空へと飛び立つ。


しばらく風を切る音を耳で感じていると、凛ちゃんが見張る大きな病院が見え、その病院の所へ降りてみると、翡翠色の鎧を身に纏い、銀色の槍や盾などで完全に武装した凛ちゃんが病院の前に立っていた。


「来たか」


「うん、来たよー。ところで、トラブルって?」


少し気が立っている様な凛ちゃんに微笑み、さっき聞いたトラブルに付いて聞いてみると、凛ちゃんは翡翠色の兜を頭から外し、何かを哀れむ様な顔を私に向けて来た。


「この病院で姉弟が失踪したの。・・・その友人が談話室に居るから、話を聞いてあげて」


「うん、分かった」


こんな状況の中なのに病院で失踪となると、色々と疑問に思う事があり、それを考えながら病院の中に足を運ぶ。


姉弟で一緒に失踪は、莫大な借金や世間帯がかなり悪く無い限り珍しいし、人攫いにしてはいくら血縁の力があろうと、血縁の力を弱体化させる結界が張ってある病院で拐うにはリスクがデカ過ぎる。


それらを私の血縁の勘と知識を混ぜ合わせながら考察していると、かなり考えが絞り込めた。


(無差別?それか・・・個人的な恨みかな?)


確信だけはしないようにさらに思考を回していると、多分凛ちゃんが言っていた談話室の前に着いている事に気が付いた。


その中に入る前に私の鎧を小さな球体状にして脱ぎ、それを口に入れ、無理やり喉の奥に押し込んでから部屋の扉をそっと開く。


すると、黒い髪と眼をしたあの時のヒナノと呼ばれる女性が、両眼の周りを赤くさせて頰を伝う涙をハンカチで拭い続けていた。


そんなヒナノは私に気が付くと、慌ててハンカチを両眼に強く擦り付けて鼻水をすすり、こちらに不思議がる様な顔を向けて来た。


「えっと、どちら様ですか?」


「・・・初めまして、私は神光の街の捜査員の灯と言います。少し、お話を聞いても良いですか?」


一応向こうからすれば私は初対面なため、ヒナノに笑みを浮かべて敬語でそう話すと、ヒナノはそっと頷いてくれ、その隣に座ってヒナノの潤んだ黒い瞳をじっと見つめ、質問をして行く。


「失踪したお二人とは仲が良かったのですか?」


「・・・はい、とても仲が良くて、何回も家に行ってご飯を食べたりしてました」


その話を聞く限り、この女性は失踪した2人とかなり仲が良い事に気が付き、その女性がどれだけ辛いのかがよく分かってしまう。


けれど私情は客観性を失わせるため、そっと息を吐いて自分の感情を落ち着かせながら質問を続ける。


「それなら、その2人は誰かに借金を借りたり、誰かに怨みを買っていたりはしてましたか?」


「えっと、お金は私が貸してました。金貨を5枚ほど。後、怨みを買う事は沢山あったと思います。私と同じ、プロスタッテーなので」


確かに捜査官となれば理不尽な怨みを買う事は多いけど、恨みによる犯行ならば、精神が破綻するほど追い詰められているか、よっぽどの馬鹿による犯行か、弱体化されても関係が無い特別な血縁の犯行と言うことになる。


けれどいくら仮定をしても答えは正確には定まらないため、胸のポケットからペンと手帳を取り出し、手帳を開いてペンの先を出す。


「それじゃあ最後に、その人達の名前と特徴と血縁を教えて下さい」


「えっと、男の方は(らい)と言います。髪の色は金色で、眼の色は赤。血縁は・・・トールです」


その話を聞いて、嫌な考えが頭の中に思い浮かんでしまい、メモを取る手が止まってしまう。


(えっ・・・それって)


普通、強い血縁の力を持っている人を拷問や尋問をする事は、血縁の力を封じる力などが無い限り、いつ爆発するか分からない爆弾をハンマーで叩いている様な物だから、そんな事をする前にさっさと殺す。


だからこそ、捕まったり誘拐されているのだとすれば既に殺されている可能性が高く、血縁がトールとすれば尚更その確率は高くなる。


「あの、どうかしましたか?」


「いえ、少し考え事を。・・・女性の特徴もお願いします」


「・・・はい、女性の方はエレナと言います。髪の色は綺麗な赤色で、瞳の色は金色です。それで血縁は・・・トールです」


その話を聞き、もう恐らく2人は生きていないだろうと思ってしまうけど、行動でそれがヒナノにバレない様に右手だけを動かしてメモを終わらせる。


「・・・お疲れ様でした。辛いのに・・・ありがとうございます」


「いえ、話を聞いてくれてありがとうございます。・・・二人は、無事なんですかね?」


ヒナノは今にも泣きそうな表情を私に向け、不安そうにそう聞いてくるけど、私の勘は良い時も悪い時も外れてはくれない。


けれど何か一言かけなければヒナノは辛いままだろうと思い、そっと震える肩に手を当てる。


「安否は分かりません。でも、いつかは見つけ出します」


それが・・・死体だったとしても。


そんな暗い部分だけを隠してヒナノに伝えると、ヒナノは安心も絶望も感じない複雑な表情を浮かべ、嗚咽を漏らし始めた。


その反応を見てもう声がかけれず、立ち上がって無言で軽くお辞儀をしてこの部屋から出ると、虚しさと後悔が胸の奥にじんわりと広がって行き、背中を後ろの扉に預けてしまう。


こんな光景は何度も見た事がある。


けれどあの悲哀に満ちた表情は、どんなに場数を踏んでも絶対に慣れる事は無い。


「はぁ・・・」


避難した人達が(たむろ)する病院の中でため息を吐き、憂鬱な気持ちを抑える為に病院の外に出ると、そこにはスーさんや凛ちゃんだけでは無く、金色の鎧を着ている綾君まで外におり、私を待っていた様だった。


「おっ、来たか」


「あれ、何かありました?」


「・・・オリュンポスの会議に呼び出されちまってな、今から帰る事になったんだ」


スーさんが話す会議と言う言葉に、私と凛ちゃんはその会議がどの様な物になるかは、ある程度想像が付いてしまった。


恐らくだけど、ここの裏を完璧に潰すか潰さないと言う物になると思う。


「それで俺は今から帰る事になったが、お前らはどうする?」


「・・・私は、ここはプロスタッテーに任せて任務を続行するのが得策だと思います」


「俺は賛成」


「・・・私も」


正直な話、凛ちゃんの考えには賛成だ。


あの女の子には申し訳ないけど、今は雷とエレナさん達を探すよりも、神光の街で行方不明になった2人を先に探す必要がある。


何故なら、今私達が探している人はΑίμα πρόσωπο[エマプ ローショポ]と言う、人探しの珍しい血縁の力を持つアリシアと言う女性と、その人の子供のメリアちゃんだ。


だからこそ、その2人が生きているのなら2人を無事に神光の街へ連れ戻し、その2人が死んでいるのならば力を利用される前にその死体を取り戻すという、重大な任務だ。


「分かった。でも、神光の街で誰にも気付かれずに2人を拐った奴だからな、念のために増員の手配をしておくから、今日はここで休んでおけ」


「了解です」


「スーさん、ありがとう」


私達の事を心配してくれるスーさんにお礼を言うと、スーさんは私の肩に手を置いて私の耳元に口を近づけ、小声でぼそりと呟いた。


「後は頼んだ・・・」


「・・・任せて」


そんな私だけにしか聞こえないような言葉に頷くと、

スーさんは安心したように私から顔を離し、申し訳なさそうな顔を私達に向けた。


「それじゃあお前ら、後は頼んだぞ」


「おぉ」


「お任せ下さい」


「はいはーい」


さっきの会話を隠すためにそう軽く返すと、スーさん人懐っこく微笑んでくれ、ゆっくりと瓦礫が並ぶ道へ進み始めた。


(・・・大丈夫かな)


その後ろ姿を見て、心配する事がある。


スーさんはオリュンポスと言う大層な称号を持っているけど、スーさん自身はブラックリストの存在に疑問を感じている。


だからこそもし裏を潰す事になれば、ブラックリストに載った血縁者達の隠れ蓑が無くなってしまう事に、変に心を痛めないか心配になってくる。


「それで灯、これからどうすんだ?」


そんな陵君の声に意識を頭から現実に移すと、陵君と凛ちゃんが私の方を見ている事に気が付いた。


「どうした?」


「いや、なんでも無いよ〜。取り敢えず、昨日プロスタッテーの本部に部屋を貸してもらえたから、そこで増員が来るまで休憩。それから2人の捜索を再開しようか」


「了解。あー、これでやっと休憩出来るぜ」


「うん、お疲れさま」


疲れた声を出す陵君に凛ちゃんは微笑みながら肩に触れると、陵君は何を思ったのか、凛ちゃんの頭に手を置き返した。


「お前もな。いやーあの時お前が盾で塞いでくれなかったらあぶ・・・どうした?」


「いや、あの、ちょ、えっ?」


陵君に頭を触られた凛ちゃんは顔を真っ赤にしてしばらく固まっていると、急にアテナの力で生み出した槍で陵君の腕を弾き、翡翠色の兜を頭に叩き込む様なスピードで被った。


「大丈夫か?今すげぇ音したけど」


「大丈夫!大丈夫だから離れて!!」


「いやでも顔が」


「はいはい陵君、離れようね」


このままじゃ凛ちゃんの心臓が持たないなと思い、取り敢えず2人の間に割り込むけど、陵君は心底訳の分からなさそうな顔をした。


(この鈍感男め・・・)


「ほら、凛ちゃん汗かいてるから。女の子はそう言うの気にするよ」


「あ、そうか。すまんな、気に出来なくて」


「いや・・・こっちこそごめん」


そんな凛ちゃんの焦ったい態度を見て少しため息が出てしまうけど、凛ちゃんの普段の生活を知っているから、とても付き合えとは言いにくく、またため息が口から漏れてしまう。


「はぁ。・・・それじゃあ2人は先に本部に行ってて。私は少し用事があるから」


「りょーかい。気を付けろよ、まだ潜んでるかもしれねぇから」


「ありがとねー」


心配してくれる陵君に笑みを浮かべ、私の力で金色の靴を生み出し、その場から空に飛び立つ。


(さてと)


取り敢えず、空を通って昨日見た気になるあの階段の部分に向かおうとすると、壊れていない店の様な場所に、プロスタッテーの人達がやけに集まっているのが見えた。


(なんだろう?)


それがやけに疑問に思ってしまい、靴の羽を操作してそっと地上に降りてみると、私の方に捜査官達の視線が一気に集まった。


「あっ? なんだお前?」


その内の一人の少し気持ち悪い無精髭を生やしたでかいおじさんが威圧的に私を睨んできたけど、別にこの人より怖い人達とは何回も合った事があるから、なんとも思わないから、笑みを浮かべて平然と自己紹介をする。


「私は神光の街の操作員です。何かあったんですか?」


「はっ!よそもんに教える義務はねぇ」


(・・・はぁ?)


そんなくだらない縄張り意識をもっているおじさんに内心呆れてしまうけど、ここで問題を起こしてしまえばスーさんに迷惑がかかってしまうから、そっと笑みを浮かべる。


(こんな奴、さっさと死ねば良いのに)


「そうですか・・・お邪魔しましたね」


表面上だけで申し訳なさそうに笑ってみると、クソジジイは満足そうに笑い、店の中に入って行ってしまった。


(うん・・・死ね)


もう一度クソジジイを心の中で罵倒し、ため息を吐きながら空へ飛び立とうとした瞬間、一人の捜査官の様な若い男性が私の方に急いで向かって来ている事に気が付いた。


「あ、ちょっと待ってください!」


「はい?」


「えっと、あの時助けてくれた女性ですよね?」


その声を聞き、思い出した。


確かこの人は、昨日プロスタッテーの本部を防衛する時に居た、黒髪の赤い眼をした男性だ。


「あっ、あの時の」


「はい、俺はメノンと言います。えっと、神光の街の捜査官ですよね?」


「はい、そうですけど・・・」


「なら、今回の事件の話、聞きますか?」


「あっ、是非!」


あの時助けた恩からか、メノンはズボンのポケットから手帳を取り出すと、積極的に私に事件の事を伝えて来てくれ始めた。


「まず今回の事件は殺人です。被害者はここで地図屋を経営しているルカスさんと、服屋を経営しているソフィアさんです。死因は2人とも銃弾を頭部に受けた事による即死です」


その話を聞いて今起こっている事件は大体分かったけど、それにしては疑問に思う事がある。


それは今回のテロで銃弾による死亡人数はかなり居るはずなのに、何故たった2人殺されただけの場所にこんなに捜査官が集まっているのかと言う疑問だった。


「じゃあなんでこんなに捜査官が居るんですか?遺体の回収ならこんなに要らないと思うんですけど」


「・・・それがですね、そのソフィアさんの遺体に普通ならあり得ない傷がありまして」


「・・・それは?」


私の質問に、メノンは少し顔をしかめて黙り込むけど、しばらくした後にため息を吐き、自分に首の左側に人差し指を当てた。


「ここに噛み跡があったんです。・・・筋肉まで達するほどの」


「・・・もしかしてその人の遺体、何かに包まれてたりとか、血を拭き取った後はありましたか?それか服が変わっていたとか、傷口が隠されていたりとか」


「えっ、あ・・・はい。首とこめかみの傷口に医療用の絆創膏が貼られていました。後、隣に少し血が付いた服が捨てられていて、その替わりか遺体に黒い服が着せられていました。・・・ご丁寧に下着まで変えて。あんまり言いたくは無いですけど、死体を人形の様に弄んでる様にしか見えなくて、犯人を許せないです」


(・・・やっぱり)


メノンはそう言うけど、私の中にある考えは違った。


噛んだのは多分愛情に飢えている思いからだと思うし、その傷跡を隠すのは後悔からだと思う。


そして血が付いた服や、恐らく失禁した下着も着替えさせたのは、綺麗でいて欲しいという欲求から。


そこまで考えると、殺した犯人はここら辺の住人だ。


何故なら、昨日テロを起こした人達の中の大切な人に被害者が似ていたとすれば普通なら殺さないし、偶然恋人に似た死体を発見したのであれば、あんな緊迫した状態では遺体に布を被せるくらいしかしないはず。


だから消去法で行くと、犯人はここらに住んでいて、その被害者を犯したい肉欲ではなく、内面的な美しさで愛していた人。


そう考えると、友人や客に来ていた人が犯人として浮かび上がってくる。


けれどそんな愛情を持っているのならば、そもそも殺すのかと言う疑問も出て来てしまい、色々な考えを頭の中で否定と暫定を繰り返していると、メノンがとても申し訳なさそうな顔をしている事に気が付いた。


「あ、すいません、女性にお話する内容じゃ無かったですね」


「いえ、気にしないで下さい。慣れてますから」


そんな私の慣れていると言う言葉に、メノンは一瞬驚いた顔をした。


(まぁ、そんな反応するよね)


私自体は、特別な捜査部隊に居たからこんな話なんて慣れっこだ。


けれど普通の人にとっては、私は気持ち悪く映るだろうと思っていたけど、私に向けられたのは憧れの眼差しだった。


「えっ、も、もしかしてGBIの方ですか!?」


「・・・はい、一応そうですけど」


「俺大ファンなんです!!」


嫌な顔をされるかと思っていたのに、急にメノンは子供の様にはしゃぎ始めた。


「うわぁ、こんな所で会えるなんて!あ、サイン!サインお願いします!!」


「は、はぁ」


急に差し出された手帳とペンを取り敢えず受け取ってしまったけど、そもそもサインをどう書けば良いのか分からない。


(取り敢えず、名前を書けば良いのかな?)


そんな事を思いながら手帳の真っ白なページの端に自分の名前を書こうとした瞬間、メノンの後ろからあのクソジジイの大きな声が聞こえた。


「おいメノン!! サボってねぇでさっさとスケッチしろ!!」


「あ、はい!えっと、その手帳に後の情報があるので。では!」


「えっ?」


メノンは私から手帳を受け取らずに、大急ぎで事件が起こったであろう服屋の中に入って行ってしまった。


そんな状況に少しぽかんとしてしまい、しばらくその場から動けなかったけど、冷静に考えてみれば私の血縁の勘に反応した事件の情報が手に入った事は、かなり良い事だった。


(じゃあ・・・後は)


後はスーさんから捜査を頼まれた、あの地下に続く階段の所に飛び立とうとした瞬間、耳の端で聞こえたとある話に嫌な勘を感じてしまった。


「なぁ、ヤエルさん遅くねぇか?」


「しょうがねぇだろ、奥さんが行方不明なんだから。誰だって身内の事件は苦しいんだ。今はそっとして置いてやろう」


「・・・あぁ、そうだな」


そんな誰かを心配する様な会話がやけに気になってしまい、空に飛び立つのをやめて会話をしてたであろう2人に声を掛ける。


「あの、すみません。少々お話をよろしいですか?」


「んっ、記者の方ですか? すみませんけど今はなんとも言えないんです」


「いえ、私は神光の街の捜査官です。その、行方不明者の事が聞きたくて」


私の話に捜査官の2人は驚く様に顔を見合わせていたけど、片方のしっかりした様な青色の髪をした男性が、慌てる様にして輝きが無い黄色い眼を私に向けて来た。


「あ、すいません。神光の街の捜査官でこんな小さな事件の話を聞いてくれるとは思いもしなくって」


「あー、そう言う人達はごく一部・・・いや、半数以上しか居ませんから」


自分達の仲間に皮肉を吐く様にして2人の捜査官にそう伝えると、2人はお互い大変ですねと言いたげな顔を私に向け、さっきの行方不明の事件に付いて話しを始めてくれた。


「えっと、まず行方不明者はここの肉屋を経営している人で、俺らのリーダー、ヤエルさんの奥さんなんです。それで・・・今捜査が終わりましたから、ヤエルさんが中に」


そんな話を聞いてる途中、急に肉屋の2階からガラスが割れる様な大きい音がし、今話している人の隣にいる黒髪の男性が慌てる様に肉屋の方に顔を向けた。


「行ってくる」


「頼んだ」


多分、家の中で後悔と悔しさを感じながら暴れているヤエルと言う知らない人を心配しながらも、男の人に顔を向け、さっきの話の続きを聞いていく。


「えっと、話の続きを」


「あ、すみません。それで、少し違和感がある点があって」


「・・・それは?」


「家の中の状況がどうも変なんです。争った後も無いし、まるで自分から外に出て行った様な」


「それの・・・何処が変なんですか?」


私の経験上、素人が事件に巻き込まれた時はほとんどは萎縮するか、非難する人を見ればそれに乗じて逃げる事がほとんどだから、別におかしい事は無いと思う。


けれど男性はそんな私の考えとは裏腹に、少し顔をしかめた。


「・・・ヤエルさん、少し前に女性が事件に巻き込まれているのを見て、奥さんにはかなり熱心に非難方法や事件に巻き込まれた時の対処法を教えていたらしいんです」


「それなら・・・変ですね」


確かに、非難方法や対処法を信用しているであろう夫から伝えられたのなら、いくら慌てていたって、その言葉は簡単には脳裏から離れず、イレギュラーが無い限りはその約束を守らないと思う。


そんなイレギュラーが起こったであろう事件を頭の中で色々な考察に当て嵌めていると、その肉屋の中から黒い帽子を被った男性が、暗い顔を帽子で隠しながらさっき家の中に入って行った男性に連れられて肉屋の中から出て来た。


すると青髪の男性は、申し訳なさそうな顔を私に向けた。


「・・・すいません、仕事に戻ります」


「はい・・・頑張って、下さいね」


「・・・はい」


男性は少し暗い表情をほのめかしながら笑みを浮かべ、後ろにいる男性に向かって駆け足で近付くと、ただ何も言わずに肩に手を置いた。


その姿を見て、昔の光景が断片的に脳裏に浮かび上がり、少しだけ心臓がドクドク脈打ち始める。


(・・・忘れてよ)


嫌な光景を忘れてくれない自分の脳にそう言い、その場から離れる様に靴の羽を羽ばたかせ、あの階段の所に向かって空を飛ぶ。


その途中、崩れた家の前で泣く老夫婦や、手を合わせている女性などが見え、嫌な気持ちが胸の奥から溢れ気持ち悪い。


「はぁ・・・」


それが嫌になってしまい、街中をなるべく見ない様にしながらあの階段の所へ向かうと、あの階段の周りには規制テープが張られており、その周りを3人の厳つい男達が囲んでいた。


(・・・犯罪者?)


そんな不謹慎な事を思いながらも靴の羽を操作し、その周りの男達から少し離れた場所に着地をすると、その男達は私に鋭く(いか)つい眼を向け、いつでも戦闘が出来る様に拳を構えた。


「・・・誰だ?」


「あ、すいませんね。私は神光の街の捜査官です。ここに来るって伝えられませんでした?」


「・・・番号を言ってみろ」


「そんなの聞いてませんけど?」


それが私が敵では無いかという確認だと分かり、すぐさま嘘を付かずに答えると、厳つい男達はそっと構えをとき、私に申し訳なさそうな顔を向けて来た。


「疑ってすまんな」


「いえいえ、こんな事が起こった後ですから。」


捜査官の男達から要らぬ敵意を買わない様にそう伝え、男達の間を通って規制テープを超えて壁が部分的に焦げた階段の中へ足を進めていると、少し進んだ先にやけに鉄の通路が歪んでいる場所に違和感を感じた。


(なんだろう・・・この、力を使って無理やりこじ開けた様な跡は)


そんな通路に違和感を感じながらも、長い階段を降りて行き、奥にある明かりに向かって足を進めていると、人の気配と音が反響するのを感じとった。


(広場・・・かな?)


音の反響具合でかなり広い空間がある事を認識し、明かりが漏れる扉を潜ると、視界に広がる広場の壁は殆どが黒く焦げており、損傷がかなり酷かった。


(・・・血縁の力?いや・・・油か)


血縁のリストは全部私の頭に入っているため、こんな辺りを壊さずに完璧に事故に見せかけた様な血縁は居ないと考えていると、現場をスケッチしている金髪の50代くらいのおばさんが、私の方に緑色の眼を向けている事に気が付いた。


「あんた、見ない顔だね」


「はい、私は神光の街の捜査官ですので」


「ふーん、若いのに凄いね。ほら、捜査資料」


「ありがとうございます」


素直に捜査資料を渡してくれるおばさんに感謝しながら資料を受け取り、ざっとその文に眼を通す。


読んだ資料を簡単にまとめると、分かる事は4つ。


1つ、ここは今回テロを起こした人達のアジトであり、血縁の力で作り出された建築物だと言う事。


2つ、ここで見つかった死体は男性と女性の2人。


死因は骨に付いた傷から銃弾によるショック死だと分かったが、身元と血縁は黒焦げになっているため不明。


けれど血縁の力が強くない人もテロを起こしたのにここで避難しているという事は、その死体のどちらかはリーダーでは無いかと言うこと。


3つ、この焼け跡は放火であり、何故か植物油が発火の元なのだが、それがここに貯蔵されていた灯油に引火し、こうなったとのこと。


4つ、現場の状況を見るに犯人らは1人を協力して殺した後にその内の1人が仲間を裏切り、火を放って逃亡と書いてあった。


けれどこの資料を見て、少し気になった所がある。


「あの、この黒焦げの死体って何処にありましたか?」


「・・・見たいのかい?」


「はい、気になるので」


私の言葉におばさんは無言で頷くと、着いて来いと言わんばかりに私に背を向けて広場の奥にある、狭い通路に進み始め、それに私も付いていく。


しばらく歩くと、1人の緑色の髪をした細長い木槌を持った女性が、黒く焦げた扉の前に何かを守る様にして立っているのが見えた。


「あ、ゼイルさん、そちらの方は?」


「神光の街の調査員。マスク2人分お願い」


「はい」


その言葉に緑髪の女性は手を上に開くと、その手の平から綺麗な緑色の蔓が生まれ、それが口と鼻を覆い隠す様なマスクの形になった。


「ほら、付けな」


「えっと、これは?」


「この先をSucellus[スケッルス]の力で死体をそのまま保存してる。あんたならマスクの意味分かるよね?」


「あ、なるほど。珍しいですね」


確かスケッルスとは、ケルト神話の死と復活の神であり、効果は生きた物にだけ咲く花粉を撒き散らし、死体が絶対に生き返らない様にしながら、死体を壊死させない事ができる力だ。


だからこそ特別なマスクを付けなければ、花粉を吸った本人の肺胞に花が咲き、窒息するらしい。


そんな6年前に読んだ資料の事を思い出しながら、蔓で出来たマスクで鼻と口を覆うと、それを確認したゼイルさんは黒焦げの扉をそっと開けた。


すると壁やら天井が黒く焦げたリビングの様な場所に、白い花粉が舞うとても幻想的な部屋が見えた。


「床が脆くなってるから気をつけな」


「はい」


心配してくれるゼイルさんに頷いてその扉の中に入ると、何故かボロボロの穴だらけになった扉が気になってしまい、そっとその穴から中を覗くと、黒く焦げた床に大量の鏡が散らばるトイレの様な物が見えた。


(・・・なんで?)


「どうしたの?」


「いえ、なんでトイレをこんな念入りに燃やしたのかなって」


「さぁね、私も隅々まで調べたけど何も見つからなかったよ」


そんな頭の奥をくすぐる様な違和感に疑問を持ちながらも、取り敢えず部屋の奥に向かって足を進めると、骨組みだけになったソファーの上に座る黒焦げの焼死体と、部屋の奥で焼死体特有の構えをした死体が倒れていた。


「やっぱり酷いねぇ」


「・・・生きたまま焼かれてないだけマシですよ」


自分の過去の事件を思い出しながらそう呟き、まずは部屋をぐるりと見渡すと、何か強い違和感を頭の中で感じる様になった。


(なんだろう・・・これ)


そんな違和感に疑問を抱きながら、しばらく黒焦げになった死体の前で頭を回すけど、何も思い付かず、頭の中に強い違和感を感じるだけだった。


「それで・・・あんたはこの状況をどう見るんだい?」


急に後ろから声がかかり、辺りをもう一度見渡して、自分の考えを頭の中で纏める。


「私も捜査資料通り、2人が協力して男性を殺し、その後に仲間が女性を殺して逃亡・・・あれ?」


「どうした?」


「もう1人・・・多分ですけど、犯人以外もう1人ここにいたんだと思います」


やっとさっき感じとった疑問の答えを見つけ、それを吐き出す様にしてゼイルさんに伝えるけど、ゼイルさんはマスク越しでも分かるほどの良く分からなさそうな顔をした。


「えぇっと、私にも分かる様に説明してくれ」


「・・・まず、ここに居たのはソファーの数とかを見ると3人です。それで階段の所に外から血縁の力を使って無理やり開けた後がありましたから、ここにもう1人居たんだと思います」


「えっとつまり、これは仲間2人による裏切りでは無く、3人で裏切って男を殺した後、女性を殺して2人で逃げたって事かい?」


「いえ、それも違うと思います」


私の言葉にゼイルさんはますます首を傾げ、眉間にシワを寄せ始めたから、自分の推理を頭の中で纏め、少し犯人になりきって説明をしていく。


「まず、あそこの男性の捜査資料通り、2種類の弾丸で撃たれて、頭の一発が致命傷ですよね。それなら2人で足りるんです。だから裏切ったのは2人」


「じゃあ3人目は?」


「恐らく、完璧な部外者です。だって協力して男の人を殺すんだったら、内側から鍵を開けて貰えば良いだけなので、わざわざ侵入を気付かれる様に外側から強引に開ける意味が無いですもん」


その話を聞いてか、ゼイルさんはさっきまでとは違う真剣な表情を浮かべ、私に鋭い眼だけを向けて来た。


「ねぇ、そっちの捜査方法で、犯罪者が放火する時の心理ってどんなのがあるんだい?」


「・・・大きく分けて3つですね。興奮を覚えたい。苦痛を与えて殺したい。・・・証拠を隠したい」


けれど、この3つはもう絞れていた。


だって興奮を覚えたいのならわざわざ燃えにくい地下で放火する意味が無いし、苦痛を与えたいのならば殺してからは焼かない。


その考えはゼイルさんも同じなのか、ため息を吐き、転がっている死体を眺め始めた。


「・・・なら、捜査は一からやり直しかい」


「えぇ、その証拠が何かを見つけないと、もっと危ない事が起こるかもしれません」


私の勘が入った言葉にゼイルさんはもう一度ため息を吐くと、私にどこか優しい笑みを浮かべて来た。


「ありがとね、助言がなかったら4人目の存在に気付かなかった」


「・・・お礼は、犯人を捕まえてからお願いします」


その言葉にゼイルさんは強く頷くと、何処か重たい足取りで出口に向かい始め、それに私も着いて行く。


ゼイルさんが開けた黒く焦げた扉を潜り、後ろの扉をしっかりと閉めると、外で待っていてくれたスケッルスの血縁の女性が私達の方に手を向けた。


すると体に付いた白い花粉達が彼女の手の中に集まっていき、雪が溶ける様にしてその花粉達は彼女の体の中に取り込まれると、花粉を取り込んだ女性は、私達にとても綺麗な笑みを浮かべてくれた。


「はい、もうマスクは取って大丈夫ですよ」


笑みを浮かべる女性の言葉に頷き、マスクを口と鼻から外すと、籠った生暖かい空気では無い、清々しい空気が気道を通るのを感じ、とっても心地が良い。


「はぁ、マスクが無いって幸せですね」


「えぇ、普通に呼吸が出来る事はありがたい事です」


やけに呼吸と言う言葉に、力がこもった話に疑問を感じていると、私とゼイルさんのマスクが唸りを上げて(ほど)け、それらが女性の体内へ取り込まれて行く。


その光景に少しだけあいつの弟君の事を思い出してしまい、少し寂しくなっていると、後ろにいるゼイルさんから背中をそっと突かれた。


「まだ何か気になる事でもあるかい?」


「いえ、今のところはありません。まぁ、私の勘はあまり冴えて無いので、何か見逃してるかも知れませんけど」


そんな昔の自分に皮肉を吐く様に伝えると、ゼイルさんは顎に手を当てて顔を傾げ、私を何かを不思議がる様な眼を向けて来た。


「そう言えば、あんたの血縁って誰だい?」


「私ですか?私はἙρμ η ς[ヘルメス]です」


「ヘルメスって、あの嘘付きの?」


「えぇ、でも学問の神でもあるので、こう言う事件とかに私はよく呼ばれたらするんです」


そう、ヘルメスは学問の神であるため、色々な知識と勘、それと記憶力が私にも影響している。


だから・・・眼を閉じれば辛い過去も、残忍な光景も今起こっている様に簡単に思い出せてしまう。


だからこそ、辛い過去を思い出さない様に今回の事件の事を思い返していると、頭の上にポンと手を置かれた。


「若いのに・・・凄いね」


「・・・若くても、責任はありますから」


何処か心配してくれるゼイルに微笑み返し、後ろに下がって頭の上にある手を落として、2人に笑みを浮かべる。


「では、捜査にご協力ありがとうございました」


「いや、こっちこそ助かったよ」


「お疲れ様でした」


捜査に協力してくれた2人にお辞儀をし、後ろを振り向いて狭い通路と広い空間を通り、あの長い階段を登りながら、このテロに付いての感じる違和感に付いて考えて行く。


私が今回感じている違和感、それは、あまりにも重大な事件が続き過ぎていると言う事だった。


神光の街では、まぁまぁな数のソシオパスによる事件が起こるだけの中、ブラックリストに載った血縁の子供が部外者には厳重な神光の街に侵入した。


その子供の死体は、あいつの弟君の死体と一緒に見つかったのはワルキューレ達の報告で分かったけど、それに続く様にゼウスやアレス達の血縁者が獣以外に殺され、その血縁が何者か分からないという異例の事件があり、さらには重要血縁者の1人のアリシアさんとその子供が厳重な神光の街で誘拐されたと言う事件も起こっている。


極め付けには、そんな事件が起こったすぐ後に隣街で100年に1度くらいの大規模なテロが起こった。


偶然と言われれば偶然なのだが、私の勘がそれは違うと訴えているから、これを偶然では無く全て同一犯が手引きしていると課程すると、とんでもない連中らが

神光の街から眼黙の街へと移動している様に思える。


だからこそこのまま行けば、今度は隣街の審鏡の街で何かが起こるかも知れない。


いや、何かが起こる。


「・・・次の目的地は、決まったね」


そうやって自分の頭の中で考えをまとめていると、いつのまにか自分が明るくなった朝日が差す外にいる事に気が付いた。






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