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00/プロローグ

 いかなる時も硝煙の香りは鼻に付く。

 彼の左肩からは赤い血が滴っている。

 致命傷こそないものの、痛みは想像以上に伴っているモノだった。

 真っ赤に彩られた地面に転がっている身体に、銃口が突きつけられる。

 次はきっと外すことは無いだろう。

 余程、手の施しようが無い人間でない限り、この距離で致命傷を与えられるかどうかなど考えるだけ時間の無駄だ。

 なんの前触れもなく、銃弾が彼の心臓を貫いた。


「────」


 間違いなく致命傷。応酬など出来るはずも無く、血を垂れ流し倒れている。

 ……熱い。

 手先の感覚は無くなっている。

 ゆっくりと瞼が落ちて、視界が暗転する。

 辺りが静寂に包まれる。暗い闇の中で、こんなにも静かだというのに、彼の心は疼いていた。

 どうしようもなく、叫ぶように。

 けれど、それは届かない。

 届くはずがない。

 だって、彼はもう死──



《オマエ死ぬのカ?》

『…………っ!?』


 永遠に続くかと思われた静寂が、何者かの声によって切り裂かれた。

 暗闇の空間に響き渡るその声に彼は呼びかける。


『……お前は誰だ? そもそも此処は一体どこなんだ? 俺は死んだハズじゃ……』

《ウヒヒヒ、死人が一丁前に質問ばかりしてやがって……。まぁいい、少し黙って俺サマの話を聞け》


 やたらと口の悪いその声は言う。

 意識の中だけで会話している彼は、舌打ちをしようにも身体が無いので出来ない。

 不意にその声が切り出してきた。


《俺サマから名乗るのは気が乗らないが仕方ない、話が進まないからな。──俺サマはアスト・ウィーザートゥ。オマエら人間の言う死神の立場だナ》

『そんな事はどうでもいい。早く俺の質問に答えてくれ』

《ウヒヒヒ、俺サマの名がどうでもいい……か。まったく強情な人間ほど扱いの面倒くさいモノは無いナ》


 せせら笑うようにアストはそう呟いた。

 とにかくこのワケの分からない状況を打開しなければならない。彼はそれを最優先するために、アストへの苛立ちを押しとどめていた。


《話をするのに相手が見えないのも、可笑しな話だナ。……では、こうしようカ》


 すると一瞬沈黙して、そして再び──


《権利者《BewerbenSie sich》の名《im Namen》において申請《des Rechtsinhabers》する。

 ──万物《Schöpfung》の創造《allerDinge》

 ──生命《Inkarnation》の受肉《des Lebens》

 ──叡智《Erfassen》の掌握《von Weisheit》

 顕現──────!!》

『一体、何を……っ!?』


 その瞬間、意識は何処か遠くへと消え去っていった。思考がまとまらない。全ての意識が散り散りになり、散乱していく。

 時間が遅く感じる。自分自身がフワリと浮いて、その空間から消えたように感じる。


 ──そして、彼は身体を取り戻した。

 


「……あ、れ?」


 ふと目を開けると、辺りは真っ暗だった。

 彼がさっきまでいた空間かどうかは、正直分からなかったが、それよりも驚いたコトがあった。

 ……身体があるのだ。

 手、足、胴体、頭。ひと通り触って確かめたが、傷やケガは一つもなく、いたって健康な身体だった。

 身体はあの時確かに撃ち抜かれたハズ、意識だけは何故か残っていたが理由は不明。

 少なくともアストが何かしらの鍵を握っていることは確かだった。

 一体何がど──


「どうなっているんだ? と、言わんばかりの表情だな」

「お前は……さっきの?」


 銀髪に銀色の瞳、死んでしまっているかのように白い肌。鍛え上げられた肉体に、顔立ちは美形。

 その少年の銀の瞳は彼へと向いていた。


「ご名答。改めて、俺サマはアスト・ウィーザーテゥ、死神だ」

「…………っ」

「ウヒヒヒ、流石の俺サマでも初対面で、そこまで警戒されると心が痛むってモンだぜ?」

「自称死神とかいうやつに、警戒心を持つなという方が難しいと思うが?」

「カカっ。違いねぇ」


 そう言ってアストは愉快そうに笑いを見せる。そんな笑いとは裏腹に彼の警戒心は未だ解けずに、顔を強張らせている。

 そんな彼の顔を見てアストは切り出した。


「それじゃあ本題だ。──オマエ何故自分が死んだのか、分かるか?」


 思い出す。銃で撃ち抜かれ、血が流れ出し、燃えるように熱くなった痛み。殺された、そして死んだ。


「俺は……二発、銃で撃たれて死んだ」


 嘘偽り無く、これは彼が覚えていることであり、なんの問題もない……かのように思えた。

 

「あぁ、それがオマエの死んだ理由だ。それじゃあ次だ、何故殺されたんだ?」


 ──一瞬その言葉に疑問を感じた。

 だがそれは、言葉の意味を理解出来なかったからではない。頭がその問いの答えを導き出す術が無かったからだ。

 故に、彼は殺された理由が、


「……分からない」

「ふん。妥当な答えだな。人間は何よりも知らない、分からない、ということに恐怖を覚える。……しかし、オマエにはそれがこれっぽっちも伺えない」


 その質問の魂胆が露わにされていない質問に、彼は眉を細める。


「まぁ。そんなコトはどうでもいい、忘れろ。とにかくオマエは若くして命を落とした……17だったか? 若かったからな身体は無くなっても、魂は現世で元気に彷徨ってやがった」

「……彷徨っていた?」

「あぁ、そこを俺サマが拾ってやったんだ。あのままだと、悪霊になってたかも知れねぇな、感謝しろよ」

「昔、本で読んだことがある。死神っていうのは魂が悪霊にならないように冥界へと案内するのが仕事じゃないのか? だとしたら感謝もクソもないんじゃないか?」

「ハッ。容姿端麗なうえに博識かタチが悪いな」


 美麗な唇を歪め、アストは吐き捨てた。

 

「まぁ、そういうワケでそろそろ話も終わらせたい。俺サマも暇じゃないからな。……単刀直入に言わせて貰う。──オマエを異世界に転生させる」

「……は? 異世界……転生? バカバカしいにも程があるぞ」

「しかし、現に死んだ人間が生き返っているという実体験をオマエは目の当たりにしているハズだ」

「……っ」


 体内に血が流れ、呼吸をして、身体が動く。ここがどこであったとしても、確かに彼は生きている。最も、その事は彼自身が一番自覚していることだった。

 

「その怪現象を見てなお、オマエは異世界転生の存在を非難するか?……しないだろう。否、出来ないだろう。オマエはそういう人間だからな」

「……お前に俺の何が分かるッ!!」

「あぁ、全て知っている。オマエには俺サマの神話になってもらうのだからな。知っていて当然だ」

「……神話?」

「少し話し過ぎたな。所詮ここでの記憶も殆ど消えてしまうのだから関係ない」


 そう言って、アストは話を途中で投げ出した。

 彼は意味が分からなかった。この空間のことも、死神のことも、ましてや自分のことさえ分からなかった。

 彼の目の前でアストは不気味な笑みを浮かべて言う。


「あいにく俺サマは短気でな。この話もここでお開きだ。俺サマの神話の為に頑張ってくれよ……スメラギ・カルマ」


 次の瞬間、彼は分からなかったことさえも、記憶から消し去られていた。


 そして、彼──スメラギ・カルマは異世界へと転移した。



 誰もいなくなった空間で、アストは笑う。

 わらう、嘲笑わらう、微笑わらう、

 バカらしくなったのか笑止して、ふと暗闇に目を向けて、投げやりに言った。


「期待しているぞ……『絶えることのない命』《フラグメントエラー》」


 アストはそう言い残して、暗い空間へと消え去った。

 

いやはやどうもです。初めての方ははじめまして。おひさしぶりの方はお久しぶりです。時雨茉莉花です。

いや〜、異世界転移ってのは難しいですね。

でもでも頑張ります。始まったばかりですからねっ!!


それでは次で会えたら嬉しいです!!

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