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第5話・歌の案内人

 クマ達は、アライグマの先導で森を進んでいく。

心地よい風が森を吹き抜け、火照ほてった体に心地よい。

しばらくすると、暗かった森は日差しを良く通し、別の森のように明るくなった。

あちらこちらで鳥のさえずりが聞こえ、恐怖に駆られていたクマの心にも、少し余裕が生まれる。

アライグマは一本の木の前で立ち止まると、口笛を吹いて木の上を見上げた。


「ピーピー、コマドリ俺だ。 来てやったぜ!」


「チーチチチ、アライグマが来た!」

「暴れん坊のアライグマ!」

「食いしん坊のヘビと、ヨソ者も一緒だ!」

「アライグマが、森に客を連れて来た!」


 木のうえに止まるコマドリたちは、まるで歌うように彼等を迎えた。

クマたちは、まるで歌の舞台中央に立ったように、その様子に固唾かたずを飲む。

なんと美しい光景だろう。

アライグマは、コマドリに新しい仲間を紹介した。


「そうだ、こいつらは客人だ。 隣の森から来た心の友『オンボロライダー』だぜ!」


「へ?」


 一瞬、なにを言われたのか分からなかった。

しかし『オンボロライダー』が自分達の事だと分かると、キツネはそれを否定した。


「やめろ、俺たちはそんなじゃない」


「なんだよ不満かっ、『ブリッジファイター』でも良いんだぜ?」


 アライグマはどうしても、キツネ達に異名を付けたいらしい。

だがそんな名で呼ばれたらバカみたいだし、何より恥かしい。

この話を聞かない奴から、早く話の主導権を取り返さないと、いつまでも話が終わらない。

アライグマを差し置いて、直接話しかける事にした。


「俺たちはニンゲンに会いに来たんだ、居場所を知っているなら教えて欲しい!」


「・・・・・・チーチチ、ニンゲンなんか居ない!」

「ニンゲン居ない、でも森の奥の奥に新しい仲間来た!」

「ヒト型の変わった生き物住んでる!」

「石で出来たハコに住んでる!」

「とっても不思議な、フシギなふしぎな生き物!」


 一瞬の静寂の後、コマドリたちは知っていることを歌に合わせ話した。

アライグマの言ったとおり、なんでも知っていると言うのは本当らしい。

「それだ!」とキツネが反応する。


「案内してくれ、居場所を教えてくれるだけでも良い!」


 途端に歌が止み、代わりに木々の上からはヒソヒソ声が聞こえる。

しばらくして意見が纏まったのか、再び合唱が始まった。


「チーチチチ、それが住むの森の奥の奥のその先!」

「夜が2回過ぎても着かない場所!」

「冬が近い、我々とっても忙しい!」


 なかなか話に折り合いがつかないらしい。

コマドリたちは「タダはダメ」と連呼し、それは波のように森全体へ広がっていく。

 そして、そんな光景は否応無しにクマの心をえぐった。

ここまで来るキッカケをつくったのは自分なのに、ここまで何も出来ていない、流れに身を任すばかりだ。

『責任』の2文字が重くしかかり、その胸を焦がした。

そうだ、もう僕は『怖がり』だなんて言われない!


「お願いだよ、どうしても会って話がしたいんだ! もし僕に出来ることなら・・・・・」


 そこまで言いかけたところで、アライグマがクマを押しのけて前に出た。

木の上を見上げ、コマドリたちの居るところ(主に木の付け根)を、ゆっくりと指差す。


「この前の台風で巣がだいぶヤラれたろ、案内してくれたら巣箱を作ってやるぜ?」


 シンと静まり返る森。

ダメ押しに「生のパイソン柄付だ」と付け加えると、途端に森中が沸き立った。

コマドリたちが声をそろえる。


「アライグマが約束したっ!」

「冬が越せる!」

「我々の新しい家だ!」

「約束だ、みんな聞いた!」


「あぁ約束だ、だからさっさと案内しろ」


 ほどなく1匹のコマドリが先導する形で、ニンゲンの住むという場所へ向かうことになった。

これで目的がまた近づいたが、それよりクマは「またしても人任せにしてしまった」と肩を落とす。

視線は交わさずアライグマが、その後姿に肩に手を置く。


「さすが『オンボロライダー』だな、さっきのお前メチャ格好よかったぜ」


 クマが意外そうに顔を上げる。

そんな事を言われるのは、生まれて初めてだ。

だが、と彼は付け加えるように苦言を呈した。


「でもコマドリ相手に『何でもする』は禁句だ。 ナリは小さいが無神経で残虐な一面を持ってる。 生きたまま、目をついばまれたくなかったら、それだけは覚えとけ」


「え゛」


 思わず目を覆う。

もし言っていたら、コマドリたちは自分をどうしていたろうか。

そう考えるだけで、背中に冷たい何かが流れ、ゾッとした。

 そんな彼を、頭の上から小動物が慰めた。


「結果オーライじゃないか。 おかげで何もせずに、ニンゲンのところまで連れて行ってくれることになったんだ」


「行こうクマ君、ここまで来たんだ。 今は前に進もう」


「うん・・・・・」


 キツネ君に相槌を打ち、クマもゆっくりとアライグマ達の後を付いていった。

興味を持ったのだろう、ヘビがしきりに「パイソン柄」をアライグマに聞いているが、彼は答えず、コマドリを追った。

時おり振り向き、こちらを手招きする。

 本当に良かったのだろうか、あれで? 

そう思うとクマは、どうしても嬉しいだけではいられなかった。



◇◇◇



 森の奥の奥というだけあり、コマドリの案内する場所は、なかなか着かなかった。

野を越え、谷を渡り、山を越え、暗い森のなかをズンズン進んでいく。

飛んでは枝に止まり、こちらが着いてくるのを確認しては飛ぶコマドリが、唯一の目印だ。

 いい加減疲れたアライグマが「まだか」と聞いても、「まだまだ」と意思の無いような返事しか返ってこない。

 歩き始めてから2日も経てば、疲れも相当である。

次第に歩みも遅くなり、ある者は苛立ちを募らせ、無口になり、あるいは不安に駆られていった。

キツネがウンザリといった体で、アライグマの肩を叩く。


「なぁ、本当にコマドリは大丈夫なんだろうな? というか、本当に方向はこっちで合ってるのか??」


「知らねぇよ! ったく流れで一緒になったが、考えてみたら俺たちが付いて来ることなかったじゃないか!?」


 今さら「帰る」とも言い出せず、アライグマは軽快に飛ぶトリを追った。

ここまで来て、という思いがあるらしい。

それから暫くもしないウチに、不意に森の木々が途切れ、くぼんだ大地が視界に広がった。

同時にキツネ君が、ある一点を見て「あっ」と声を上げる。


「ニンゲンだ、人間が居るっ!」


「え、どこ!?」


 ほぼ同時に辺りを見回したが、自分たち以外に動くものは見えない。

いぶかしんでクマが視線を向けると、彼は大地の真ん中を指差し、興奮気味に答えた。


「あそこに煙が立っているのが分かるだろう、ニンゲンは火を焚くんだ。 もうすぐだよ!」


「おい兄弟、どうしちまったんだ急に? まだアレがニンゲンのものとは決まってな・・・」


 フォックの制止も聞かず、キツネ君は脱兎の如く谷を駆け下りていってしまった。

冬の支度があるらしいコマドリともここで別れ、クマ達も煙の上がっている方向へと進む。

木々の茂みに隠れて煙が見えにくくなるが、わだちのように続く不自然に出来た道が、確実にニンゲンのいる場所が近づいている実感を湧き上がらせた。

 途中で木々に阻まれ、歩みが遅くなっていたキツネとも合流する。


 ソレは森の木々の間から、唐突に現れた。

真っ白な石が積まれた壁に、天井から生える角から煙が出る、不思議なものが。

ところどころ壁には穴が開き、中の光が外まで明るく照らし出す。

 これがキツネ君の言っていた『イエ』というものらしい。

ドアに手を掛けるアライグマを止め、慣れた手つきでコンコンとドアを叩いた。


「何してんだ、さっさと入れよ」


「ノックだよ。 ニンゲンを訪ねる時は、こうするんだ」


 苛立っているアライグマに対し、キツネはいつもの落ち着いた様子を取り戻していた。

さっきの彼は何だったのだろうか?

疑問はニンゲンが現れたことで、払拭された。


「誰って―え、動物?」


 出てきた紅く豪奢な姿の少女は、意外な来訪者に驚きを隠せなかった。

 


 主な登場じんぶつ紹介 ※順不同 ネタバレ注意 一部伏字


・怖がりのクマ

本作の主人公。 母に会いたい一心で、願いが叶うと言われる池に、ドングリを投げ込む。

不安と恐怖に押し潰されそうになりつつ、その甘言に希望を見出した。


・イタズラ好きのリス

イタズラをするのが好きな、森の仲間。

居ることは居るが、特に活躍してない。


・お人好しのキツネ

世話焼きな森の仲間。 少々毒舌家。

クマと共に森に来たが、『ニンゲン』を知っているかのような発言があり、ナゾが多い。


・村長のフクロウ

森の長老。 夜行性のため、昼は話途中でも寝てしまう。


・副村長のウサギ

夜行性で、すぐ寝ようとするフクロウを起こすのが仕事。 拾い物の伊達メガネを掛ける


・隣の森のオオカミ

群れで行動する、隣の森のボス。 警戒心が強い。


・隣の森のキツネ

お調子者のキツネと言われる自称『フォック』 自分を大きく見せようとする傾向が強い

今さらながら「付いて来るんじゃなかった」と少し、後悔している。


・暴れん坊のアライグマ

ナワバリを持つ、気性が荒い。

面白そうな予感から、クマたちに協力してくれた。


・食いしん坊のヘビ

アライグマと行動を共にする大蛇。 性格はおっとりしている。

『パイソン柄の家』という聞きなれぬ単語に、かなり興味をもつ。


・歌上手のコマドリ

アライグマの友達。 見た目は可愛いが、残酷な一面も持つ。

付き合う際は、決して気を抜いてはならない。


・ニンゲン?

隣の森の、奥深くに住む紅い少女。 ナゾが多い。 博識。


※ 語録

パイソン柄 → ヘビ柄の事です


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