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第3話・もう一匹のキツネ

続きはまた夜以降、投稿いたします。

 こちらの森に住むと言う、もう一匹のキツネを前に、クマたち3匹は呆気あっけにとられていた。

森の奥深くに住むというニンゲンについて、なにか知っているらしかったが、もったいぶる様になかなか話を進めてくれない。

格好を付けながら、グッと親指を立てる。


「俺はこの森の番人さ、『フォック』って呼んでくれ。 それにしたって、ニンゲンなんかに会って、一体どうするってんだ?」


「ニンゲンの居所を知っているのか!?」


 クマが聞こうとするや否やキツネ君が、彼に詰め寄る。

言いだしっぺの責任を感じているのだろうか。

こんなにもニンゲン探しに躍起になっているのは、いつもはのんびりとしている彼の姿からは、想像も出来ない。

対して『フォック』は、完全に上から目線でクルクルと指を回して、それに答えていった。


「ああ知っているとも。 ここはなんせ、俺の庭みたいなもんだからな。 だが・・・・当然、タダで教えるってワケにはいかないよなァ?」


 この森のキツネは、見た目は同じでも性格は相当違うようだ。

完全に足元を見てモノ言うフォックに対し、キツネ君は不信を募らせていく。

フォックの視線は3匹の中から、クマへと留まった。

特に、肩の辺りに。

更に大きく口角を上げ、ヨダレが垂れる。


「そのリスをくれたら、案内してやってもいいぜ。 どうだ安いもんだろ?」


「えェっ!??」


 驚いたのはリスである。

面白そうだからと付いて来たのに、これではあんまりだ。

まさか自分が主役ささげものになるなんて、こんな事なら根っこに捕まったまま、そのままの方が良かったと思ったが後の祭り。

 逃げようにも勝手の知らない森では、すぐに迷子だ。

己の不幸にリスが震えていると、ガメツいフォックが横を通り抜けていく。

ちなみにリスも彼も、どちらも足先一つ動かしていない。


「「え?」」


「ニンゲンはさ、『イエ』っていう箱に住んでいるから、遠くからでも分かるんだ。 ともかく手当たり次第に探してみようぜクマ君」


「うん!」


 フォックを無視して、クマたちは森の中を進んでいく。

完全においてけぼりをくったキツネはと言えば、慌てた様子で彼等を追いかけた。


「ちょ、ちょっと! この森は広いんだ、道に迷って帰れなくなっても知らないぞ! おい兄弟、無視すんなよ!?」


 『兄弟』とはキツネ君の事を指すのだろう。

クマの隣を歩いていたキツネは一瞬立ち止まり、また振り返りもせずに歩き始めた。

去り際にヒラヒラと手を振り、別れの挨拶の代わりにする。


「じゃあな兄弟《《・・》》、せいぜい元気でな」


「本当に待てって! あ゛~、本当に危ないんだって、よぅ・・・・!」


 そう言いながらも、フォックは付いて来るようだった。

いつの間にか空は藍色に染まりはじめ、辺りには明るさが戻りつつあった。

だが晩、雲ひとつ無い晴天だったのが災いしたのだろう。

朝に一気に温度が下がった事で、空気と比べて温度の高い川からは、水蒸気上がり、雲のように広がって辺りを白く染め始めた。

 いわゆる『霧』の状態だ。

時間が経つにつれ霧は深くなり、森の中だと言うのに木々が見えなくなっていく。


「悪いことは言わないから、無理に進むのはやめとけって。 ヤバい予感がするんだっ、洞窟でも探して霧が晴れるのを待とう!」


(自称)森の番人フォックは、森に霧が掛かり始めてからと言うもの、ずっとこの調子だ。

視界が悪い上に湿っているせいで鼻も利きにくく、それがイヤなのだろう。

不満を愚痴にこぼしては無視され、また暫く黙る。 そんなのが続く。

 だがさすがにウルサイと感じたのだろう、キツネ君が皮肉を込めて言い返した。


「勝手に付いてきているのはそっちだろ。 それにさっき、ここは庭みたいなものだって言ってなかったか?」


「そうさっ、森の事なら何でも知ってるぜ。 だから利害ヌキで、親切に忠告してやってるんじゃないか、同族のよしみで!」


 さっきまでの自信たっぷりな様子とは打って変わり、フォックはどこか落ち着かない様子を浮かべる。

何かにおびえているようにも見える、さっきまでの自信たっぷりなのとは、まるで別人のようだ。

否応ナシに、クマのひた隠していた不安や恐怖などといった感情が、込み上げてくる。


「ねぇキツネ君、ちょっと休まない? 彼もあァ言っている事だし、リス君もそう思うだろう?」


 しかしリスからの返答は無かった。

かすかに耳にくすぐったい感触があり、どうやら裏側に隠れているらしい事だけが分かる。

食べてしまう発言からというもの、リスはずっとこの調子である。

 当分は出て来そうも無いので、あえて放っておく事にした。


「キツネ君?」


「ニンゲンが、ここの何処かにいるんだ・・・・・」


 キツネ君もまた、心ここにあらずといった様子だった。

この森に来てからと言うモノ、一体どうしたというのだろうか?

だがソレを気にする前に、森に木霊した獣の遠吠えによって、4匹を沈黙させた。

キツネ君が、ニッと笑いを浮かべる。


「・・・・野犬じゃないか?」


「違う・・・・ヤバい奴だ!」


 なんとか平静を取り繕うキツネに対し、フォックは首を横へ振った。

顔色は悪く、足元がガクガクと震えている。

 ほどなく霧の向こうからは、獰猛どうもうな目をした狼の群れが姿を現した。

それも一匹二匹どころでない、両側も背後も、完全に彼等に包囲されてしまった。

この状態で襲われれば、ひとたまりもあるまい。

フォックは緊張した様子で前に出て、うちの一匹に精いっぱいゴマをすった。


「えっへへへへ・・・・、おはようございますボス。 今日はお日柄もよく・・・・」


「挨拶はいい、妙なところで会うなキツネ? 滅多に森の中まで入ってこないお前が、どういう風の吹き回しだ?」


「今日はそのっ、遠い親戚が遊びに来てまして。 森を案内していたところなんです」


 狼はホウッと目を細め、クマたちを見た。

その言い知れぬ迫力に気圧され、誰も何も言葉に出すことが出来ない。

川を渡るだけで、住む動物も大きく違うようだ。

 『ボス』と呼ばれた狼は、もう一度フォックを見て「そっちのクマとリスもか」と皮肉ぎみに聞いた。

フォックは愛想笑いを浮かべ、「親戚の友達なんです」と言ったが、明らかに挙動不審な様子に、他の狼が唸り声を上げる。


「怪しいですぜボスッ、お調子者のキツネの言う事を信じるんですか?」


「皆殺しだ、今日は肉パーティーだぜ!!」


 狼達はヨダレをたらしながら、ジリジリとクマ達に近づいた。

それぞれが牽制するように距離をとりながら配置に付いたところで、ボスと呼ばれた狼が「やめろ」と止める。


「こいつらは獲物じゃねぇ客だ、ただし森は迷いやすいから、きっちり案内しろよキツネ。 はぐれて次の日、骨が転がってるなんて事もあるからな」


「はっはい!」


 ギロリと狼ボスが、フォックたちを睨む。

骨がと言うのは自分たちの事だろう、クマは背中に嫌な汗が流れた。

森に帰りたい気持ちが、いっそう強くなる。


「それとキツネ、北には近づくな。 分かったな」


「はいっ!!」


  去り際、狼ボスが念を押すように振り向きざまに注意した。

群れが木々の向こうに見えなくなった瞬間、緊張が解けたようにブハーッと誰かが息を吐く。

キツネ君がフォックに対し、質問をぶつけた。


「あの狼が、この森の村長なのか?」


「村長っ、そんな生易しいものじゃない! ハーッ、死んだかと思った。 お前等も命拾いしたな」


 とても大げさに言っている風には見えない。

あっちの森とこっちの森では、しきたりや習慣などが根本的に違うようだ。

あの狼達の獰猛な目つきは、今思い出しても生きた心地がしない。

 不安を抱えつつ、クマたちは逃げるように、この場を立ち去った。

道中もフォックは、付かず離れず後を付いてくるのが目に付く。


「フォックとか言ったか、どこまで付いてくる気だ?」


 とうとう我慢の限界が来たようで、キツネは煙たげに彼を見た。

しかしフォックは「なんで?」とでも言うように首を傾げる。


「はぁ? お前ら、俺から離れたら命は無いって聞いてなかったのか? 俺が居なくなったら狼達のエサにされるんだぞ」


「え、エサ」


 そうだった。

あくまでクマ達は客という『ヨソ者』であって、もし別れてしまえば、どんな目に合わされるか分からない。

改めて理解したクマは首をすくめ、大きな体がだんだん小さくなっていく。

 だがフォックは、そんなに親切ではないだろうとキツネは言う。


「何が言いたい?」


「だから、取引だよ。 今なら出血大サービスに、山ブドウ5杯で手を打つぜ」


 やはりか、と思った。

自分が取引から除外されたことに、リスはホッと安堵している。

しかし付いて来るだけ、それも秋も終わりに近い今、ブドウ5杯は多すぎる。


「1杯だ」


「4杯で、どうだ?」


「1杯」


「3杯!」


 フォックは少しずつ値切っていき、ようやくキツネ君は手でⅤサインを作った。

交渉成立とばかりに、フォックがぽんと手を打つ。


「よし決まりだ! なんならニンゲンの居場所も、追加料金にリスをくれたら・・・・・」


「それは却下だ」


「あっ、そう」


 リス君は気が気でない様子だが、これで明日に骨になるなどという心配もなくなった。

まだニンゲンとやらが何処に住んでいるかも分からないが、間違いなく前に進んでいるという実感に、クマは心が弾んだ。

 

 ところでニンゲンは、どうやって願いを叶えてくれるのだろうか?



 主な登場じんぶつ紹介 ※順不同 ネタバレ注意 一部伏字


・怖がりのクマ

本作の主人公。 母に会いたい一心で、願いが叶うと言われる池に、ドングリを投げ込む。

キツネにニンゲンの事を教えられ、やって来たが、早くも帰りたい気持ちになる。


・イタズラ好きのリス

イタズラをするのが好きな、森の仲間。

クマの背中に乗ってきたが、フォックに命を狙われ、気が気でない。


・お人好しのキツネ

世話焼きな森の仲間。 少々毒舌家。

クマにニンゲンの噂の話をして、一緒に森へとやって来た。

森で出会ったキツネ『フォック』を、邪険にしている。


・村長のフクロウ

森の長老。 夜行性のため、昼は話途中でも寝てしまう。


・副村長のウサギ

夜行性で、すぐ寝ようとするフクロウを起こすのが仕事。 拾い物の伊達メガネを掛ける


・隣の森のオオカミ

群れで行動する、隣の森のボス。 警戒心が強い。


・隣の森のキツネ

お調子者のキツネと言われる自称『フォック』 自分を大きく見せようとする傾向が強い

リスを狙っており、何かに付けて交渉材料に仕立て上げた


・暴れん坊のアライグマ

ナワバリを持つ、気性が荒い。


・食いしん坊のヘビ

アライグマと行動を共にする大蛇。 性格はおっとりしている。


・歌上手のコマドリ

アライグマの友達。 見た目は可愛いが、残酷な一面も持つ。


・ニンゲン?

隣の森の、奥深くに住む****。 ナゾが多い。 博識。


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