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第2話・隣の森へ

なんとか、完結させます。

 逆さ虹の森が2つ存在していることは、住んでいる動物達の間では常識だ。

森を分断するように川が流れており、両岸が崖の様に切り立っているため、行き来する変わり者は居ない。

 その川岸にクマとキツネと言う変わったコンビが、一心不乱に木の棒を水面に垂らしていた。

 

「うーん。 サケが上ってくるのは、まだ先だったか・・・・・」


「そうだね」


 軽く言うキツネに、クマは心ここにあらずといった様子で、ただジッと両手に持った木の棒の先を見つめた。

だがクマが肩を落としているのは、魚が釣れないばかりではない。

 朝の集会のあと、冬に備えて魚を釣りにいこうとキツネに誘われてきたのだが、彼も含め小魚一匹すら釣れていない有様だ。

陽も暮れ始め、どこからか動物達の寝息も聞こえてきて、より寂しさが誇張された。


「また昨日も、ドングリ池に行ったんだって?」


「うん・・・・・君も、笑うかい?」


 怖がりのクマが母に会いたい一心で、いつもドングリ池に通っている事は、森の誰もが知っている。

昨晩のリスだけではない、クマを小馬鹿にしている動物は、少なくない。

池にドングリを投げ込んで願いが叶うなら、みな、そうしているだろう。

 怒りや悲しみはではない、ただ、お願いをした後は喪失感が襲ってくるのだ。

しかしキツネはクマを見ず、ただ垂れ下がった竿を見て言った。


「笑いはしないさ、でもお願い事するだけじゃ、何も変わらないだろ? 自分から行動をしなくちゃ」


「でも、どうすれば・・・・・」


 聞き返すクマに対し、キツネは「よくぞ聞いてくれました」とばかりに、対岸を指差し答えた。


「あっちの森に最近、ニンゲンって生物が引っ越してきたらしいんだ。 『まほう』とかいう夢みたいなわざを使って、どんな事だって出来るんだぜ」


「夢をかなえるの?」


 願っていた夢が、現実になる。

それが本当なら、どんなに素敵だろう。 それこそ夢のような話だ。

 だが対岸の森という部分で、クマは二の足を踏んだ。

あちらへは流れが急な川を渡るほか無いが、両岸は崖で幅も広く、流れも急でとても渡れそうにない。

ヤケに自信たっぷりのキツネは、釣りをやめ、クマに付いて来るよう促した。

 そして、それは唐突に姿を現した。

木々の間から橋が架かっているのが見えたときは心が弾んだが、近づくにつれそんな気持ちは消えていった。

 両岸を結んでいる吊り橋は古く、あちこちボロボロで床板も腐り落ち、ところどころ黒い穴がポッカリと口を開けていた。

橋と言うのもおこがましい、かろうじて形を止めているだけ。 そよ風が吹いただけでも崩れてしまいそうだ。

 夜の闇が、クマの恐怖をいっそう駆り立てる。


「む、ムリだよ・・・・」


 こんなの、とても渡れない。

それにニンゲンとやらの事だって、ほとんど何も知らないのだ。

大人しく帰ろうとするクマだったが、キツネがそれを引き止めた。


「俺が先に渡るよ、それで安全だったところを渡ればいいだろう?」


「え、本当に渡るの?」


 まさか、本当にこれを渡ると言うのだろうか。

腰が引けているクマをよそに、彼はずんずん進んでいってしまった。

クマの中で、キツネへの再評価がされる。

橋の真ん中まで進み、大丈夫だろうかと思い始めたところで、ボリッと足元の木が割れる。

 「うわっ」とキツネの体勢が崩れ、川底へ吸い込まれそうになった。


「キツネくーーーーーーん!!」


「ふ、ふぅ・・・危なかった」


 間一髪、傍の縄を掴んで、もち堪えたようだ。

ハラハラしているクマをよそに、キツネはそのまま橋を渡りきることが出来た。

対岸に着いたところで、こちらへ手を振り、来るよう誘ってくる。


「なんとかイケそうだ、クマ君もおいでよー!」


 とてもそうは見えなかったが。

体の小さな彼でさえ床板を踏み抜いたのだ、子供とは言え図体の大きいクマが渡ろうとすれば、あっという間に川底行きだろう。

怖くて、足がすくんでしまう。

 そんな時、さっきキツネ君が言った言葉がクマの脳裏によみがえった。

―お願い事するだけじゃ何も変わらない、自分から行動をしなくちゃ―

いつまでも『怖がりのクマ』と呼ばれては居られない。

そうだ僕はもう、怖がりなんかじゃない!


「う、わあああああああっ!!!」


 意を決したクマは、ボロボロの吊り橋へと突進した。

振動で橋は限界を迎え、落ちてしまう。

しかしクマは構わず、勢いそのまま思いきり地面を蹴り上げ、大きくジャンプした。


「クマ君!?」


 クマは宙を舞い、対岸から伸びる太い木の枝の一本を掴む事に成功する。

しかし勢いの付いた巨体を支えるまでには至らず、木は根元からボキッと折れ、巨体は対岸の茂みへと投げ出された。

 運悪く、そこにあった木の幹に頭をぶつけてしまった。

そこへキツネが駆け寄ってくる。


「大丈夫かいクマ君! ケガは無い!?」


「う、うーん・・・・・?」


 頭を強打したクマは目を回し、とても大丈夫そうには見えない。

体を起こそうとしても頭がクラクラして、気持ち悪さに意識が持ってかれそうになる。

だがそんなのも、「あぶないっ!」というキツネの叫びによって覚醒させられた。

 体を避けた瞬間、ミシミシと嫌な音を立てながら巨木が倒れ掛かって来るのが視界に映った。

勢いの付いたクマの衝撃には、耐えられなかったらしい。

倒れた木は途中で折れることもなく、そのまま橋の架かっていたところに、ドスンと倒れ橋のように架かった。

帰りはコレを渡れば、良さそうだ。

ほっとしたのも束の間、キツネは先をかした。


「さぁクマ君いこう、この森のどこかにニンゲンが居るはずだっ」

 

 キツネは自慢の嗅覚を活かし、地面に鼻を付けながら森の中を進む。

置いてけぼりを食ったクマは、「待ってよう」とその後を追った。

見た目はあちらの森と大差ないが、不安からか木が大きく見え、時おり茂みが鳴るとドキッとする。

 不安になればなるほど、いらない事まで思い出してしまう。


「ねぇキツネ君。 ニンゲンってもしかして、母さんが危ないって言ってた『あの』ニンゲンかな?」


「たぶん、そうだろ」


「見たこと無いんだけど、口から火を吹いたり、目から光線を出すって本当??」


 どこ情報だ、ソレはと思ったがキツネだって、ニンゲンの事はあまり詳しいわけでもない。

隣の森と言う事もあるし、少なからず不安はあった。


「よ、よしてくれよっ、怖くなるじゃないか!」


「あ゛ーーーーーーーー!!!」


「「ぎゃあああああああ!??」」


 突然の叫びに驚き、抱き合うキツネとクマ。

するとクマの肩に目を覆って震える、小さな生き物の姿が確認できた。

このくだりは、一体何度目だろうか。


「リスッお前、いつの間に!?」


「いつまでも根っこに捕まっているはずが無いだろう!」


 あの後、なんとか根っこを抜けたリスは、2匹が川のほうに向かうところを見かけて、背中に飛び乗ったらしかった。

あの木には意思でも有るのだろうか、もう少し捕まえてくれていれば良かったのにと思ったが、今さらしょうがない。

 今の悲鳴でクマは、すっかり先に進む意欲をなくしてしまった。


「ねえキツネくん、今日の所は帰って、また日を改めて来ない?」


 今日はもう、ダメな気がする。

しかしキツネはと言えば、まったく変えるつもりはないように見えた。

無論ここまで来てという思いはクマにだってあるが、こんな鬱蒼うっそうとした森の中をアテなく彷徨さまよう事を考えると、怖いという思いの方が勝った。

 

「森の奥深くって言っても、どこかは分からないんでしょ。 だったら・・・・・」


「クマ君、誰と話しているんだい? 俺はこっちだぞ」


「えっ?」


 声のした方を向くと、そこにもキツネ君が立っていた。

だが、こっちにもキツネ君が居る。

もう一匹のキツネは口角を上げ、面白いモノでも見つけたように、クマたちを見下ろし、一歩前に進み出てきた。


「お前ら、ニンゲンに会いに来たんだって? わざわざ川を渡って来るなんて、かなり変わってるなァ」


 へっへっへっと、もう一匹のキツネは下卑た笑いを浮かべる。

このキツネは何か知っている、そう確信した。



 主な登場じんぶつ紹介 ※順不同 ネタバレ注意 一部伏字


・怖がりのクマ

本作の主人公。 母に会いたい一心で、願いが叶うと言われる池に、ドングリを投げ込む。

キツネにニンゲンの事を教えられ、隣の森へ行く事を決意する。


・イタズラ好きのリス

イタズラをするのが好きな、森の仲間。

クマの背中に乗り、隣の森へやって来た。


・お人好しのキツネ

世話焼きな森の仲間。 少々毒舌家。

クマにニンゲンのウワサを教え、隣の森へ一緒に行く。


・村長のフクロウ

森の長老。 夜行性のため、昼は話途中でも寝てしまう。


・副村長のウサギ

夜行性で、すぐ寝ようとするフクロウを起こすのが仕事。 拾い物の伊達メガネを掛ける


・隣の森の****

**で行動する、隣の森のボス。 警戒心が強い。


・隣の森のキツネ

お調子者のキツネと言われる******** 自分を大きく見せようとする傾向が強い


・暴れん坊のアライグマ

ナワバリを持つ、気性が荒い。


・食いしん坊のヘビ

アライグマと行動を共にする大蛇。 性格はおっとりしている。


・歌上手のコマドリ

アライグマの友達。 見た目は可愛いが、残酷な一面も持つ。


・ニンゲン?

隣の森の、奥深くに住む****。 ナゾが多い。 博識。


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