第1話・不思議な森
『冬の童話祭り2019』 平成最後の企画として、楽しく書かせていただきました。
心や想い、これらをテーマに書きました。 最後までお付き合いいただければ幸いです。
なお、童話っぽくない点など読みにくい部分が多いですが、ご勘弁下さい。
※短編のつもりでしたが尺の都合上、9話に分割して投稿させていただきます。
時間も無いので、少し駆け足ぎみで投稿させていただくので、よろしくお願いいたします。
なお予定は、変更となる場合があります。
ぽちゃんと、森の外れの池に波紋が立つ。
沈んでいくドングリを確認し、クマは池に手を合わせた。
どうか、もう一度、母に会わせて下さいと―。
『ドングリ池』と呼ばれる、ここには一つの噂があり、ドングリを投げ込んでお願い事をすると叶うと言われている。
しかし何度願っても、季節が何回巡っても、クマはまだ母に会えていない。
今日も何も現れない事に落胆していると、不意に湖が泡だっていることに気付く。
思いもかけぬ出来事にクマは驚き、湖の底から出てきた白い光を呆然と見た。
「神様・・・・・」
直感的に口からその名が出て、思わず手を合わせる。
光はキラキラと明滅を繰り返しながら、湖面や辺りを照らし、クマへ言葉を掛けた。
「―お前が好きなものを断つ事が出来たら、君の願いを叶えてやろう・・・・」
「え!」
ドングリを投げ入れれば願いがかなう、そう教えられて来たのだが、ソレだけでは叶えてくれないらしい。
思ったより俗っぽいのだなと感じつつ、好きなものとは何だろうと考えていると、神様はクマを諭すように言葉を掛けた。
「―お前はクマだから、木の実だな」
「えぇ!?」
なぜクマだと、木の実なのだろうか?
イヤそれより、これからずっと、木の実を一切食べられないと言うのはツラい。
でも母さんには会いたい、だからドングリ池に通ったのは事実なのだ、だけど・・・・。
「―どうしても木の実が食べたくなったら、採った木の実は利口なリス君に届けてあげなさい、くるみは特に大歓迎ですよ?」
どうも、おかしいのではあるまいか。
疑心に駆られたクマは視線を神(仮)から周囲の木々、そして背後へと移す。
しかし誰も居ない、やはり光は神様なのだと喜んだとき、手に何かが当たる感触があった。
よく見るとソレは細い、クモの糸のようなものだったがが、こんなもの森にあっただろうかと疑問は深まるばかり。
ナゼか糸の一端は光のある方へ繋がっており、もう一方をたどると背後、死角になっていた地面の方へ繋がっていた。
そこには、見慣れた小さな背中があった。 まだこちらには気付いていないらしい。
「―クマよ、なにを迷うのです? さあ早く木の実を捧げなさい」
「・・・・」
試しに引っ張ると、たちまちに糸はプツンと切れ、ドボンと光が池に落ちる。
犯人のリスも糸をしっかり握っていたため、木の葉のように体がハネ飛び、そのままクマの鼻頭へと落ちた。
目線があった瞬間「イッヒヒヒ・・・・」とバツ悪そうにリスが笑みを浮かべる。
池に落ちたものを確認すると、そこには小さな鏡の欠片が沈んでいた。
これに月の光が反射して、あたかも光っているように映ったようだ。
そっと沈んだものを引き上げリスに渡し、クマは肩を落として来た道を戻った。
「オイ待てよクマ君、悪かったよ。 謝るから、そう怒らないでおくれよ」
「今回も、母さんじゃなかった・・・・」
母が天に召されたのは、もう何年も前のことだ。
ある日、出掛けから帰ってきたときには体を横たえており、そのまま目を覚まさなかった。
以来、毎日のように『ドングリ池』に通っているが、どれだけドングリを投げ込んでも、母は現れない。
誰が言い出したことか知らないが、願いは叶ったのだろうか?
「なぁクマ君、そう落ち込むなよ。 皆いつかは死ぬんだ」
「リス君は、また親に会いたいとは思わないのかい?」
「僕は過去の事なんか気にしない、ソレより今を楽しまなくちゃ損だよ!」
リス君は両手を目一杯に広げて、答えた。
森でも有名なイタズラ好きの彼は、良く言えばいつも明るい。
母が死んで以来ふせってばかりいるクマとは、まさに対極にある。
それが(うと)ましくもあり、また羨ましくも感じていた。
空には満天の星空が輝いている。
母さんはこんなボクを見下ろして、何を思うだろう?
そんな答えのない疑問が、クマの胸を焦がす。
今日も結局のところ願いは聞き届けられず、そのせいか空が白み始める頃になっても、なかなか寝付くことは出来なかった。
やっと体の疲れのほうが勝り、まぶたを閉じかけたところで森の仲間が、朝の集会に行く時間になった。
天気も夜とは打って変わって空は曇っており、時おり雨粒が地面を濡らす。
「おはようクマ君! どうしたんだい、目の下にクマなんか作って?」
「うん・・・・」
誘いに来てくれたキツネ君は、ピンと立った耳や鼻をヒクヒクさせて、クマを心配した。
彼は母さんが居なくなって以来、いつも気に掛けてくれる、大切な友人だ。
せっかく誘いに来てくれたのだ、寝不足だからと断るのも悪いので、眠気を押して行くことにする。
集会が行われる『根っこ広場』までの道中、クマは眠そうに目をしばたたかせながら、昨晩の事をかいつまんで説明した。
話を聞いたキツネ君が、大きくタメ息をつく。
「はぁ・・・・またイタズラ好きのリスか、村長から大概にしろって言われてるのに」
「良いんだよ。 からかわれたって、しょうがない」
なんとなく分かっている、幾らドングリを投げ込んだところで、母さんに会えはしないのだという事は。
それでも止める事が出来ないのは、僕の気持ちが弱いせいだとクマは思っていた。
思えば小さい頃から狩りが苦手で、今でも木の実が中心の食生活を送っている。
リス君のように割り切れれば、どれだけ楽だろう。
すると隣のキツネ君が、あっと声を上げた。
「おいリス、ちょっと話がある!」
キツネ君が声を上げたほうへ視線を向けると、そこには茶色い小さな背中が見えていた。
キツネの声を聴いた瞬間、飛び上がるようにして、あっという間にリスは他の動物たちの影に消えた。
「こら、ちょっと待て!!」
リスは小さな体を生かして動物達の合間を逃げていったが、キツネとはあまりに大きさが違いすぎた。
森の仲間が何ごとかと、避けてくれたのも幸いし、あっという間に距離が縮まる。
しかしリスの動きが俊敏で、なかなか捕まえられない。
クマはぼうっと、2匹の様子を見つめていた。
「どうしたんだいキツネ君。 野生の勘が鈍ったかい?」
「やかましいわ! それより、イタズラも大概にしろって村長から言われてたろっ!?」
なんとか動きを止めようとするが、リスはヒラリヒラリとかわし、まだまだ余裕の様子を浮かべた。
それがより、キツネの苛立ちに拍車を掛ける。
「何のことだいキツネ君? 僕はイタズラなんかしな、うわっ!?」
リスが言いかけた瞬間、彼の手足は固いゴツゴツしたものに絡めとられた。
あっという間にリスは体の自由を奪われ、そのままうごめく木の方へ寄せられる。
キツネや森の仲間達は、その不思議な光景を黙って見ていた。
「ウソはよくないぞリス君、『根っこ広場』の木は嘘つきを捕まえて食べちゃうんだ」
リスはギリッと唇をかんだ。
刹那、キツネにも木の根が伸び、右手の自由を奪う。
「・・・・訂正する。 ウソをつくと、木の根から逃げられなくなるんだ」
言い直した瞬間、右手に絡まっていた木の根が外れる。
ここでウソをつくと、このように根っこが伸びてきて動けなくしてしまうのだ。
絞める力はそこまで強くは無いはずだが、クマの大きな手でも、中々それは外せなかった。
そんな彼らを気にも掛けず、どこからか広場には動物たちが続々と集まってきて、広場の中央にある大木をグルッと囲む。
ほどなく、枝の一本に老齢のフクロウが止まり、木の下にメガネを掛けたウサギが来たのを確認したところで、朝の挨拶が始まった。
「皆さん、おはようございます。 あいにくの天気ですが、今日は―・・・・グゥ」
フクロウは挨拶が始まるなり、木に止まったままで舟を漕ぎ始めた。
クマ同様、寝不足らしい。
メガネのウサギが真っ先に異変を感じ、う~んと咳払いをしたが、それでもフクロウが目覚める気配は無い。
「村長!」
「お、おぉーう。 えー今日は、冬ごもりの支度を始める日です。 安らかな冬眠が出来るよう、今のうちから―・・・・グゥ」
その後もフクロウは、起きては寝るを繰り返しながら話し続け何度目か、とうとうウサギは起こすのを止め、「注もーく!」と手を挙げて村長の代わりに挨拶を始めた。
「冬眠する動物も、そうでない動物も、今のうちから冬を乗り切る支度を始めて下さい。 念のため取り決めを三唱してもらいましょうか。 さんはい!」
ウサギはまるで音楽の指揮者のように、大きく手を振る。
それに合わせ森の動物たちは、この森の『取り決め』を合唱した。
「ケンカせず、譲り合って、楽しく愉快に暮らします」
「はい、よく出来ました」
これは昔、森の動物たちが話し合って決めた、皆が仲良く森で暮らしていく為に作られたらしい。
違う動物同士でも仲良く、大きなトラブルを起こさないようにと、作られたそうだ。
下が騒がしかったせいだろう、フクロウが目を覚ましたが、ウサギは無視して話しを続ける。
「朝晩が冷えるので、病気や怪我が無いように気をつけて。 困ったことがあったら、必ず助け合って下さい。 『逆さ虹の森』の動物は、種類が違っても仲間だという事をお忘れなく! では私も樹皮を集めねばなりませんので、これで朝の集会を終わります」
言い終えたウサギは、あっという間に森の中へと消えていった。
それに呼応して他の動物達も次々、冬支度のため森の中へと戻っていく。
クマも戻ろうとしたところで鼻頭に雨粒が当たり、クシュンとクシャミが出た。
濡れてしまった体を、ブルブルと震わして飛ばし、ほぅと空を仰ぎ見て、クマは「あっ」と声を上げる。
空には雨粒に陽の光が反射して、美しい七色のアーチが掛かっていた。
何匹か気が付いた動物達も、それぞれ束の間だけ架かった美しい橋を、静かに仰いだ。
―逆さ虹の森―
それは、いつからか言われた、この森を指す呼び名。
しかしクマを含め誰も、逆さの虹など一度も見たことが無い。
主な登場じんぶつ紹介 ※順不同 ネタバレ注意 一部伏字
・怖がりのクマ
本作の主人公。 母に会いたい一心で、願いが叶うと言われる池に、ドングリを投げ込む。
・イタズラ好きのリス
イタズラをするのが好きな、森の仲間。
・お人好しのキツネ
世話焼きな森の仲間。 少々毒舌家。
・村長のフクロウ
森の長老。 夜行性のため、昼は話途中でも寝てしまう。
・副村長のウサギ
夜行性で、すぐ寝ようとするフクロウを起こすのが仕事。 拾い物の伊達メガネを掛ける
・隣の森の****
**で行動する、隣の森のボス。 警戒心が強い。
・隣の森の***
お調子者の***と言われる******** 自分を大きく見せようとする傾向が強い
・暴れん坊のアライグマ
ナワバリを持つ、気性が荒い。
・食いしん坊のヘビ
アライグマと行動を共にする大蛇。 性格はおっとりしている。
・歌上手のコマドリ
アライグマの友達。 見た目は可愛いが、残酷な一面も持つ。
・*****
隣の森の、奥深くに住む****。 ナゾが多い。 博識。