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ガラス越しの犬と猫

作者: 川初 流

僕は犬。

ここのお屋敷で飼われているしがいないワンコである。


綺麗に切りそろえられた庭木や美しいお花が咲く広いお庭の片隅に立派な小屋を与えられ、のんびりと生きている。


僕のご主人様はとても可愛らしいお嬢様。かわいくふわふわしたものが大好きな女の子である。そんなご主人様と毎日幸せに暮らしている。


毎日おいしいご飯をくれて、太陽が照りつく暑い夏の日や冷たい風が吹く寒い冬の日は暖かい室内に入れてくれる。


え? 野生のプライド?

産まれた時からお嬢様に飼われている僕にはそんなもの存在しない。

毎日体も心も満たされて幸せなんだもん。


そんな僕のところにある日、一匹の猫が訪れた。


“野良猫”


と、ご主人様に呼ばれていた。


目が鋭く、身体も薄っすら汚れている。いつもお腹が空いているのか、僕の隙を見てたまにご主人様がくれるおいしい餌を奪っていった。


けれども、僕は何も困らなかった。

餌が奪われればそれに気づいたご主人様が僕の分をあとからちゃんと与えてくれる。

少しご飯の時間が遅くなったところで全く問題ない。


猫もそのことに気づいたのか、定期的にやってきては僕の餌を食べていくようになった。



秋も深まる頃・・・

しばらく見ないな、と思っていた猫が小さな子供たちと一緒に再び現れた。


2匹のにゃんこはあの猫の子供なのか・・・

まだ生まれたばかりで小さく、ふわふわでとてもかわいかった。


「あら、かわいい子猫!!」


餌のことを親猫から教えてもらった子猫の1匹が僕餌を食べに来ていたその時、ご主人様がちょうど庭にやってきた。


汚れてはいるものの小さなその体と真っ白な毛、青い瞳がお嬢様のお気に召したようだ。

お嬢様は細く白い綺麗な手でその猫を捕まえて、お屋敷の中へ連れていってしまった。


猫は小さくニャーニャー鳴いていたが、その小さな体では抵抗も出来ないようだ。


そして、白い子猫はお嬢様がお屋敷で飼われることになった。


親猫は何度も何度もやってきてはガラス窓のところで鳴いていたが、子猫が戻ることはない。もう1匹の子猫もとても寂しそうにしていた。



季節は巡り、あっという間に寒い冬がやってくる。

猫は毎日、毎日お屋敷のところにやってくる。ガラスの向こうには白い子猫を抱いたご主人様。猫の声は届かない。


猫はあの日から僕の餌を食べなくなった。


“もう餌は食べません、だから私の子供を返して”


そう訴えているように見えた。


ガラスの向こうにいるお嬢様にはそのことは伝わらない。子猫が寂しそうな瞳で猫を見つめているだけ。


風が冷たくなり、白い雪というものが降り始める頃、僕はお屋敷の中に入れてもらえた。

変わらずご飯はおいしいし、とても暖かくて心地よい。


“帰りたい、お母さんのところに帰りたい”


白い子猫の声が聞こえてくるようだった。

けれども、猫と子猫の間には薄くてけれども決して通すことのないガラス窓がある。お互いの姿を見ることしか許されない。


気付けばもう1匹の子猫は来なくなっていた。

いや、子猫と呼ぶ時期は終わったのだろう。白い子猫もおいしいご飯をもらって気付けば親猫と同じくらいの大きさになっている。


猫はそれでも、このお屋敷にやってくる。

外ではあまり餌もとれないのだろう・・・猫の細かった体は更に痩せ細り、雪の中体を震わせている。


“餌をとって、ごめんなさい。ごめんなさい。だから、その子を返して”


お嬢様は餌なんて些細な事、気にもしていない。

ただこの子猫が可愛かったから、それだけで連れてきたのだろう。


暖かい部屋でおいしいご飯をもらえる、幸せな環境。

だって、僕は幸せだった・・・


・・・だった?


庭が一面雪で真っ白になった日、ふらふらになった親猫が再び庭に現れた。

もう気力しか残っていないのだろう。


けれども僕にはどうすることも出来ない。


“僕が君の代わりに白猫を見守るよ”


ずっとこの猫と庭で会っていた。

けれど、目が合ったのはこれが初めてだった・・・


野良猫は僕を見つめ、最期に白猫に視線を向けると弱い足取りで庭から去っていた。


それ以来、猫の姿を見たことがない。


僕はお嬢様に飼われている幸せな犬。

けれども心がちょっと苦しい出来事があった。何故かはわからない。


ただ、同じお屋敷で暮らすこの白い猫と仲良く、一緒に幸せに生きていこうと思う。

と、いう夢を見たので文字にしてみました。

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