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高く上がれ!

高く上がれ! 瞳子→洸汰

作者: 佐倉小春

高校三年の瞳子が一年生の男の子に好かれる話。

高く上がれ!①の続編 瞳子視点のお話です。

 我が陸上部に新入部員が入部してきた!

 それはとても喜ばしいものなのだが、問題が一つ。新入部員の中のひとりが、テニス部が待ち望んでいた逸材だったのだ。


 私が勧誘したのではないが、テニス部からの攻撃がすごくて、ちょっと辟易している。

 文句があれば本人に言えばいい!と何度も抗議したのだが、

瞳子(とうこ)に一目惚れして即決したって聞いたぞ!」

と根も葉もない噂を信じて「か~え~せ~」と毎日うざいくらい。

 私からも何度かテニス部が待ってるわよと見学くらいいくように促しても「テニスはいつでも趣味で続けられるのでいいです」とか言って聞きゃしない。


「俺は別にテニスの特待生として入学したわけではないので、部活は自由に選びます。たまたま姉が硬式テニスのクラブに入っていたのでくっついてやったけど、自分で選んだわけでもなくなんとな~く続けていただけだからいいんですよ」


 サラッと言うけど、なんとなくで全国大会には行けないのよ。部活とは別にジュニアの試合にも出ていたと聞いている。


 ブンブンとしっぽを振っているのではないかと思うような後輩は鈴木洸汰といった。

 人懐こい笑顔が可愛くて、入部早々陸上部のマスコット的存在となった。強面のキャプテンでさえ彼のキャラクターに陥落されている。


 ため息を付きながらストレッチを始める。うちの陸上部は各種目に分かれて練習をしている。準備ができたものから各自でストレッチと準備体操をしつつ顧問の先生を待ち、軽くミーティングをして練習開始。

 私は短距離なんだけど、噂の一年生鈴木くんも短距離なので私の後ろをついてくる。

 

 テニスをしていただけあってスタミナがある。当然顧問は長距離を勧めたが、彼は頑として短距離にこだわった。その理由が「木村先輩のようにかっこよく走りたいんです!」というから目眩がする。テニス部から睨まれる理由がこれだ。人をだしに使うのはやめて欲しいと切実に思う。

 テニス部の奴らは勘違いしてる。走る姿を褒められたのであって、私という人間に惚れているのではない。ここに色恋は存在していないということに気づいていほしい。

 私は……しばらく恋とかそんなのいいかなって……

 それよりも目の前の高校最後の総体に全力を出し切ることに集中したい。


 三年間の高校生活で、部活に参加できるのは実質二年ちょっと。三年の五月には総体の地区予選が始まって、負けたらそこで終わり。地区予選で勝てれば県予選、全国へと続くから夏までは部活を続けられる。

 部活が終わったら勉強一色の生活が待っている。

 今が三年生でよかった……部活が終わったら勉強でやらなければいけないことが明確でわかりやすい。他のことに気を取られている暇はない。


 「瞳子(とうこ)軽く流してー!!」

 マネージャーが100m向こうのゴールラインから声をかけてくる。返事の代わりに手を上げてから走り始める。ウォーミングアップは終わっているけど、一応軽く流して走る。

「かっこいいー!!」

 目をキラキラさせながら数人の女子部員が拍手している。

「瞳子先輩すてきー!」

 まだ、流してるだけなんだけど‥…と思っていると、女子部員の中に何故か鈴木くんも混じってる。一緒にパチパチ手を叩いてる。

 真面目に走るように促そうとしたとき、

「俺も瞳子先輩って読んでいいですか!?」

と力が抜ける声が飛んできた。

 もう勝手にして……



 そして--あっという間に私にとって最後の総体が始まり、地区予選は突破!!一ヶ月後の県予選は予選は通過したものの、決勝で0.5秒差で二位だった。

 悔しくて、悔しくて、でも、みんなの前では涙は出さないように頑張って……

 応援に来てくれていた友達や部活の仲間が慰めてくれるのが辛くて、一人になりたかった。


 親が迎えに来るからと嘘をついてみんなに先に帰ってもらった。

 競技場の裏で一人になったら自然と涙が出た。体中の水分がなくなるのではと思うほど涙が出たのは人生二回め。去年以来。

 一人で目にタオルを当てて、涙が出るがままにしていると……

「瞳子先輩……」

 背後から声をかけられてびっくりして振り向くと鈴木くんが立っていた。

 どれぐらい泣いていたんだろう……辺りは薄暗くなってきていた。


「すみません、俺……」

 いつからいたのだろう。彼がそこに立っていた。

 いつもの人懐っこい笑顔じゃなくて、真剣な表情。

「こんなときにすみません、どうしても伝えたいことがあって」

 年下で弟のように感じていた彼が急に男の子何だと気づいた。二歳下だけど、そんなことは関係ない。茶化してはいけないと感じる。


「俺…瞳子先輩のことが好きです!」


 顔を赤くしながらそれでも視線はまっすぐ私の方を捉えたまま、離さない。

「どうして今?」

 全国出場を逃した傷心の私に告ってもまともな反応が帰ってこないかもとは思わなかったのか。

「先輩が現役のうちに伝えたかったんです!」

 ああ、今日で現役じゃなくなるからな……とぼんやり気づく。

「三年生はこれから勉強が忙しくなって俺のことなんて存在ごと忘れてしまうかもしれないし。それに‥…」

「それに?」

「他の先輩たちに瞳子先輩を取られたくなかったので」

 恥ずかしそうに視線をそらす。あまりの可愛い仕草にこっちまで赤くなりそう。

「そんな心配は無用よ。同級生で私のことを好きになる男はいないわ。だけど、ごめん。今は彼氏はいらないの」


 ちゃんと断ったはずなんだけど、彼は急に目を輝かせてずいっと身を乗り出してきた。

「今は!ですか?」

「へ?」

「今はいらないけど、未来は分からないってことですよね!」

 しっぽが見えそう……なんてポジティブシンキング。前向きだなぁ……

 くすっと思わず笑みが溢れた。

「そうね、とりあえず、身長が私を抜かしたら考えてもいいわよ」

 彼の頭をポンポン叩くと「もう、年下扱いしないでください」と彼も笑っていた。

 どん底底辺にいたような気分が上昇していくのを感じていた。



 そして、まだ肌寒い三月一日、私は卒業式を迎えた。

 私が鈴木くんに告白されたという噂が流れ、付き合ってるのかの真偽をいろいろな人に聞かれたが、付き合っていないというのが現状。少しお気に入りの後輩という立ち位置のまま今日の日を迎えた。

 

「瞳子先輩!卒業おめでとうございます!」

 にこやかに近づいてくる彼。手に持っている花束を差し出してくれる。

 お礼を言いながら素直に受け取ると、彼は私の頭に軽く手をおいてニコッと笑った。

「瞳子先輩に追いつきましたよ。追い抜くのももうすぐですから、待っててくださいね!」

 確かに目線が同じ高さ。目が合うとちょっと照れちゃう。


「私もまだ伸びるかもよ!」


といいながらも、本当は彼の身長が私の身長を追い抜く日を心待ちにしている。でも、そのことは誰にも言わない、私だけの秘密。












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