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フリーター、魂を刈る。  作者: なつかし
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記録 フブキの父親

第1話より過去の話となります。

 私は、鎌倉 豪雪(ゴウセツ)

 25歳、トウキョウで働く普通のサラリーマンだ。

 今日も営業で回っているが、体格もよく強面なせいなのか成績が芳しくない。

 会社に戻ったら、また怒られるだろうか。……気が滅入る。


 横断歩道で信号が青になるのを待つ。

 ――車が激しく往来する道路の中、小さくて白い何かが動いているのが見えた。


 ……白猫だ。


 このままでは白猫が車に轢かれてしまう、そう思った私の身体は勝手に動いた。

 危険は承知だったが、仕事のことで頭がいっぱいで正常な判断ができなかった。

 ……いや、あのときの私にとっては正常で最善の行動だったと思う。


 道路に踏み込み、勢いよく駆け込んだ。


 ――鳴り響くブレーキの音、そして鈍い音がした。

 その瞬間、私は気を失った。


 しばらくすると、暗闇の中にぼんやりと光が見えた。


「初めまして、わたしは『ユキエル』と申します」 

 女性の声が聞こえる。


「あなたは何者なんだ? ……私は死んだのか?」

「わたしは、通りすがりの天使……とでも言いましょうか。あなたは今、生死の狭間を彷徨っています。」


「なぜ、私に話しかけるんだ? 天国にでも連れて行く気なのか」

「――あなたは、まだ死ぬべきではないと思ったから……」


 ……私は、ゆっくりと目を開けた。


 気づくと、私は病院のベッドの上に横になっていた。

 不思議と身体に痛みはほとんどないし、普通に起き上がれる。


「よかった、ちゃんと治療できたみたいです」

 ベッドのすぐ近くの椅子にまるで天使のように美しい女性が座っている。


「ユキエルさん……ですよね」

「その名前はもうすぐ剥奪されることでしょう。『雪恵(ユキエ)』……とでもお呼びください。」


 天使が神様の命令無しに勝手な行動を取るのは許されない。

 天界からの完全追放……天使のチカラと名前を失うのだ。


「ユキエは……この後どうするんだ?」

「地上で人間として暮らします。何回か偵察に来ていたのでなんとか……」

 なんとかなるはずがない。


「だったら、私と一緒に居てくれ」

 いきなり何を言ってるんだ……。だが、運命というものが本当に存在するなら、それは今。

 それに、命の恩人を放ってはおけない。


 ――その後、私とユキエは結婚し、少しだけ広めのマンションで幸せに暮らす。

 幸運なことに、すぐに息子が産まれた。

 息子の名前は、強く生きられるように『吹雪(フブキ)』と名付けた。


 少し経つと、ユキエの食欲が減ったり、咳が目立つようになってきた。

 天使から人間になると、必然的に虚弱体質になる。

 ユキエは、大丈夫だから心配しないように私に言う。


 ――深夜、トウキョウ某所。

「あの程度の天使に、冥府へ送りかけられるとは……。なんとか地上に戻ってきたのデス」

 フラフラと街を彷徨う背と鼻の高い男は、ユキエルに対して恨みを露にする。


 ――別の日の昼、ユキエは買い物に出かけ、スーパーに向かう途中。

 男は、見覚えのある女性を発見する。


「クックック、ついに見つけたのデス。天界から追放されたと聞いていましたが本当のようデスね」

 ユキエの元に男が近づく。

「天使のチカラを失ったお前など、もう怖くはないのデス!」

 積もり積もった恨みをぶつける。


 『呪い』だ。


 ――ユキエは道端で倒れているところを通行人に発見され、病院へ搬送された。


「大丈夫か!? ユキエ!!」

 私は、大急ぎでユキエの元へ駆けつけたが返事はなく、気を失っているようだ。

 医者によると、原因は不明、常に熱がある状態で、少し前まで咳や嘔吐がひどかったらしい。

 治る見込みはなく、絶望的だと言われてしまった。


 私とユキエ、二人しかいない病室に背と鼻の高い男が入ってきた。

「……あなたは?」

「ワタシは医者、その女性は不治の病に侵されています。ワタシなら治せる可能性があるのデス」

 医者と言うが、さっきまでいた医者とは別人で胡散臭い。しかし、治せる可能性があるなら……。


 その男は、6億というワケのわからない額を提示してきた。

 これでユキエが助かるなら迷っている暇はない、私はその話に乗った。

 私は、男が紹介してくれた金融から6億の借金をする。


 しかし、その病が治ることはなく、フブキが7歳の頃、ユキエは亡くなった。


 ある日、私の目の前に紅いローブを着て鎌を持った女が現れた。その姿はまるで死神。

「あなたから、悪魔と取引をした痕跡が見つかりました。魂を刈らせていただきます」


 いきなりだったが、私は驚くほど冷静だった。

 悪魔? まさか……あの時の男か。つまり、私は騙された。

 魂を刈るとは、死ぬということだろうか。

 「ま、待ってくれ! せめて、息子が、フブキが高校を卒業するまで……!!」


 悪魔と取引をした者の魂が、悪に染まる前に回収しなければならないという。

 それが、提示した期限のギリギリだった。


 ――フブキが14歳になった頃。

 玄関に小さなお客さん。可愛らしい5歳ぐらいの女の子。

 白いワンピースに、白くて綺麗な羽がちらほらとくっ付いている。

 一目見て分かった、私とユキエの娘だと。


「……こんにちは、……ママとあそんでたの」

 少し怯えているのか、白い猫のぬいぐるみを抱きしめている。

 女の子は、今までユキエと遊んでいた。何も不思議に思わなかった。


「いらっしゃい、小雪(コユキ)

 私とフブキは、不器用な笑顔でコユキを家族として迎えた。


 ――月日は経ち、フブキが高校を無事に卒業。


「約束の時だ、死神さん。君にも今まで世話をかけてしまった、ありがとう」

 紅い死神が少しだけ悲しそうな顔をした……ような気がした。

 私が、自宅のベッドで仰向けになると、死神は一礼する。


 ――私の周りには、紅い綺麗な花びらが散った。



 ……フブキ、コユキ、そしてユキエ、


 本当に……すまない……。

過去の話をこの回にまとめたとはいえ、詰込み過ぎましたかね……。

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