最終話 俺の天職
ヘヴンタワーを目指し町を破壊しながら進むアポカリプスを止めるべく、俺とカルディナは進行方向の先回りを狙う。
カルディナは、ペンダントから炎獣ベルガモットを召喚する。
その姿は、完全にチカラを取り戻しており、最初に見たときと同じ大きさで頼りがいがある。
「ベルガモット! 私とフブキを乗せてあのデカブツを追いかけてちょうだい!」
ベルガモットはカルディナの声に応えるように吠えると、俺とカルディナを背中に乗せ走り出す。
風を切り、物凄いスピードで走るベルガモットに必死でしがみ付く。
「落ちないように気を付けなさいよ!」
「わ、わかってる。けど、うおあっ!」
俺は振動とスピードに、背中から危うく落ちそうになる。このスピードで落ちたら、確実にただじゃすまないだろう。
「大分、アポカリプスとの距離も詰められたみたいだな。一旦止めてくれ!」
周りを見ると、謎の生命体らしきものが動いている。悪魔のようにも巨大な昆虫のようにも見える。
そして、それらと戦っているのがハデス社の天使や死神たちだ。これも、アポカリプスが原因だろうか。
「カルディナさん、そしてフブキさん! ここはボクたちに任せてあいつを!」
「うああー!」
「そうです! ワタシたちにも手伝えることを、だから!」
「きゃああ!」
黒いローブを着た死神たち、ハデス社のヒトたちだ。彼らも必死に戦っている。しかし、謎の生命体を倒しても倒しても湧いてくる。アポカリプスの這った後からも生まれてきているのだ。
「くっ、この雑魚共は私とベルガモットで焼き払うわ! フブキ、あんたはあいつを、アポカリプスを止めるのよ!」
「あぁ! で、でもどうやって……」
「サタンを倒したユミル、あんたなら絶対にできるって、信じてる!」
俺は、カルディナの言葉で目が覚めた。俺はフブキである前に、今は死神『ユミル=ブリザード』だ。
カルディナはベルガモットに跨ると、勢いよく走りだし周りのうごめく生命体を業火で焼き払う。
まずは、いかにアポカリプス本体に近づくかだ。俺は、氷の結晶を作り出し、それに乗る。冷気を操りあいつのところまで飛ぶんだ。
しかし、速度的にも、俺のチカラ的にも無理がある。たどり着いてもエネルギー切れじゃあいつを倒せない。そう考えながらも止まるわけにはいかない。ひたすら飛ぶ、なんとかなるならやるしかないから。
「なっ⁉ うああっ!」
アポカリプスから伸びる触手、ギリギリで避けたが氷の結晶は破壊され、地面に向かって真っ逆さまだ。
「うああああああああああ!」
「……?」
「お待たせしました。すみません、ご迷惑をかけていたみたいで」
「――まさか、アダム⁉」
なんと、黒いローブを纏ったアダムが空中で俺を抱えたのだった。そして、俺を抱えたまま猛スピードでアポカリプスに向かって飛行する。
「アダム、なんでここに! それに……」
「あの後、ハデス社のエンジニアの方に修理していただきまして。これ以上は話すと長くなりますので」
「そうだったのか、助かるぜ!」
アダムの様子は、前に戦った時とは全く変わっていた。敵の時は恐ろしかったが、今は心強い味方なのだ。
「では、飛ばします……!」
「うおっ!」
アポカリプスから伸びる無数の触手が、アダムと俺に向かって襲い掛かる。アダムは回転飛行を駆使して避ける。正直、酔いそうだ……。
――ドガァッ! システム損傷。
「お、おい! 大丈夫か? アダム!」
「すみません、右半身に大きな損傷が。……私はどうやら、ここまでのようです」
アダムはそう言うと、俺を左腕で掴み、空中に勢いよく放り投げると、地上に向かって消えていった。
「あとは、頼みましたよ! イヴ!」
「――了解ッ!」
どこからともなく、こちらに高速で飛行してきた物体が俺を抱える。なんと、アダムと同じアンドロイドのイヴだった。見覚えのあるオレンジ色のローブを羽織っている。
「イヴ⁉ お前もだったのか!」
「はい、アダムから聞いていると思いますが、アタシも修理していただきました」
「そうか。……着れたんだな、そのローブ」
「――はい」
これ以上は深く語ることはなかった。急いでいるのはそうだが、このことは時間があっても話さないだろう。
「アダムの分まで、飛ばしますよ」
「頼む!」
アダム同様、触手を避けながら飛行するイヴ。腕を変形させ射撃で触手を撃ち落とす。俺も氷を飛ばして援護しようとするが、余計なチカラを使うなとイヴに止められてしまう。
「あと、もう少し!」
「とどけええええええ!」
――ズガァッ!
アポカリプスの触手が、イヴの胴体を貫通した。
――システム停止。
イヴは、俺をアポカリプスの方へ投げようとしたが、力尽き、地面に向かって落下する。
「うおああああああああ!」
今度こそ、終わったか。本当にここまでなのか……?
「……」
柔らかくて、温かい……?
「お兄ちゃん!」
誰よりも聞きなれた声だ。
「コ、コユキ⁉ どうしてここに、てか、危ないところに来ちゃだめだって言っただろ!」
コユキは白くて美しい翼を広げ、俺を抱える。
「今そんなこと言ってる場合なの⁉」
「そ、それは……。重くないか? 大丈夫か?」
「今のお兄ちゃんは、ちっちゃいから大丈夫だよ。だから、頑張ろう!」
俺はコユキに、アポカリプスの頭部を目指すように頼んだ。一刻でも早くコユキを帰らせたいが、今はコユキに甘えるしかない。こんな時だからこそ、頼れる妹だ。
コユキが羽ばたくと白い羽が舞う。あの時を思い出すな……。それと同時に、先ほどのアダムとイヴの光景が脳裏に浮かぶ。
「もう少し、お兄ちゃん! 跳んで!」
「最高だ! コユキ!」
コユキが投げ、俺が勢いよくアポカリプス目掛け跳躍する。咄嗟に氷槍を作り出し、アポカリプスの頭部に突き刺すことで着地できた。黒くぶよぶよした不気味な感触だ。
「きゃあっ!」
アポカリプスの触手が、コユキに向かって叩きつけられた。白い羽が舞い、コユキはそのまま地面に向かって消えていく。
「コユキィイイイイイイイ!」
危うく飛び降りそうになる。だが、だめだ。コユキだけではなく、みんなの思いをムダにしてしまう。踏みとどまれ、俺……。
「コユキちゃん! ベルガモット、頼んだわよ!」
カルディナは、ベルガモットを猛スピードでコユキの落下地点の真下に向かう。
「……お姉ちゃん!」
カルディナは両腕でがっちりとコユキを受け止めた。その時にはすでに、コユキは天使の白い翼を失っていた。そして、コユキの身体は白い光で覆われていたが、間もなく消えてしまった。
「コユキちゃん、お兄さんがいくら心配でも無理しちゃだめよ……」
「……ごめんなさい」
「天使のチカラ、消えちゃった。ママが守ってくれた」
一方、アポカリプスの頭部にたどり着いた俺だが、外部からこいつの魂を刈ることはまず不可能だろう。それに、頭部を攻撃しても効果は期待できなさそうだ。
「おい! アポカリプス、聞こえるか! 俺を喰らえ!」
俺は、必死に叫び、アポカリプスを叩き、蹴りつける。すると、アポカリプスは、大口を開け少しだけ上を向いた。
このチャンスを逃さまいと、俺は効果があるかは分からないが、自分の身体を冷気で纏い、その大口に飛び込んだ。
ひたすらに気持ち悪い、暗い。だが、ぶよぶよしていて、半透明なのがわかる。外の景色がうっすらと見える、気がする。
アポカリプスの身体の構造はいまいちわからないが、おそらく中心まで来たら少し広い空間があった。
そこの奥に、巨大な黒いモヤがぶよぶよした身体を挟んで確認することができた。
俺は氷塊を飛ばし、肉壁を削る。飛び散った肉塊はうごめき、アポカリプスの一部にすぐに戻ってしまう。愛鎌スノードロップにスイッチを入れると青白い刃が姿を現す。それを振るうと、巨大なアポカリプスの魂が姿を現したのだった。
「こ、これだ! これをどうにか……」
しかし、肉壁はすぐに再生し、今度は俺を吸収しようと周りの肉がうごめく。俺は自衛するのに必死で、肉壁を削る余裕が完全になくなってしまったのだ。
「く、くっそ! あれ、ヘヴンタワーじゃないのか! もうこんなところまで……」
「ま、まずいわ! もう少しでヘヴンタワーじゃない……!」
ヘヴンタワーに、あと少しのところまで迫ったアポカリプス。大量のごちそうにありつこうと加速しているように見える。
「もう迷ってる暇はないわ、これ、使うからね!」
カルディナは、エンゴクのデータが詰まったチップを愛鎌リーンカーネーションにセットし、インストールする。
リーンカーネーションの刃が今までの比ではないほど輝く。
「こ、これなら……。ベルガモット、チカラを貸して!」
「グルルルゥ!」
カルディナは、宙を十字に切ると火炎の球体が現れる。その凄まじいエネルギーに地面は揺れ、轟く。
「これが、最後の、地獄の業火よ! メギド……フレイム!」
それに加え、ベルガモットのブレスが合わさり、巨大な炎柱となりアポカリプス目掛け放射される。
ドゴォオオオオオ!
「おあああっ!?」
俺は咄嗟にしゃがみ、頭上には爆炎が通過する。カルディナとベルガモットの攻撃は見事にアポカリプスの胴体を貫通した。
「こ、これで、アポカリプスの魂を取り出せる!」
俺は肉塊を掻き分け、アポカリプスの魂を回収することに成功。これで、止まるだろうと安心した。
しかし、アポカリプスはその進行を止める様子はない。
「なっ、魂を失っても動き続けるつもりなのか?」
そうこうしていると、肉壁が埋まり始めた。これはまずいと、俺はアポカリプスの魂を外に放り投げた。俺も脱出できるならしたかったのだが、足がアポカリプスの肉に取られ、身動きが取れなかったのだ。
「やったわ! フブキのやつ、アポカリプスの魂を刈るのに成功したんだ!」
と、喜んだのは束の間、アポカリプスが進行を止めないと察するとカルディナの顔は真っ青になる。
「う、うそでしょ……。もう一度、もう一度あいつにでかい一撃ぶちこまないと!」
しかし、ベルガモットもチカラを使い果たし、ぐったりとする。リーンカーネーションの刃も消えかけ、エネルギーが無い状態なのだ。
「――どうする、俺。魂を失っても動き続けるこいつを止める方法……」
強大な敵を封じるには……と、ヒョウゴクで氷漬けになっていたサタンの魂のことが脳裏に浮かぶ。
今が、いざというときだ。俺は、ヒョウゴクのデータが入ったチップを取り出し、愛鎌スノードロップにインストールする。
スノードロップの刃が、今まで見たことがないぐらい青白く、眩しく輝く。
……思い出したんだ、俺はユミル。死神を辞めてせっかく人間に転生したのに。人間として生きることが楽しみだったはずなのに。
俺はまた、死神になる道を選択した。可笑しな話だよな。
――死神。これが、俺の天職。
「俺はフブキ、そして、死神『ユミル=ブリザード』だぁあああああああ!」
スノードロップの刃をアポカリプスの体内に思いっきり突き刺した。
すると、アポカリプスの全身は凍り付き、内部からは氷塊が突き出す。
アポカリプスの動きは徐々に遅くなり、体中が凍結すると、完全に停止した。
凍結したアポカリプスは何年も先、ヘヴンタワーの近くで凍結している。
まるでオブジェのようだが、決して忘れてはいけない出来事。
そして、決して溶けることのない巨大な氷は、トウキョウのシンボルとなったのだった。
初投稿の作品ですが、なんとか完結しました。ありがとうございます。




