第31話 ミロク
辿り着いた先は、暗く広い部屋。鎖に繋がれた漆黒の獣、そして謎の少年が座る玉座のような椅子。他に目立ったものは無く、殺風景だ。
そこで、メフィストと少年が話しているのだが様子がおかしい。
――俺とカルディナが、その部屋に到着する前。
「サタン様の魂をお持ちいたしました」
メフィストは跪いて少年にサタンの魂を捧げる。
「やっとか。随分と待たせるね」
少年は足を組みながらメフィストを睨む。
「……申し訳ございません、ミロク様」
「まぁ、いい。早速、頂くとするよ。サタンの魂をね。これで、やっと、アポカリプスを救えるんだ……」
ミロクはそう言うと、黒いモヤ状のサタンの魂を手に掴み、天井を見上げるように大口を開ける。
サタンの魂はミロクの口に入ると喉が膨らみ、あっという間に飲み込んだ。まるで蛇が卵を喰らうかのように。
「こ、これで、サタン様が復活するのデス! やっと、我々に……!」
ミロクから溢れ出す悪魔のチカラを見たメフィストは歓喜する。一方ミロクは、口角は少し上がるくらいで、いたって冷静。自分の手のひらをまじまじと見つめ、チカラを実感している様子を見せる。
「サタン……様? お、おい。ミロク! サタン様は、サタン様はどうした!」
メフィストはミロクの様子を見て察した。
「サタン? あぁ、そんなヤツいたね」
「どういうことデス、ミロク……!」
「まったく、アイツはボクの身体に居候する代わりに、チカラを貸してくれてたわけなの知ってるよね? 弱ってるアイツを少しずつ試したんだ。そしたら消えちゃったんだよねぇ。だから、そのチカラだけボクがもらったんだ」
「……サタン様を、侮辱するのか⁉」
「だって、異端なボクを頼ってきたんだ。自業自得だろ? まぁ、ボクも悪魔の王のチカラを少しでも利用できれば好都合だったのは事実だけどね」
メフィストは拳を強く握りしめ、怒りを抑えようとする。歯を食いしばり、腕は震える。
「ミロク……キサマァ!」
メフィストが、腰の短剣に手を伸ばそうとした、その時。
「おい! メフィスト、こんなところで何をやってるんだ!」
メフィストと少年を見つけた俺とカルディナは、少しだけ様子を見ていたが、異様な空気にガマンならなかった。
「なっ! フブキ、そしてカルディナ⁉ なぜここに……」
「やっと見つけたわ。あなたたちの悪事、ハデス社が、そして私たちが許さないわ」
気の早いカルディナは、愛鎌『リーンカーネーション』の電源を入れようとするが、俺はちょっと待てと慌てて止める。
「悪いデスが、今はアナタたちの相手をしている暇ではないのデス」
メフィストはそう言うと、俺たちに背を向け、玉座に座るミロクという少年の方を向いてしまった。
そして、腰の短剣に手を伸ばす。
「ミロク、キサマは許さないのデス。サタン様を、サタン様を返せェエエエエエエエ!」
メフィストは短剣を引き抜き、ミロクに目にも止まらぬ速さで接近し、短剣を突き刺そうとする。
「……実に愚かだ」
ミロクの背後から、禍々しい虫の怪物のような足が幾つも生えたかと思うと、次の瞬間、その何本もの足はメフィストの身体をめった刺しにする。
「――ガハァッ! ミロク、キサ……マ」
「アポカリプス、餌の時間だ。こんな悪魔でも腹の足しぐらいにはなるだろう」
鎖に繋がれた巨大な漆黒の獣『アポカリプス』は、ミロクの言葉に応えるかのように唸る。ミロクはめった刺しにしたメフィストをアポカリプスに向けて放り投げる。
アポカリプスは巨大な口を開けると、身動きの取れない瀕死のメフィストを丸呑みにする。
しかし、アポカリプスの様子は何一つ変わらない。ヤツにとって、メフィスト一人など人間が米粒を飲み込むことと大差ないだろう。
「おい、仲間じゃなかったのか?」
俺の問いかけにミロクは鼻で笑う。
「仲間だって? 都合のいい駒でしかないよ。それなりに働いてくれたから感謝しているよ」
メフィストに命令していた黒幕は、ミロクだということになる。しかし、メフィストはミロクに忠誠を誓っていたのではなく、悪魔の王であるサタンだった。
実質、ミロクがサタンをダシに、メフィストを利用していたとしても、誰が悪いなどという話ではないだろう。
「お前が黒幕ってわけか。何が目的なんだ!」
「……ボクの中のサタンの記憶が、キミを嫌っている。フフフ、面白いね。いいよ、教えてあげるよ」
ミロクはそう言うと、俺とカルディナに幻影を見せる。ミロクの遠い、昔の記憶。しかし、今のミロクの姿と大して変わっていない。これもサタンのチカラが影響しているのだろうか。
「ボクとアポカリプスは同じく捨てられた身。アポカリプスは魂を食べて生きるように神に作られた。その時は、魂が溢れていた。アポカリプスには役目があった。でも、いらなくなったら捨てる」
「……」
「身勝手なんだよ! 神も、人間も、みんな! だから、助けたかったから、アポカリプスには魂を沢山食べさせた。いくらあっても足りない、だから集めさせた。好都合だったメフィストを利用してね」
「身勝手なのはお前もじゃないか」
「うるさい! 黙れ! みんな勝手で、ボクも勝手で何が悪い、アポカリプスさえ助かればいいんだ!」
長い時を経ても、ミロクは子供だ。見た目だけではない、中身も恐らく変わっていない。怒りの感情が高まると、幻影は静かに消え去った。
「もういい、相手をしてやる。オマエらをズタズタにして、メフィストと同じように、アポカリプスの餌にしてやる!」
サタンのチカラを完全に取り戻したミロクから、邪悪なオーラが解き放たれる。
「気を付けて! サタンはあんた、ユミルが過去に倒した相手とはいえ、油断しないで」
カルディナは、愛鎌リーンカーネーションのスイッチを入れると赤い刃が現れる。
「分かってる! 絶対に負けられない、ユミルのためにも……」
俺は、愛鎌スノードロップのスイッチを入れると青白い刃が現れる。
ミロクと俺、そしてカルディナの全力がぶつかり合う。この部屋がいつ壊れてもおかしくはない。確かにミロクのチカラ、いや、サタンのチカラは凄まじい。
しかし、ミロクがサタンのチカラを操れていたのはサタンが弱まっていたからだ。完全に戻ったサタンのチカラを上手く制御出来ていない。
サタンの膨大なチカラがミロクを侵食する。悪魔の漆黒の翼、巨大な昆虫のような足が身体から生え、痛みに苦しむ。
「くそっ! なんでだよ、どうして言うことを聞かないんだ!」
ミロクはバランスを崩し、自分の攻撃の反動で倒れ、苛立ちが隠せない。俺たちの氷と炎の猛撃を防ぐことが精一杯なようだ。そして、戦闘に慣れていた俺たちとの勝負が呆気なく着いた。




