第29話 紅きローブの侵入者
ヒョウゴクの奥地、もはやここはヘヴンタワーの内部から通じている雰囲気とはかけ離れている。
そして、一際巨大な氷塊がそびえ立ち、その内部には黒いモヤが見えている。
「ククク……助けに参りましたよ、サタン様。長かった、実に長かったデス」
メフィストは恍惚の表情で舞い上がっている。その横には紅いローブを纏った女。
「さぁ、イヴ。この忌まわしき氷塊を破壊するのデス。そして、サタン様を開放するのデス!」
「……」
メフィストは『イヴ』と呼んだ紅いローブの女に命令する。
イヴは無言で左手を頭上に掲げると、巨大な火球を生み出す。そして、腕を振り下ろすと同時に火球は氷塊に直撃し、大爆発を起こし爆音が鳴り響き、熱気が辺り一面に広がる。
「……流石に一撃ではビクともしないデスか。分かりきっていたこと、イヴ。もっと、もっと、全力で破壊しなさい。ただし、サタン様の魂に傷を付けないように!」
「……」
イヴは何度も何度も火球を氷塊にぶつける。ぶつけ続けていた箇所は砕け始める。
「その調子デス! 流石、あの研究者に投資しただけのことはありますねぇ」
「……」
イヴは鎌を前方に突き出し、最後の一押しに入る。巨大な火炎放射を氷塊の砕けた個所に浴びせ続ける。
「もういいでしょう。あとはワタシがやりますから」
そう言うとメフィストは、氷塊の砕けた個所に向けて指を鳴らす。すると、ヒビが入ったと思った次の瞬間に砕け、黒いモヤを取り出す。
「ついに、ついに……! この時が! サタン様ァア!」
メフィストは、黒いモヤを両手で大事そうに包み込むように持つと、恍惚の表情を隠しきれない。
「おい! メフィスト、侵入者ってお前だったのか!」
「おや、フブキ君デスか。私はもうここには用がないのでお先に失礼しますよ。後は任せましたよ、イヴ」
「ま、待て!」
そそくさとメフィストは闇の中に消えてしまった。
紅いローブを纏った死神と思われる人物がこちらを見ている。
「って、それ! 私のローブなんですけど! なんでアンタが着てんのよ⁉」
カルディナがキレ気味に問いただす。
「お前は、誰だ?」
俺は、答えが返ってくることを期待していないが問いかけてみた。
フードを取り、顔を見せる。外見は普通の女性のようだ。
「……ワタシは『イヴ』」
「まさか……?」
「ワタシは、対・死神兵器として作られたアンドロイド」
どうやら、あの研究室にいたはずのもう1体はこのアンドロイド『イヴ』らしい。アダムと同じ兵器ということだ。
さっきの爆発もカルディナのローブを着たコイツの仕業だとすぐに理解した。アダムと同様、いや、それ以上の戦闘能力を保持していることは明らかだ。
「やっぱ、戦わなきゃいけないんだよな?」
俺は恐る恐るイヴに問う。
「……命令には、逆らえないので」
だよなぁ、とため息をつきそうになる。
カルディナを後ろに下がらせ、俺とイヴはお互いに構える。俺は鎌のスイッチをONにすると、青白い刃が現す。一方、イヴはスイッチを入れていない鎌を腰に差しているが、使う気配はない。
「ワタシがアナタとの戦闘での勝率は……0パーセント」
「なんだ? 俺を油断させる作戦か?」
イヴが俺に勝てる可能性が無いと言い出す。
確かに、ヒョウゴク内にいると計り知れないチカラが湧いてくる気がする。元々ヒョウゴクを管理していたのはユミルだった。そう考えると納得がいくが……。
「なら、やめるか?」
「いいえ、その選択肢は用意されていません」
聞くだけ無駄だった。イヴは左手を頭上に掲げると火球を生み出す。
「させるかよ!」
俺は鎌を振るうと、猛吹雪を発生させ火球を打ち消す。今までと威力が全然違う。相手はカルディナのローブのチカラを使っている。完全に制御出来ているかは不明とはいえ、ここまで圧倒できるとは信じられない。
そのまま、猛吹雪をイヴ本体に浴びせ、動きを封じる。俺は、一瞬でイヴに接近すると手のひらを腹部に押し付けるように鋭い氷塊を生み出す。それはイヴの強靭なボディを貫く。
「システム……異常……」
イヴのボディからは火花が散り、チカラが抜けたように崩れ落ちる。
「悪いが、返してもらうぜ」
動かなくなったイヴから、カルディナの紅いローブを脱がせる。
「カルディナ、ごめん。ローブ返すよ、ちょいと穴開けちまったけど……」
「ここまで随分と長かったけど、もう気にしてないから」
ローブは自動修復の機能があるから、ちょっと待てば元通りだと言う。ようやくカルディナのローブの奪還に成功し、一つ肩の荷が下りた。
グギギ……。倒れていたイヴは、腕をゆっくり動かし這いずろうとしている。命令のまま、限界まで戦おうとしているのか。
「これ以上相手をするつもりはない。お前には、ここで眠っててもらう」
俺はイヴに告げると、ボディを丸ごと氷塊の中に閉じ込めた。
「……システム……停止――」
これで、ヘヴンタワー内部の侵入者は片づけた。しかし、本当の問題はここからだ。




