第26話 機械の死神
俺の目の前に現れたのは、信じられないことにアンドロイドの死神だった。
『アダム』それがヤツの名だ。普通の青年にしか見えないが、丈の長い黒いローブが死神を思わせる。
――そして、俺は椅子に縛られたまま身動きが取れない。どうする……。
「さぁ、アダム。少し遊んでやれ。かるーく一発、お見舞いしてやるんだ」
その命令を聞くと、アダムは無言でうなずく。そして、俺のもとへゆっくりと近づいてくる。
「お、おい。やめ……」
次の瞬間、アダムの拳が俺の腹えぐるように殴りつけた。無表情で軽く、だ。
「カハァ!」
身体を突き抜けるかのような、物凄い衝撃を感じた。
その衝撃に耐えられず、周りの机や椅子も蹴散らしながら縛られていた椅子ごと勢いよく吹っ飛んだ。
壁に激突すると、衝撃に耐えられず椅子はバラバラに壊れた。
俺が死神じゃなかったら、間違いなく即死だっただろう。それに、痛みはそれほどないから何とかなっている。
しかし、足は開放されたが先ほどの衝撃のせいか、立つことが難しくヨロついてしまう。手は縛られたままで使い物にならない。
「ハハハハハ! いいぞ、アダム!」
研究者の男は俺が苦しんでいる様子を見てご満悦だ。
「くっ、なぜ、そこまで……死神に、恨みでもあるのか……?」
「恨み? あるねぇ! 私の弟の命を奪ったってことさぁ!」
「そ、それは……何か理由が……!」
「理由? そんなこと関係ないねぇ! 事実には変わりないだろう? まぁ、でも研究所から追い出され、仲間だと思ってたやつらに裏切られた私の暇つぶしになってくれていることは感謝しているよ」
研究者の男には何やら秘密があるように思える。しかし、この状況ではどうしようもない。
「アダム、もっと遊んでやれ! でも壊すんじゃないぞ、お前の一部に、糧になるんだからな」
アダムが近づいてくる。逃げなければ。だが、まだ動けそうにない。
これじゃあ、助けすら呼ぶことができない。くそっ、終わったか……。
その時、ドゴォン!と上から物凄い爆音と風が辺り一面に吹き荒む。
なんと、爆発で天井に大きな穴が開いた。そこから人影ともう一つ小さめの影が見えた。
「なんとか間に合っ……、じゃなくて、この時を待っていたのよ!」
煙でだれか分からなかったが、カルディナだ。もう助からないと諦めかけていたが、その声を聞いて安堵した。何か言いかけていたが細かいことは気にしない。
「誰だ! 人の研究室を破壊してタダで済むと思うなよ!」
「私はカルディナ。見ての通り死神よ」
「死神か、なら丁度いい。お前も糧にしてやる、今日は大量ダァ! やれ、アダム!」
アダムは、ターゲットをカルディナに切り替え、戦闘態勢に入る。
「そいつが戦うのね、だったらベルガモットお願い!」
大きめの犬程度になってしまった、炎獣ベルガモット。かつての巨大な姿は、カルディナのチカラが戻らなければなれないのだ。
しかし、火力は十分ある。ベルガモットの口から吐いた炎は爆風と共にアダムに襲い掛かる。
アダムが怯んだその隙に、カルディナは鎌の刃に熱を帯びさせ、俺の手を縛っていた縄を切断する。
「カルディナ! 来てくれたのか……よかった」
「当たり前でしょ、ほら立てる?」
カルディナは、俺に手を差し伸べる。
「ああ、助かる」
「あと、これ。あんたのローブと鎌。さっさと着替えて加勢してよね」
俺は早速、いつものローブを羽織る。さっきまでの脱力感は消え失せ、やる気十分だ。
「くそっ! 何をしている、アダム! お前もスクラップされたくなかったら、ちゃんと働くんだ!」
研究者の男は、怯んだアダムに苛立ちを隠せない。今までに、何体ものアンドロイドを作成していたということか。
「まさか、その男が死神? そいつからは生命を感じない……、でも、魂は内包している? 鎌も持っていないのに笑わせないでよ」
カルディナにアダムが機械の死神、アンドロイドであることを伝える。
「カルディナ、気をつけろ! 鎌を持っていなくても戦闘能力は――」
「やれ、アダム。遊びは終わりだ」
次の瞬間、アダムは目にも止まらぬスピードで、ベルガモットに近づき、脇腹を蹴り上げる。
ベルガモットは、子犬のような小さな声で鳴き、勢いよく吹き飛び、壁に打ち付けられる。
「ベルガモット! よくも……許さない!」
ベルガモットは光となり、カルディナのペンダントに吸収される。死んだわけではないが、当分戦える状態にはならないだろう。
しかし、カルディナは怒りの感情に支配されそうになる。
「待て、このままじゃ研究室どころか、町に被害が出かねないぞ!」
俺は、我を忘れそうなカルディナに説得する。
「……分かったわ。じゃあ、ここで思う存分戦いましょう」
カルディナの持っているペンダントが眩しく輝く。辺りは光に包まれ、歪の中へ消えていく。
――頭上に巨大なシャンデリアが見える。かつて、カルディナと戦った時と同じ異空間だ。
そう考えると少々気まずいが、ここなら周りを気にすることなくやれそうだ。




