第23話 決着 モネ
隣町のデパート屋上で、死神アイドル『モネ』を発見した俺は、カルディナにスマホで緊急信号を発信しようとする。
しかし、モネの感情を表すかのように暴風が巻き起こり、雷鳴が響く。そのせいか、カルディナと連絡が妨害されてしまっている。
「モネ! お前、ハデス社の死神じゃないだろ? 一体何が目的なんだ!」
「うるさいなぁ、チビには関係ないだろ!」
「チビだぁ⁉ お前も十分チビじゃないか!」
「はぁ⁉」
これじゃあ、ただの子供のケンカだ。
風はますます強くなる。椅子やテーブル、看板も耐え切れずにステージの後ろに吹き飛ばされていく。
俺も必死に耐えるが、この身体じゃ体重が軽すぎてあと数分も持たないだろう。くそっ、カルディナがいれば挟み撃ちにでもできただろうに。
「あれ、キミ、そのローブってことは……もしかして死神なの?」
「今更かよ! 気づくの遅いぞ」
暴風の中、喋る余裕がないのにイライラしてつい大声で答える。
「白いローブ……? メフィストが言ってた! ソイツに気をつけろって。キミのことだったんだ、でも拍子抜けしちゃったなぁ~」
「メフィストだって⁉」
「あっ、言っちゃった」
まさか、モネの口からメフィストの名を聞くことになるとは。嫌な予感がする、というよりも絶対に騙されている。俺もそうだったが、これ以上アイツの被害者を増やすわけにはいかない。
「モネ! お前は騙されてるんだよ! メフィストに!」
「……う、うるさい! そんなことどうでもいい、とにかくお金がほしいんだ! 見返してやるんだ!!」
ピシャアアン! ドゴォ! 落雷が周囲に被害をもたらし、黒煙を上げる。いつ俺に直撃してもおかしくない。そして、さらに風が強まる。
ズガァアアアン!
凄まじい雷鳴にビビった俺は、足を滑らせる。暴風に流されるがまま、ステージの遠くへ吹き飛ばされフェンスに打ち付けられる。
「いってぇ……」
近くにあった、物置小屋らしき建物の陰に人の気配がある。
「お兄ちゃん⁉」
そこには、なんと妹のコユキの姿があった。
「コユキ⁉ なんでここに、危ないから早く逃げろ!」
「友達に誘われて学校の帰りに、そしたら……」
「友達も来てるのか。なら、ちゃんと助けてやらないとな」
「でも、どうやって……あのアイドルの人、様子がおかしいよ」
「ああ、俺と同じ被害者だ。だから、なるべく手荒な真似はしたくないんだ」
俺は簡潔にコユキにモネについてのことを話した。メフィストと関わっていること、俺と共通点があること。すると、コユキは何か察したようだ。
「わかった、お兄ちゃん。わたしやるよ」
俺は、氷の壁を作りながら風から身を守り、ステージへと近づく道を生成する。安全にコユキをモネのところまで連れて行くんだ。
「なぁに、それ。そんな小細工で通用すると思ってるのー?」
えいっと、モネがマイクを振ると風の塊が弾丸となってフブキたちの隠れている氷壁に襲い掛かる。
さすがに一発では壊れない。だが、二発、三発と撃ち込まれては氷の破片が飛び散る。
五発撃たれたところで、ついに氷壁が粉砕されるが、次の氷壁を作り素早く隠れる。しかし、これ以上うまく近づけるだろうか。
そこで、あることに気づく。風を巻き起こしているのは確かにモネだ。だが、風が強まればスピーカーから流れる音も大きくなる。モネのチカラを増幅させているのはステージに設置されているスピーカー。
一か八かやるしかない。
俺は、細い氷の槍を生成する。あとはこれをあのスピーカーまで飛ばさないといけない。
「お兄ちゃん、それ貸してっ!」
コユキは氷の槍を受け取ると、どこからか天使の羽のような装飾が施された弓を取り出した。
「コユキ、それ、どうするつもりだっ」
「こうするんだよ!」
コユキは大した説明もせず、氷壁の陰から狙いすまし、取り出した弓で氷の槍をステージのスピーカーに向けて、勢いよく撃ちだした。
一発命中! 氷の槍はスピーカーを貫通し、音を発さなくなったと同時に風が少し弱まる。
もう一発、もう一発と、氷の槍を生成し、コユキに渡し、次々とスピーカーを破壊する。
これで大分、風は弱まった。
「な、なんてことすんのよ! バッカじゃない!」
「なるべく、穏便に済ませたいんだ。死神同士、少し話し合おう」
俺とコユキは隠れるのをやめて、ステージの目の前に立つ。
「そこにいるの、もしかして天使か……?」
モネの目線の先にはコユキ。そして、コユキの背中には白くて美しい天使の羽が見えていた。
「天使と死神は争ってはいけない、魂の管理者として仲良くあるべきなの。わたしは、モネさんと戦いたくない。何か困っているなら、教えて……?」
「くそっ、分かるもんか。捨てられたあたしの気持ちなんて!!」
「わからない……けど、わたしも、パパとママがずっと前に亡くなったから、その……」
それを聞いたモネは、うつむいて黙ってしまう。理由は違えど、親がいないという環境は同じ。それに、年が近いなりに通ずるものがあるのかもしれない。
「お金があれば、あいつらを見返してやれると思って。だから、メフィストに協力したんだ。アネモネってヒトを襲ったり、魂を沢山集めたり……悪いことだって分かってたけど、でもっ……ひぐっ、うっ……」
モネは今まであったことを話してくれた。冷静に思い出したら辛くなったようで、跪いて涙が溢れ出す。
「それと、メフィストってヒトが、計画が成功すれば報酬は弾むって。でも、詳しいことは教えてくれなかった……」
やはり、メフィストは死神を利用して何かを狙っているんだ。ただ、魂を売って金を稼ぐとか、そういうことじゃない……。
モネが多少落ち着いてくると、コユキの目には、俺には見えないものが映る。
「モネちゃんの中に邪悪な気配、悪魔の影……、お兄ちゃんの時と同じだ。早く取り除かないとっ!」
「その必要用はないデス」
闇の中から突如現れたメフィスト。モネの身体をグサッと短剣が突き刺す。
「かはっ、あっ……」
モネは擦れた声で涙を流す。溢れた血がステージを染め始める。
「……!!」
コユキが口に手を当て言葉を失う。
「なんてことを……、メフィストオオオオオ!!」
メフィストがモネの身体から短剣を引き抜くと、モネはぐったりとその場に倒れこむ。
「あらら、完全に死んじゃいましたか。もともと人間とはいえ、死神なんデスから半分死んでるんデス。大差ないでしょう?」
「ふざけるな……」
今にも怒りは爆発しそうなのに、足が動かない……。
「バイトのくせに、このムスメは喋りすぎなんデスよ。これ以上余計な事を喋られては営業妨害デスからねぇ。……フブキ君も、折角助かったその魂、大切にしてくださいね?」
「くっ……」
「これは見せしめデス。そして、今宵のエンターテインメント!」
メフィストは、モネの死体を乱暴に掴み、ステージの外、デパートの屋上の外まで放り投げる。
そして、指を鳴らすと、爆発が起こる。それは夜空に映え、言いたくはないが美しいものだ。爆発が収まると、モネの姿は闇の中へと消えていった。
「これ以上、ワタシたちの邪魔をしないように。いいデスね? では、良い夜を……。全てはサタン様のために」
そう言い残すと、メフィストも闇の中へと消えていった。
少し時間が経ってから、カルディナも屋上に駆け付けたが、この出来事はまだ話せていない。




