第15話 償い
俺は炎獣ベルガモットを倒すことに成功し、残るはカルディナのみ。
カルディナまで少し距離はあるが、一気に間合いを詰めれば逃げられないだろう。
今のカルディナからは、これまでのチカラより恐れるものを感じなかった。
しかし、カルディナの今までの言葉が気になり躊躇してしまう。
「絶対に後悔する、それでもいいなら受けて立つわ」
カルディナはそう言うと、愛鎌である『リーンカーネーション』を構え、赤く光る刃の周りに炎を纏わせる。
迷う暇はなかった。その姿を見た瞬間、俺の中の闘争本能が勝った。負けたくない、ただそれだけ。
カルディナは『リーンカーネーション』を思いっきり振るうと炎を纏う衝撃波となり、俺に向かって襲い掛かる。それに合わせて俺は全力で迎え撃つ。愛鎌『スノードロップ』に冷気を纏わせ思いっきり振るう。
それは強烈な吹雪となって炎の衝撃波と激突する。
しかし、カルディナの発した衝撃波は今までと比べ物にならないほど貧弱だったが、俺の発した吹雪と相殺するには十分だった。相殺した際に発した衝撃がお互いを襲い、身体は軽く吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた衝撃でカルディナは気絶。俺もうつ伏せとなり、意識がもうろうとしている。
あと少し……あと少しでカルディナを。それだけを考えて腕の力で前に進む。だが、思うように前に進めない。心のどこかで止めを刺さずに済むと安心しているのかもしれない。
「よくやりました、ユミルさん。もう十分ですよ」
……絶対にここにはいないはずなのに、聞き覚えのある声。
カルディナと俺のちょうど間ぐらいの空中に亀裂が入る。そこから細い指が現れる。
両手でその亀裂を無理やりこじ開けると、中からメフィストが現れた。
「……メフィスト、どうしてここに? 俺はまだ止めを……」
「安心してください、アナタは十分働いてくれました」
メフィストは満足そうにカルディナの方に視線を向け、ゆっくりと近づく。
「おい、メフィスト。一体何を……」
「ローブを回収するだけデス」
「な!? そんな話聞いてないぞ……!」
やっぱりメフィストは俺に、俺たちに何か隠している。カルディナの言った通り、メフィストの元で働けばろくでもないことになってしまう。
メフィストはカルディナのローブをゆっくりと脱がせる。傷つけないように優しく。
「おい、それ以上はやめろ。すぐに離れろ……」
意識が薄れながらも腹這いになり、必至にメフィストに言葉を投げかける。しかし、それに対してメフィストは耳を貸す気配はない。
メフィストはカルディナの着ていた紅いローブを脱がせ終わると、丁寧に畳み右の小脇に抱えた。
その足元には、今までローブでよく見えなかったが赤みがかった茶髪に白いワンピースの若い女性が横たわる。体型はまるで変わっていない。その女性がカルディナだということだけはすぐに認識できる。
メフィストは満足そうな笑みを浮かべると、背中に黒い蝙蝠のような巨大な翼が生えた。
その翼を羽ばたかせ、この空間の上にある巨大なシャンデリアに立ち見下ろす。
「もう用済みデスので、ここは破壊してしまいましょう。それと、ユミル……いえ、フブキさん。アナタは約束通りクビです」
メフィストは左手を掲げ、黒く禍々しい球体を生成し始める。
まずい、アイツは本気でこの空間を破壊しようとしている。クビとなった今、もう迷う必要はない。
「サヨウナラ、愚かな死神……ではなく『人間』デスね」
俺は動かないと思っていた身体を無理やり立ち上がらせ、無我夢中でカルディナの元へ駆け寄った。
次の瞬間、メフィストは生成した巨大な球体を地上に向かって投げつける。
どうしていいか分からなかったが、とりあえず小さい身体ながらもカルディナの上に被さって必死に守ろうとした。
凄まじい衝撃の後、音も途絶え、何もない暗闇の中に閉じ込められたような感覚に襲われた。
――あれからどのくらい時間が経ったのか分からない。
お腹のあたりに暖かく柔らかい感触……。
気が付くと、あの時の路地裏でカルディナの上にうつ伏せで乗っかっていた。周りは暗く夜のままだが、月明かりが綺麗なおかげで状況は確認しやすかった。
カルディナはまだ気を失っている……のか。なんとか助けた……いや、助かったというべきか。
あの歪はすでに無くなっていて、メフィストの気配もない。ひとまず、安全な場所……家に帰ろう。
さすがにカルディナをこのままにしておくわけにはいかないよなぁ……。
顔をよく見たことはなかったが、どことなくあどけなさが残っている。もしかして、俺より年下だったりするのか……? 相変わらず胸は立派に成長しておられるようだが。
とりあえず、俺は小さな身体でカルディナを担ごうと頑張る。しかし、思うようにいかない。元の姿ならなんてことないだろうけど、別の問題があるな……。まぁ、この姿でも問題はあるんだけど。
必死で誤魔化し、タクシーで俺のアパートになんだかんだ着くことができた。
気持ちよさそうに寝ている妹を叩き起こし、説明もろくにせず気絶したままのカルディナを運ぶのを手伝ってもらった。
今更だが、俺は取り返しのつかないことをしている……そう実感した。




