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プロローグ

 ラジコンの戦車は、道に転がる小石の障害も難なく乗り越えて、大通りを突き進んでいき、住宅街から人気のない郊外へと向かっていく。

 迷彩服を着た小さな男の子が、リモコンで操作している戦車を嬉々として追っていく。大空に輝くはずの太陽は雨雲に覆われ、その姿を見せない。地上は陰湿な暗い空間となっていた。湿気も酷く、暑さは尚更だった。だが、この湿度と気温が少年にとっては心地の良い感触に思えた。これから先の月で始まるであろう蝉の合唱さえあれば完ぺきだった。少年の名前は音無陸生。周囲の人々には二本指を立てて、あと二か月で七歳になると語っていた。姉の七海は、肺炎を患って家で寝ていた。この時はまだ九歳だ。

 陸生が操っている戦車は、七海が買い与えた。服を買うために月々にもらえる少額の小遣いを貯めていたが、家族で買い物に出かける度、陸生がおもちゃ屋のガラスに展示されている戦車を物欲しそうに眺めているのを見て、彼女がお金を出した。

 走っている道は木々に囲まれていた。伸びていく道の先には古いトンネルがあり、夏になれば好奇心旺盛な、あるいは虚勢を張ろうとする若者たちが懐中電灯を持って遊びに来る。封鎖されてから長い。

 陸生はトンネルに向かって戦車を行進させている。周囲に人はいなかった。陸生は声を立てて笑う。一人だけの軍隊の指揮官があげる笑い声は、生気のないこの道にかすかな生を感じさせた。戦車がどんどん前へと行く。陸生は、先人たちがかつて死に向かって突撃したように、それに向かって走っていた。彼の胸には七海に対する無邪気な愛情が溢れていた。そして、姉と一緒に走れないことを残念に思っていた。家に帰り、どれだけ楽しかったか姉に話せば喜んで聞いてくれるだろう。もし立場が逆だったら本を読む姉は、陸生にこの情景が浮かべるくらい上手に話してくれるだろう。陸生には、それができるほどの言葉をまだ持っていない。

 戦車は速度を増していく。造形は実物に近いとは言い難いが、陸生にとっては立派な戦車だった。七海がくれた戦車だから、特別な力が宿っているに違いないと感じた。それが彼の恐怖心をかき消していたのだ。一人だけの軍隊の指揮官は、それゆけと叫んでいた。僕だけの軍隊、僕だけの戦車。やがてトンネルが見えてきた。トンネルは、奥が見えない闇が広がっていた。

初めまして

これからよろしくお願いします

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