学園騒乱
ここからお話スタートです
魔法ものって楽しいですね
なんでもありで!
「……よし」
刀の手入れを終え、鞘に収めて左腰に吊るす。
「相変わらず手間がかかるな」
刀の手入れは、油や種類の違う布を使ったりするため、時間がかかる。
(あいつ、待ってるだろうな……)
急いで手を洗い、制服に袖を通す。
白を基調とした制服だ。
油が着いたら、まず間違いなく目立つから、手は入念に洗っておいた。
階段を駆け下り、靴を履いて玄関の扉を勢い良く開く。
「ごめん、お待たせ」
そして、目の前にいた人物に手を合わせて謝る。
「ううん、大丈夫だよ。私も今来たところだから」
「……普通、それは男のセリフだけどな」
「あはは」
そう言って微笑む、俺の幼馴染み『九重 美々花』に、俺も笑いかけ、二人並んで歩き始める。
「相変わらずな格好してるな」
「ダサいかな?」
「いや、いいと思うよ」
半分本心でそう言う。
美々花は、中学に入ってから、暗めの緑髪を左右の三つ編みにし、顔の大部分は大きな眼鏡で隠れているという、稀に見る地味な格好をしている。
それでも、整った鼻と艶のある唇は、それだけでも魅力的だった。
まあ、小学生の頃から可愛かったから、今どんな風なのか気になるところではあるが。
「私は、恭ちゃんがやめろって言うなら、やめるよ?」
美々花は俺のことを『恭ちゃん』と呼ぶ。
『針間 恭太郎』だから、恭ちゃん。
理由は「恭太郎って長いでしょ?」らしい。
「いや、いいよ。目立ちたくないんだろ?」
「正解。私は平穏な高校生活を送りたいからね」
そう言う美々花に、俺は思わず苦笑する。
平穏な日々を求めるやつが、あんな学校に来るわけがないからだ。
バス停に到着すると、既にバスが着いていた。
車内には、俺たちと同じデザインの制服を身につけた男女が、座席にちらほらと座っている。
いつも通り、一番後ろの窓際に座り、美々花はその俺の隣に座る。
俺はそのまま眠るために目を閉じる。
美々花は、そんな俺に肩を貸してくれる。
(快適……)
そんな思考を最後に、俺は浅い眠りの中に落ちた。
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「恭ちゃん、起きて」
「んっ……」
薄ら目を開けると、目の前に美々花の顔があった。
「着いたか……。よし、行こう」
「うん」
車内から出ると、四方を山に囲まれた真新しい(ように見える)校舎が見える。
ここは『朱鳥魔法学園』。
都市郊外に作られた、地球軍の切り札にして最後の砦『魔法使い』の要請校だ。
俺たちはこれで、惑星間戦争に勝利するための力を、身につけているのだ。
「恭ちゃん、今日はいつもより疲れてるみたいだね」
校門をくぐった時、美々花がそう尋ねてきた。
「んー、まあな。ちょっと夜更かししてた」
「どうせまた、『ランスロット』さんと特訓してたんでしょ?」
「ぎくっ」
さすがは幼馴染み、バレバレだった。
すると、
『誤解しないでくれ、美々花』
と声がして、俺の傍らから光が弾ける。
そこに立っていたのは、甲冑に身を包んだ金髪の美青年。
円卓の騎士の一人『ランスロット』。
俺が召喚した使い魔であり、相棒だ。
『私はやめた方がいいと言ったのだが、どうしてもと聞かなかったのだ』
「そんなことだと思った」
「お前らな……」
好き勝手言う二人にため息をつき、髪をガリガリと掻く。
ふと思い立ち、手のひらを見ると、何本か抜けて青い髪の毛が張り付いていた。
(この髪色も、昔は珍しかったんだよなぁ……)
周りを見ると、赤や黄や白、銀髪など様々な髪色の生徒がいる。
二十四年前、地球全域に対して、異星人がウィルスミサイルを撃ち込んだ。
世界人口の約一割を殺したウィルスは、長い時間をかけて沈静化された。
だが、その後遺症として、メラニン色素が異常に変性。
結果、髪色と瞳の色が様々な色になり、直接感染した者はもちろん、その子どもにも影響が出た。
今では、世界人口の半数ほどがこんな色になっているのだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
まあ、俺は真っ青の髪も瞳も、別に悪くないと思っている。
個性があって面白いしな。
「それより美々花、今日って日直じゃなかったか?」
「あ、そうだった!ごめん、先行くね!『アークエンジェル』!連れてって!」
直後、ランスロットと同じように光が弾け、鎧を纏った天使が現れる。
『主よ……私は乗り物ではないのですよ?』
『アークエンジェル』。
美々花の召喚した普通極まりない使い魔だ。
「本当にごめん!急いで!」
『はあ……承知致しました』
ため息をつき、アークエンジェルは美々花を抱えて飛んでいく。
「……行くか、ランスロット」
『ああ』
美々花が校舎に入ってしばらくし、俺たちは肩をすくめながら歩き出す。
「今日は戦闘訓練かぁ……」
『何を憂鬱そうにしている?いつも通りお前の……』
「? どうした、ランスロッ……」
突如黙ったランスロットの方を見て、俺はその理由に気がついた。
「なんだ……あれ」
空に、赤い星が浮かんでいる。
今はもちろん、快晴だ。
それでも、その星は赤く、赤く輝いていた。
周りの生徒も気がつき、空を見上げる。
『……恭太郎。私の勘違いならいいのだが、あれは……徐々にこちらに近づいていないか?』
「……奇遇だな、ランスロット。俺もそう思ってた」
事実、その星はこちらに向かって近づいている……というよりは。
「……普通に直撃コースじゃねえか、これ……」
予感的中。
実はものすごい速度だったそれは、なんの迷いもなく急接近。
そして、
ギィィィィィィィィィィィィィィ!!!
と、嫌な音を上げて結界に衝突した。
(危ねぇ!今の結界なかったら絶対死んでた!)
学園の地下には、半永久的に魔力を生成する魔力発生機がある。
それを使用して作ったのが、この学園を包む強固な結界なわけだ。
だが、
「嘘だろ……!?」
最上級魔法でさえ防ぐ結界に、ヒビが入っていた。
こんな桁違いのエネルギーを持つのは、ただ一つ。
『恭太郎!敵が攻めて来たぞ!』
「やっぱりそう来るか……!」
異星人のオーバーテクノロジーだけだ。
真っ赤な身体に、まるで触手のように伸びた二本の腕。
『木星人』。
異星人の中でも、特に桁違いの性能を持った武器を操る、オーバーテクノロジーの塊のような奴らだ。
またしても空が赤く輝き、第二波が放たれる。
ヒビがさらに広がり、中心部には小さな穴が空く。
そこから、木星人が雪崩のように入り込んで来る。
直後、鳴り響くサイレン。
加えて、校内放送も流れてきた。
「連絡します。一年生、二年生は直ちに避難を。教員、並びに三学年の生徒、一年生成績上位十名『オーダー』、二年生の成績上位十名『クルセイダー』の皆さんは、直ちに迎撃体制に入ってください。繰り返します……」
(化物揃いとはいえ、一年生と二年生まで呼び出されてんのか……)
一年生上位十名『オーダー』。
二年生上位十名『クルセイダー』。
三年生上位十名『クラウン』。
こいつらの魔力と魔法は本当に異常だ。
それこそ、軍の正規魔法使い『魔法兵』でも、並のやつじゃ相手にならないくらいに。
しかし、事態はもう、そいつらが動き出すのを待っているだけでは、済まなくなっている。
木星人が、レーザーのような砲撃をし始めたのだ。
もはやゲリラ豪雨のように降り注ぐレーザー。
『恭太郎、避けろ!』
「くっ……!」
こちらにも飛んできたレーザーをどうにか回避。
だが、回避も防御障壁も間に合わなかったやつらが負傷している。
(くそっ……!)
内心で毒づき、歯噛みした矢先、
「きゃあああああ!!」
校舎の方で悲鳴が上がる。
昇降口の前にいた女子生徒三人が、木星人に囲まれている。
どうやら、脚を怪我した一人を残る二人がかばっているようだが、二人ともすでにボロボロだ。
しかも、
パリンッ……!
「あっ……!」
防御障壁も、たやすく破られてしまった。
「……ここで動かなきゃ、ただのクズだよな─────!」
学園上層部の命令違反になるが、仕方ない。
目の前で俺の仇敵が、同じ学園の生徒を傷つけてるんだ。
「ぶった斬ってやる───!」
そうして俺は、唯一まともに使える最上級魔法を唱える。
「『ゴッドアクセライズ』!!!」
直後、全身の重りが弾け飛んだように、身体が軽くなる。
視界は明瞭になり、思考は加速し、世界の全てが停止したように遅くなる。
下級、中級、上級、最上級の段階がある魔法の中の最高位である、最上級魔法の一つ。
『ゴッドアクセライズ』。
自身の一挙手一投足、思考までも音速の十倍まで引き上げる、究極の加速魔法だ。
魔法の起動を確認し、俺は刀を抜きながら後ろ脚で地面を蹴り出す。
爆発したように飛び散る砂ぼこり。
それが風に流れるより速く、俺は女子生徒たちの元へたどり着いていた。
「しっ─────!」
短い気合いとともに放つ、超音速の斬撃。
刀とともに一回転し、静止。
おそらく、木星人も女子生徒たちも、斬撃など見えてはいないのだろう。
「えっ……」
彼女達がようやく声をあげたのは、木星人全員が崩れ落ちてからだった。
放心している彼女達を刺激しないよう、俺は極力落ち着いて話しかける。
「ぼーっとしてないで、早く避難しろ。一年生だろ?」
「は、はい!あの、ありがとうございました!」
三人同時に深々とお辞儀をし、避難場所の訓練所へと走って行った。
ふと、足音のした方を見ると、ランスロットが走って来た。
『……見事だな、恭太郎』
「これくらいは当然だ」
むしろ、俺にはこれくらいしか出来ない。
『さて、恭太郎。どうする?私たちはどうやら、お呼びではないようだぞ』
ランスロットが困ったような顔をして、そう言う。
こういう時、ランスロットはもう答えが分かっているのだ。
「……たしかに俺は、324人中322位の落ちこぼれだ。だがな、俺は仇を目の前にして、引き下がることはできない」
俺は真面目な顔をしてランスロットを見つめ、そう言う。
すると、ランスロットは盛大にため息をつき、
『やはり、そう来るか。────いいだろう。美々花の説教は勘弁願いたいが、仕方あるまい。私も戦おう』
と言って、剣を抜いた。
「そう言ってくれると思ったぜ」
拳と拳を合わせ、俺たちは校内に突撃した。