飛べない龍
私がここ、魔王城にきたのには理由がある。
魔王の花嫁候補による選出戦があるからだ。私は龍人族だ。爪もあれば牙もある。特に翼は自慢だった。飛ぶためだけに洗練されたその翼は形も色も誰が見ても美しいものだと自負していた。
「これより花嫁選出戦を始めます。候補の方は前へ」
候補は全16人。全員が一族を背負っている。花嫁になった部族は一族の安全を保証される。逆に花嫁にならなければ一族皆一生服従を誓わされるのだ。
「花嫁選出戦では、技術と身体能力で競ってもらいます。まず、魔王様を含めた3名と寝てください。満足させることができた方からバトルロワイヤルを開始します。制限時間は1日です。質問等は受け付けません。では、始め!」
何もわからず、何も言えず部屋に連れていかれ、気づくと合格していた。覚えているのは、自分の上で一心不乱に腰を振る男とそれに伴われる痛みと不快感だけだった。
技術の合格者は自分を含めて3名だった。1人は泣きながら笑っていた。頭のネジが飛んでしまったみたいだ。もう1人は目が死んでいた。この世の全てがどうでもいいという目をしていた。かく言う私も腕を組んで恐怖に震えていた。魔王の花嫁になっても同じ仕打ちをされるのではないかと。それでも一族のために花嫁にならなくてはならなかった。
身体能力は呆気なく終わった。まともな神経を少しでも維持していた私が勝った。
「勝者に魔王様から一言お願いします」
いつからいたのかわからなかったが隣にいる魔王らしい青年は満面の笑みで言った。
「失せろ」
私は何か言おうとして口を開くが言葉は出なかった。魔王の言ったことを受け入れる判断力も余裕もなかったのだ。
「失せろって。俺、もう嫁いるんだよね。これただの遊びだし。面白そうだったからさー。でね、翼は置いていってもらうね。嫁がさ?龍人族が勝ったら翼もいでおいてって言ってるから」
状況が飲み込めずあたふたしているうちに衛兵に羽交い締めにされて、文字通り翼を両方共もがれた。数人がかりで。手で。痛みとショックで意識が朦朧としたまま城外に捨てられた。
その後はただひたすら城から離れた。多少の憎しみと多大な恐怖を抱いて。
これからどうするか明確な意志を持たないままとぼとぼと歩いていた。何かにぶつかって前を見ると全身血で染まった黒髪の男がいた。