祝福の詩
最後に立ち寄った教室は、やけに静かで、ひんやりとしていた。
教室の真ん中あたりにある自分の席に座って、ぐるりと教室を見回した。
今日でこの席ともお別れか、そう思うとなんだかくすぐったくて、すこしだけ寂
しくなった。
高校最後の文化祭。
クラスのみんなで一丸になって盛り上がって楽しかったよな、とか。
高校最後の運動会。
フォークダンスはちょっと恥ずかしかったけど、でも楽しかったな、とか。
受験が間近に迫ってきたときは、友達が大事だなって実感したり。
会おうと思えば会うことが出来るだろう人たちと、もうこれっきりになってしま
うかもしれない人たち。
出来ることならばもうちょっと一緒にいたかったかな、なんて我が儘かもしれな
いけれど。
そう、やっぱり、くすぐったい
最初は一番下で、先輩と呼ぶ人しかいなかったのに、
中学生はいたけれど
いつの間にか後輩が出来て、いつの間にか後輩しかいなくなった。
時間は確実に流れていたことを、そういった変化が物語っている。
また、いつか会えたらいい
そうしたら今までみたいにバカ騒ぎしたい
でも時の流れは無情だから
次会うときはどうなってるのかわからない
卒業式の影響か、考え方が少しだけ暗く……悲しい方向へ向いてしまった。
大丈夫、みんなすぐに人が変わったりしない、多分。
「…帰るぞー!」
ふいに降ってきたその声に後ろを振り向くと、いつもと同じ仲間たち。
「今、行く」
そう、自分に言い聞かせるようにして呟いた。
名残惜しいように机に手を沿わせながら、扉へ向かう。
さようなら
またいつか会いましょう
そんな声がどこからか聞こえてきたような気がする。
下駄箱の周りでわいわいと別れを惜しんでいる人たちのにぎやかで、どこか悲し
い、でもうれしそうな声。
わけのわからない苦笑が滲む。
祝福の鐘をあなたへ
祝福の詩をあなたへ
どうかどうか
あなたの心に届きますように