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 駅に着いたものの、田神たがみ君はいなかった。何回か電話してみたが出ない。


「おかしいな……。つかさ君、この辺で待ってるって言ってたんだけど」

「先に空音かのんちゃんを探してくれてるのかな。俺からも電話してみるよ」


 結局、田神君は碧音の電話にも出なかった。一人で空音を探してくれているのだろうか?


「そうだ!メイさんのところに行ってみよう!ここから近いから」

「他に手がかりもないし、そうした方がよさそうだね」


 今朝空音を呼び出したメイさんなら、何か知っているかもしれない。メールや電話をするより会いに行った方が早かった。


「ここが探偵事務所?普通のマンションに見えるね」

「うん。依頼者が多くなってからは、表に出してた宣伝用の看板も撤去したんだって。このマンションも、メイさんが管理してるって言ってた」

「……普通の人じゃなさそうだね」

「うん、俺も最初はそう思った。本当は年上みたいだし。着いたな」

「至って普通のマンションだね。見た目は」


 碧音も碧音で、メイさんの暮らしぶりやプロフィールに何か不自然なものを感じているらしかった。


 玄関前の表札に『得永とくなが探偵事務所』と表示してあるだけ。そのささやかさが、メイさんらしいなと思う。


「メイさん…!俺です」


 インターホンを押しながら、扉の向こうに声をかけた。


「空音がいなくなったそうなんです!メイさんは何か知りませんか?」

「留守かな?人の気配を感じない」


 碧音は扉に耳をくっつけ、室内の様子を伺っている。それから何度かインターホンを鳴らしてみたけど、メイさんは出てこなかった。


「空音に会いに行ってるとしたら、もうここにはいないかなぁ……」


 メールで連絡を取ることすらもどかしい状況だ。こうしている間も空音は男のそばにいる。焦る気持ちは同じだったのか、碧音が勢いよくドアノブに手をかけると、ガチャリと無機質な音を立て扉が開いた。


「開いてる…!」

「いつもは鍵を閉める人なの?」

「うん。初めてここへ来た時も、メイさんは念入りに鍵をかけてた。中には大切な調査資料もあるしな……」

「そういう人が鍵をかけずに出て行くなんて……。よほどのことがあったとしか思えないよ」


 冷静な口調とは裏腹に、碧音は率先して室内に上がった。慌てて俺もそれについて行く。


「碧音!勝手に入ったらまずくないか!?いくら鍵が開いてたとはいえっ」

「……碧音、あれって」


 碧音は奥を指差した。


 この間お茶を出してもらったリビング。テーブルの上には乱雑に散らばった紙。元々はファイルに挟んで束にしてあったようだ。


「メイさんの調査資料?これは……!」


 俺に続き、碧音も1枚2枚とばらけた紙を手にする。そこには、俺達双子の出生記録や学歴、幼少の頃からの写真や交友関係が詳細に記されていた。それだけでなく、母さんが管理しているはずの母子手帳や俺達の貯金通帳のコピーまである。


「これ…….。メイさんに依頼したのは空音のことなのに、俺達のこともこんなに調べてたのか?」

「しかも、俺達すら知らない遠縁の親戚の顔写真や経歴まで調べられてるよ」


 背中を、冷ややかな感覚が伝う。パソコンで打たれたのであろう資料の楷書かいしょ文字は、メイさんが作成したのだろうか?でも、なぜ?空音のことについてはまだ調査できていないのだろうか?


 無意識のうちに呼吸が浅くなる。


 碧音が別の紙を拾い上げ、つぶやいた。


望月もちづき永音ながと……」

「……!」


 俺と同じ高レベルの言魂使い(オラルメンテ)。俺は、考えるより先に碧音の手から望月君の資料をひったくった。


慈輝いつき……」

「これは俺達とは関係ないだろ?他の見てみよう!」

「ここのところ様子がおかしかったのは、その人の話をメイさんから聞いたせい?」

「な、何言ってるんだよ。知らないよ、こんな人っ」


 碧音には何も知られたくない。言魂使い(オラルメンテ)が常に誰かに狙われていること。望月君が言葉の力で実の父親を殺そうとしたこと。


 だけど、生まれた頃からそばにいた弟を騙すのは、無理があった。しかも、相手は碧音。俺なんかより何倍も察しが良く頭のいい弟。俺は碧音のウソを見抜く自信ないけど、碧音は俺の隠し事を簡単に見抜くんだ。


「つらかったよね、慈輝」

「え……?別に、そんなことないけどっ」


 動揺し、本当のことを隠そうとしどろもどろになる俺と違い、碧音は変わらず落ち着いている。


「隠さなくていいよ。全部知ってるから」

「知ってるって…?」

言魂使い(オラルメンテ)は稀少な存在だけど、今も世界各地でひっそり生きていること。その力は人一人殺す力があること。昔、おじいちゃんに全部聞いてたから」


 碧音は穏やかな顔をしている。


「慈輝のことだから、俺に重荷を背負わせたくないって考えてそのこと黙ってたんでしょ?」

「……どうしてそんな冷静に受け止められるんだ?」


 俺は、自分が怖い。望月君のことを黙っていたのは、もちろん碧音に重荷を背負わせたくないというのもあるが、それ以上に、危険な人物と思われ嫌われるのが怖かったからだ。


 やっと、普通に仲良くできるようになったのに、今度は碧音が俺を避けるようになるんじゃないかって、不安だった。


 じょじょに記憶を取り戻し不安そうにしている空音の気持ちが痛いほど分かったのもそのせいだ。メイさんと対面したその日から、俺は自分が自分じゃなくなっていく感覚がしていた。


 望月君の話は現実味のないことだけど、だからといって他人事にも思えなくて……。ファンタジーアニメの類と思うことで、俺はそういった不安から逃げようとしていた。


「俺のこと、怖くないのか?」

「怖くないよ」


 それまでと変わらず穏やかな声音で、碧音は言った。


言魂使い(オラルメンテ)の身内がいる。俺にとっては普通のことだったもん。たとえ他の人が慈輝を悪く言っても、俺は最後まで味方だから」

「碧音……」

「それより、もっとこの辺探してみよ?空音ちゃんについての調査資料もあるかもしれないし。田神っちが見たっていう怪しい男の手がかりも分かるかもしれないよ」


 無数に散らばった紙を一枚一枚丁寧に拾い上げ、碧音は素早く目を通していく。


「そうだな……!」


 最後まで味方でいる。碧音の言葉は、魔法みたいに俺の不安を和らげた。


 それから数分、できるだけ早く資料に目を通したけど、空音に関する資料は見つからなかった。


「にしても、どうして望月君の資料が一緒にされてるんだろ?」


 俺は疑問に思った。


「この間、メイさんは望月君の学生証のコピーを見せてくれたんだ。それは、言魂使い(オラルメンテ)として俺に危機感を持たせるための親切心から出た行動なんだって解釈してた」


 でも、こうして望月君の資料が一緒にされているのを見ると、他にも何か事情があるのだと思えてならない。


 碧音が言った。


「高レベルの言魂使い(オラルメンテ)である。それ以外にも、望月君と慈輝には何かしらの共通点があるんじゃないかな?」

「そうかも。でも、言魂使い(オラルメンテ)であること以外の共通点って何だろう?」

「年齢は一つ下。住んでいるところや家族構成も慈輝とは違うしね」


 俺達は、望月君の趣味や日常について書かれている資料を見た。


「望月君は一人っ子でゲーム好き。母子家庭。同い年の男友達と女友達が一人ずついて、どちらも彼の幼なじみ。慈輝はほとんどゲームしないよね。幼なじみもいないし」

「パソコンは触るけど、ネットサーフィンとかチャットしかしないしな」

「この資料から浮かぶ共通点は限られるね。目に見えない、俺達の知らない角度から見たら何か違うものが見えるのかもしれないけど……」


 考えても分からないので、そのことはいったん置いておき、引き続き空音の資料を探すことにした。


 リビングの資料は一通り見たので、申し訳ないと思いつつ別室を探すことにした。メイさんが探偵事務所として使っていると言っていた部屋だ。


 この間も入ることはなかった事務所。しかし、その部屋には鍵がかけられていた。


「さすがにここは開けっ放しにはできないよな。他の人のプライバシーに関わる資料がたくさん置いてあるんだろうし……」

「困ったね……。こうしてる間にも空音ちゃんは……」


 何も進展がなく気ばかり焦る。空音は無事だろうか?田神君からの連絡がいっこうにないのも気になる。


「駅に戻って空音を探そう!」

「そうだね」


 閉ざされた事務所扉の前で引き返そうと振り返り、俺達は小さく悲鳴をあげた。


 いつの間にそこにいたのだろう?田神君が、一冊の薄いファイルを片手に涼しい顔でこちらを見ていた。


「あのお方はそんなにやわじゃないよ」

「宰君…!?どうしてここに!?」

「驚かせてごめんね。あと、少々ウソをついたからそのことも謝るよ。空音ちゃんが男に連れ去られたというのはウソなんだ」

「どうしてそんなウソを!?」

「怒らないで、慈輝君。順を追って説明するから」


 ただならないオーラ。初めて会った時から変わらない穏やかで端正な田神君の顔が、恐ろしいものに感じられた。どちらかともなく碧音と目を合わせ、俺達は後ずさる。


「君達が探していたのはこれ?ガルシャノン様のことについて書かれている」

「ガルシャノン……?」

「ああ、今は神山かみやま空音かのんと名乗っているんだったね」

「ガルシャノン。それが、空音の本当の名前?」

「そうだよ。ちなみにこれはメリオフィクスが書き出した物だけど、記述に間違いはない。見せかけの資料とはいえ、よく出来ている」


 メリオフィクスというのは、もしかして……。


「そうだよ。君がメイさんメイさんと言い慕っていた得永とくなが命生めいの本当の名前はメリオフィクス。彼女も、ガルシャノン様同様、人間ではない」


 ひらひらとファイルを振り、田神君はそれをこちらに放り投げた。急いで中を見ると、そこには信じられないことがつづられていた。


「人類殲滅せんめつ実行を目的とした神、ガルシャノン…!?」

「空音ちゃんが、人を滅ぼそうとしていた?」


 田神君は一歩こちらに近づき、壁にもたれて目を閉じた。


「そうだよ。ガルシャノン様はこの世界にうれいていた。人間とは欲深く傲慢ごうまんで、自分のために容易く他者を蹴落とせる生き物だ。碧音、お前のように」

「……そうだね。否定しない。ゆずきを虐げてた時、良心なんて痛まなかったもん」


 ひるむことなく、碧音は言った。


「田神っち何者なの?気配もなく現れたり、ウソをついたり……。空音ちゃんのこともずいぶん慕っているようだけど」

「俺はガルシャノン様を見守る立場にあった。もっとも天界ではガルシャノン様と直接お会いすることすら許されていなかったがな」

「そのわりに、誕生日パーティーでは気軽に空音ちゃんに話しかけてたよね」

「思い出してほしかったからだよ。自分の真の目的を」


 空音の真の目的。それは、人類を滅ぼすことだっていうのか……?


「そんなの、信じない……。空音はそんな子じゃない!」

「慈輝君。ガルシャノン様が天界で独り閉じこもっていた理由を知ってる?人間不信になったからだよ」

「それで、宰君にも会わないようにしてたの?」

「そう……。万策尽きたガルシャノン様は、君を探すために地上へ降りようとしていたんだ。正確に言えば、高レベルの言魂使い(オラルメンテ)を求めて、だけどね」

「そんな……」

「ガルシャノン様は、相手が言魂使い(オラルメンテ)なら君でなくても良かったんだよ」

「ウソだ!空音はそんなこと一言も……!」

「当然だ。ガルシャノン様は記憶を失っていたのだからな」

「そういえば、空音は、記憶を失う前誰かと争ってたって言ってた!その相手って……」


 うなずき、田神君は言った。


「メリオフィクスに妨害され、ガルシャノン様は目的を果たせなくなった。メリオフィクスは、その命をかけてガルシャノン様の記憶と能力を封印した」

「なるほど……。元々空音ちゃんは言魂使い(オラルメンテ)を探していたけど、メイさんにそれを邪魔された。さっき見た望月君の資料が慈輝の情報と一緒にされてた理由はそれだね。メイさんは空音ちゃんが狙っていた言魂使い(オラルメンテ)の情報を、空音ちゃんより先に掴んでいた。空音ちゃんが動いた時、先手を打てるように」

「しかし、それももうおしまいだ」


 さっきまでとずいぶん変化した口調で、田神君は両手を広げた。彼を中心に広がる黒い霧は、碧音と俺を同時に飲み込む。


「言って分からないなら、その目で確かめろ。殺しの使者よ……!」


 殺しの使者…?それって、俺のことか?ううん、言魂使い(オラルメンテ)全員を指す言葉……?


 田神君の脅迫めいた声音を最後に意識は途切れた。


「わらわは慈輝の全てが好きじゃ」


 意識と無意識の境目で、空音の柔らかい声を聞いた気がしたーー。




「慈輝!慈輝、起きて!」


 碧音に揺さぶられて目を覚ました。そこは、よく知る中央高校の屋上だった。見覚えのある景色は夕日に当てられている。


「……どうしてウチの学校に?」

「自分で来た覚えがないし、あの状況からすると、田神っちが魔法的な力を使って俺達をテレポートさせたようだね」


 ぼんやりした頭に、さっきの出来事が飛び込んできた。勢い良く立ち上がると立ちくらみがし、碧音に支えられる。


「慈輝、大丈夫?どこも痛くない?」

「大丈夫。碧音こそ何ともないか?」

「平気だよ。でも、ここ、ちょっとおかしいと思わない?」


 よく知る景色。だけど、何かが違う。時々南音みなとに誘われ、昼食を食べていた時に見ていたはずの景色は、こんな風ではなかった。ベンチの数はそのままなのに、やけに殺風景な感じがする。


「分かった……!落下防止のさくが無いんだ…!でも、何で?撤去工事なんてしてなかったぞ……」

「そもそも、フェンスが無いなんておかしいよ。建築基準法でフェンスの設置が義務づけられてるはずだから」

「そ、そうだよな。危ないし……」


 碧音と共に恐る恐る屋上の隅に行くと、地上がはるか下の方に感じ足がすくんだ。


「弟さんを連れて逃げるんだ、慈輝!」

「……メイさん!?」


 背後を振り向くと、白い光線のようなロープで身動きできなくされたメイさんの姿があった。光線からは電磁波っぽい何かが出ているらしく、メイさんは苦しそうに歯をくいしばる。


「メイさん、大丈夫ですか!?どうしてこんなことに!?」

「いいから、僕のことは構わず逃げろ!」

「嫌です!!」

「……慈輝」


 友達が出来ず、人に避けられ、初恋にも破れたあの頃、毎日地獄にいるような気分だった。そこからすくい上げてくれたのは、メイさんのメッセージだった。


「メイさんを見捨てて逃げるなんて、できません!ちょっと待ってて下さい!」


 光線ロープに触れようと手を伸ばした時、田神君がそれを遮った。気配なく現れた彼が人間ではないことは、もう明白だった。


「宰君、そこをどいて!?」

「それはできない。全てはガルシャノン様のため。慈輝君、碧音。何も知らない君達に真実を教えてあげるよ」


 田神君は言い、メイさんの頭上に手をかざした。その瞬間、メイさんは意識を失い、糸の切れた操り人間のように力なく地面に倒れた。


「メイさんに何をしたんだ!?」

「気絶しているだけだ。しかし、無力なものだな、力を持たぬ神というものは」

「神?メイさんも……?」


 抱き起こそうとメイさんに近付いた俺の動きを阻んだのは、真上から降り立った空音だった。ふわりと漂う甘い香りが、胸を強くしめつけた。


「空音!無事だったんだな…!良かった!」

「待って、慈輝!」


 俺の腕を強く引っ張り、碧音は止めた。


 俺より低い背、銀色の髪、青い瞳。見慣れた容姿は、全く知らない他人のような雰囲気をまとっている。


「わらわとメリオフィクスは、世界をべるために存在するついとなる神じゃ」

「言われてみれば、空音とメイさんは似てる。髪の色と声以外、全部……」

「人間界で言うところの双子じゃった。わらわとメリオフィクスも」

「空音。宰君と一緒に人間を滅ぼそうとしてたなんてウソだよね?」


 尋ねる声が震えた。空音のことを信じたいのに、さっき田神君に見せてもらった調査資料の件が嫌な感じで頭の中をグルグルしている。


 空音は俺の心を見透かしたように冷ややかな声で言った。


「碧音とメリオフィクスのうち、どちらか一方を選べ。おぬしの選んだ方を特別に見逃してやろう」

「何を言ってるの?」

「言葉の通りじゃ。……ツカサ、やれ」


 空音の一声で、田神君は一瞬のうちに碧音の体を縛り付けた。メイさんにしているのと同じ白い光線のロープで。


「慈輝、今の空音ちゃんに耳を貸したらダメだよ!言葉で対抗して!」

「邪魔じゃ。黙らせろ」


 空音らしくない、威圧的な口調だった。


 田神君は空音の命令なら何でも聞くらしい。目に見えない術で碧音の気を失わせた。それきり黙って空音の斜め後ろに大人しく片膝をつく。


「碧音!!」

「安心せい。今すぐ命を失うわけじゃない。このロープはわらわの命を削って作られた武具。1分で半年分の命を削る効果がある」

「そんなっ……!」


 全身の血が逆流するようだった。このまま放っておいたら、二人とも死んでしまう!


「俺が代わりにそのロープに巻かれるから、メイさんと碧音のことは自由にしてくれ!お願いだ!」


 心から叫んでも、空音はうなずいてくれなかった。


「おぬしは貴重な言魂使い(オラルメンテ)じゃ。こんなことで死なせるわけにはいかぬ」

「メイさんと碧音は大事な人なんだ!空音も、それはよく知ってるだろ!?ずっと、俺のこと心配してくれてたじゃないか!」

「記憶を失っておった頃の話じゃ。今は違う」

「そんな……」

「ようやく記憶を取り戻せたのじゃ。ここで帰るわけにはいかんのじゃよ」


 こうなっても、まだ信じられない。空音が宰君と組んでこんなことをするなんて……。


「どうしてだ……?空音……」

「悲しいか?」

「悲しいに決まってるだろ!俺の知る空音は、そんな子じゃない!優しくてちょっと食いしん坊な、可愛い女の子だった!」

「……皮肉なものじゃな。あんな風に出会うべきではなかったのに、わらわの求めた言魂使い(オラルメンテ)の力はおぬしとわらわに妙な縁を作った」

「どういうこと?」


 空音はこちらに背を向ける。


「知る必要はない。おぬしは黙ってわらわの言うことを聞き入れればよいのじゃ」

「空音の願い……?」


 俺は息をのんだ。


 空音は振り返り、感情の読めない声で、血の通わない顔つきで、告げた。


「この世の人間を、一人残らず消滅させてくれ。おぬしにはそれができる」


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