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二話

 骸骨の剣士がゆっくりと近づいて長剣を俺に振り降ろす。


「ちょっ!」


 焦りながらも冷静に。

とは、変な言い方だが俺はその攻撃を後ろに下がって避ける。

 地面に剣がぶつかって嫌な剣音と火花が撒き上がる。

 剣士は攻撃に失敗しても、そんな失敗すら気にもしないで得物を持ち上げて構えなおした。

 いきなりの出会いがしら戦闘なんて本当に洒落にもならない。


 しっかしそっちは長剣で俺は無手なんですけど、ずるくないですかね!

せめて木剣とかナイフとか、何でも良いから武器寄越せって言いたい。

心を大にして言いたい。


 いやいやいやいや、待て、考えろ。考えてみたぞ!

良く考えたらクソうるさい本を俺は持ってたわ。

この本投げたら威力あるかね?

 ほら、ある種の呪われた本より強そうだろ? な?


「という事で投げていいか?」


俺は本のページを捲って問う。


『私を投げるのか。それは良い度胸だ。実に良いぞ。もし私がそれで切り刻まれたら暁にはこの部屋ごと貴様も灰にしてやるからな?』


 な ん だ そ れ は !

 それ怖い。超怖い。自爆する本って斬新すぎるだろ。


「カクカクカクカク!」


 俺達の事なんてお構いもせずに、骸骨がしゃれこうべを揺らして、骨と骨がぶつかる不協和音を奏でながら近づいてくる。

 長剣をゆっくりと上段に構えて振り下ろすだけではあるが、今度は素早く足を踏み込んできた。

 良く見れば、剣の刃がボロボロなので、切られる事はないかもしれない。

しかし大きな長剣だ。こんなのにぶち当たれば骨折じゃすまないだろう。


 相手の剣筋を良く見て……回避っ!

 避ける瞬間、剣先が目の前を通過した。

 今度は危うく鼻先と剣先がぶつかるところだった。

危なすぎるだろ!


 全力で部屋の隅から隅へと飛び、転びそうになりながらも円を描くように走り、骸骨剣士の後方へまわる。

 骸骨はゆっくりと俺に顔を向けようとするが、急ぎすぎたためか、足元が絡まって倒れた。

あんまり速くは動けないのか?

それとも単純に知能が低いのか……。


 これはチャンスとばかりに俺は部屋を出ようとした……。

――が、よくよく考えてみればここは迷宮だ。コイツを放って置いたとしても。そこらかしこに魔物や罠が待っているのであれば、無手で逃げ出すのは得策ではない。


 出来ればこいつの持っている長剣位は手に入れておきたい。

だが、この骸骨剣士……俺に倒せるのか?

 上手く頭でもふっ飛ばせばどうにかなる……のかなぁ……。

 とにもかくも攻略のヒントは欲しいので、俺はブックを読む。


『ただの骸骨剣士の様だ。知能はそこまで高くない。

それならば私に良い考えがある。

次のページを捲ったと同時に開いたページを骸骨に向けろ』


 おお! いまだかつて無いほどしっかりしたヒントじゃないか!

やれば出来るブック先生! 俺はそんなブック先生に憧れるね!


 でもな、スレイヴ知ってるわ。

 こういう時の『私に良い考え~』ってのには大体碌な事にならないって事を……。

 それでもブックは迷宮に与えられた知識を少なからず俺よりかは持っているはずだし……。やってみる価値はあるはず……だ。

 俺はすかさずページを捲って本の中身を骸骨に向けた。

これで何も起きなかったらただの間抜けだな本当に。


 その瞬間。

凄まじい風が本の中から飛び出して、それが骸骨にぶち当たった。

 あまりの勢いにブックと一緒に俺も後方に吹き飛ばされた。


「ぐぅッ!」


 壁にぶつかって低いうめき声が響く。

吹き飛ばされるなら一言言って欲しい!

 踏みとどまれなかったせいもあるが、大きく尻餅をついて尻がいたい。

 そして、何が起きたのかと頭を振って確認した。


 眼前に居る骸骨を見ると緑色に光っていた。

 何が起きたのかさっぱりわからんが、ブックが何かをしたのだろう。


 徐々に緑色の光が骸骨の中に消えていく。

すると、先ほどまで暴れていた骸骨剣士が嘘のように静かになった。

また、先ほどまで黒く濁っていた目の無い部分に赤い光が眼の様に浮き上がる。

 長剣を脇にしまうと骸骨剣士がペコリ軽くお辞儀をした。

 それを見た俺も、反射的に「あ、ああ」と会釈してしまった。


「な、何をしたんだ?」


 ブックに尋ねた。


『単純な魔物、死霊、不死、位なら私の支配下に置くのは容易い事だ。

尤も支配するというより、協力してもらう形に近いがな』


 ブック先生、本当にすごい本だったのか。

 スレイヴちょっとだけ見直したよ。


「そりゃすごいな……」

『貴様がもっとしっかりしていれば、こんな事をしなくても済むのだがな?

だいたい無手で骸骨剣士くらい吹き飛ばせるだろう?

貴様も同じ魔物に近い存在なんだぞ?

不甲斐無い奴め……本当に使えん』


 前言撤回。やっぱり燃やして灰はどこかに埋めるべきだな。

 あと無手とか無理だから。絶対無理だから。


『ほほう……それは良い考えだ。

では私はこの骸骨剣士殿にお前を切り捨ててもらう事にしよう』


 そう読み上げると、骸骨剣士が急に抜剣する。


「悪かったよ! 俺が悪かった!」


 俺がブックに向かって謝ると、骸骨剣士も剣を納めた。


『分かれば宜しい。この調子でどんどん協力者を増やすぞ』


 マジか……。どんどん増やすのか。

 軍隊の様に突き進む骸骨剣士の群れを想像して微妙に怖気が走る。


『貴様が強ければこんな事をしなくても良いがな?

安全策は多いに越したことは無いだろう。

といっても、今の私の力では低級の魔物くらいしか支配下には置けないぞ』


「それはまあそうだな……。

面目次第も無い」


 実際戦えといわれても勝てる気がしないしな……。

俺この迷宮で最弱なんじゃないかと。


『だがな……。この剣士も、お前も、私もそうだが、迷宮では生き抜いた者こそが勝者だ。ここは我々にとっての弱肉強食の世界でもある。迷宮では倒した者の力を取り込み強くなる事が可能だ。お前にしても、今が弱かろうが、ここに居る限り嫌でも強くなるだろう』


 それは良いことなのか……。悪い事なのか……。


「というか、俺にどうしろっていうんだお前は?」

『貴様だけ自由に動けて、私は本だぞ?

せめて私が自由に動けるまで力を寄越せ。

私は迷宮での自由と探求を求めよう』


 なんじゃそりゃ……。

まあ……確かに本ってのは辛いよな……。

さっきまでいた密室と変わりないもんな……。


 俺が哀れみの視線をブックに送ってると骸骨剣士がまた剣を抜いた。


『貴様! 自分の立場というものを理解してない様だな!』

「悪かった! 俺が悪かった!

悪かったから剣をしまうように頼んでくれ!」


 本当……。前途多難すぎるぞこのメンバー。

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