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一話

 あれから数日間、お腹が減るような状況も起きず、食事も一切無しで『本』と俺の面白くも無い会話のキャッチボールが続いた。


 奴と話し合うことは……。いやこの場合は話すと読むであってるのか……。

 いや、意思の疎通をしあうでいいのか?

 混乱するな……。


 なんとも難しいところだが、とりあえず分かった事と決めたことがある。


 第一に、俺達が迷宮によって作られた魔物、もしくは、別の何かであること。

 『本』に聞いても『迷宮が作り出した存在』としか回答がもらえないし、それ以上に突っ込んで聞いても『私にはそれしか分からぬな』としか答えてもらえなかった。使えんやつだ。


 第二に、俺達は現状ここから出ることが出来ない。

 薄暗く怪しい模様が描かれた四角い部屋の中に俺達は現在居るのだが、全く出口が見当たらない。閉じ込められたも同然だった。

 『本』に尋ねてもみたが『私にも分からないことはある。それは貴様とて同じではないか?』と答えられた。本当に使えんやつだ。破くぞ。


 第三に、俺達の名前だ。

 『本』のやつに『貴様は貴様で十分だろう?』とか言われたので。

「じゃあお前もお前で良いな?」と挑発してみると意外にも。

『……それは何とも微妙だな』と回答された。

 ということで、一人と一冊で呼び名を決めることにしたわけだ。

 しかし良い名前が浮かぶわけも無く、結果的に……。


「俺がお前の名前を決めて、お前が俺の名前を決めるでどうだ?」

『良いだろう……受けてたとう』


という安直な話に至ったわけだ。

 反論があるかと思ったが、案外素直で俺の口元も歪む。

 クックックッ……良いといったな?

 それがお前が生きた中で一番の屈辱よ……。


「では、俺から……。命名!

お前の名前は『ブック』だ!」


 本は本で十分だ。

 ページをめくり、奴の声を読む。


『貴様の考えくらいお見通しだ。

貴様なんてのは「スレイヴ」で十分だ』


「スレイヴ? 結構良い名前だな?」


 言葉の流れ的にだけどな。


『……言い方をかえてやろう。

私は優しいからな?

『奴隷』という意味だ』


 やっぱり破り捨ててやろうかコイツ。



 と云う感じで、俺達の名前は決まったわけだ。

 本と奴隷……。まあ、密室ではお似合いかもしれんな。




「それで俺達はいつ出られるんだブック?」

『さあ?

それは迷宮の気分次第だろう』


 いつものようにつまらない会話をさらにつまらなくする話題に戻る。


「一生出られないとか?」

『そういう事もあるだろうな?』


 やだよ。一生とか嫌過ぎるわ!


「一生出れない奴隷と本は何のために存在するんだ?」

『そこに本と奴隷が必要だったからじゃないか?』

「言い得て妙な話だ」

『そうだ。言い得て妙な話だ』


 俺は机にうつぶせになりながら、空ろな目で本を読む。

 ああいえばこういうって、こういう事だよな……。

 こいつと会話してると本当に疲れる。


「迷宮ってのは何なんだ?」


 これも前に質問した事があるが、それでもブックは真面目に回答してくれた。


『迷宮とは我々を作った存在にして、我々の神に等しい存在。そして冒険者を地下深くまで誘い、時には莫大な財宝を授け、時には罠に嵌めて冒険者を食い殺す悪魔でもある』


 続くようにブックは答える。


『神でもあり、悪魔でもある。そんな存在だ。

出来る事ならば関わらないほうが身の為だぞ?』

「いやもう……生まれた側からすると、どうしようもないけどな」


 何より脱出が出来ない。どうにかしないとな。




『……たまには私から質問をしても良いか?』


 お、いつもとは違う新しい切り口か?

 不意打ちに近い形のブックからの質問に俺は驚いた。


「構わないぞ? 何だ? 何を質問する?」


 俺は思わず体を起こして興味心身でページをめくった。


『貴様はもう少しこの部屋を調べて、この密室から脱出すべき方法を探すべきだろう?』


 ああ……。うん、そうだな。

 そうだけど、もうちょっとこう……言い方ってものがないかね? ブックさんよ。




 部屋の隅々を叩いてみたり、模様をなぞってみたりと本を片手に持ちながら俺は調べるだけ調べる。

 勿論こんなことは数日前にもやっているが念には念をだ。


『迷宮が我々を生み出しただけとは到底思えない。

何かしらの役割があり、出口もまたあるはずだ』

「まあ、そうだな」

『私はここを『隠し部屋』の一つだと認識している。

私の知識がそう答えるのだから、そうなのだろう』


 俺は足元に何かくぼみでもないか探し続ける。


「それ本当にあってるのか?」

『そうであって欲しいところだ』


 ブックさんよ、アンタがそれじゃ俺も困るぜ。


『もし、隠し部屋だとして、こちら側から出られないのであれば、我々の居る内側でなく、外側に何らかのスイッチやレバーがあるのかもしれないな』

「となると、俺達は外側から誰かに来てもらわないと一生ここに居る事になるな」

『その場合は詰んでいるという事か』


 それこそ一番洒落にならないだろう。

 何も出来ずに終わる一生なんてのはこりごりだ。

 こりごり? なんだこの切ない感情は……。

ああ、わかったぞ。

もしかしたら冒険者だった俺の体の一部がそう囁いてるのかもしれないな。

 きっとこりごりな人生だった奴も俺の体の一部にいるのだろう。

 そんな事を考えながら地面を調べているときだった。


「うん? なんだなんだ?」


 不意にゴゴゴと目の前の壁が上にせりあがる。


「おお! もしかして、何か隠されたボタンでも押して出口が見つかったのか?」


 俺はあまりの出来事に嬉しすぎて立ち上がって喜んだ……が。

 目の前の壁が上に上がりきると、そこには冒険者の亡骸……というか、骸骨がこちらを見て立っていた。

 右手には大きな長剣が握られて、左手には魔物か何かの植物が掴まれている。

 俺は冷静を保ちながら、一歩下がりつつ……。ブックを読んだ。


『洒落にならないな……』


 それは、この立派なしゃれこうべを持った骸骨さんの事か?

 それとも俺達が窮地に陥っている事のどちらだ?

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