十五話 ―そしてそしての地下四階?―
地下三階をあらかた探索してみたが、他にめぼしいものはなかった。
まあ、鎧一式が手に入っただけでも良しとしておこう。
水で溢れている水没した方の階段はとりあえず放置して、俺たちは別の下り階段を降りる事にした。そこしか進む道が無いわけだから、選択肢もくそも無いわけだが……。
「降りる前にブック!」
『なんだ?』
「俺達の魔力を教えてくれ。アレだけ戦ったんだ。それなりには上がっているよな?」
『今更だな? 調べるのは構わないが……』
そう……鎧やら罠やらで、魔力の確認をすっかり忘れていた。
俺の経験値ともいえる魔力がブックに吸われているとしても、総力戦には違いなかったしな。少しでも上がっていると嬉しいが……どうだ?
俺はブックをゆっくりめくった。
ご丁寧にゆっくりと文字が浮かび上がる。
『今現在の貴様達の魔力は以下のとおりだ。
スレイヴ……十。
ボーン……二十。
ロゥーパA……二十。
ロゥーパB……二十。
ロゥーパC……百一』
そして閉じた。
目頭を押さえて目をパチパチと見開く。
おかしいな、今とんでもない数値が過ぎった気がする。
もう一度開いて俺はしっかり目視で確認した。
やっぱりおかしい……。
なんだこの……百一って。
「おい、ブック!」
『なんだ?』
「俺はあんまり戦闘に参加していなかった。だからそれでも魔力が二桁に突入した事はとても喜ばしい事ではあるが……。このロゥーパCの数値は何だ?」
ロゥーパCの途方も無い数値を指でなぞって俺が疑問をぶつける。
『見ての通りだが?』
「いや……百一って、三桁に突入したのか?」
『だから見ての通りだと伝えている』
「それはロゥーパとして適正数値なのか?」
『……さあ? 私もそんな規格外のロゥーパなぞ初耳だ』
やっぱり規格外なのか、つか、例えにしても本に耳は無いだろ耳はよ。
『しかし、あくまでも魔力の数値だ。それの使い方を覚えない限り壁くらいにしかならない』
「いや……見ての通りといえばいいのか……。その本人達はさっきから変な動きばかりしてるけどな」
そういって俺が目を向けると、ロゥーパ達は凄まじい速さで動き回っている。
壁に張り付いたり、跳ね回ったり、天上にくっ付いてぐるぐる回りだしたり。
本当に器用な奴らだな……。
多分暇を持て余しているだけなのだろうが……奇怪だ。
これはきっと無駄の無い無駄な時間を潰す無駄な動きなんだろうな……。
『……なるほど、増えた魔力で身体能力を底上げしているのか。それは盲点だったな』
「いやいや……どうすんだよこいつら……。特にロゥーパC! ちょっとぶつかっただけで俺の体が粉々とか困るぞ?」
『安心しろ。お前にはティアーマトの加護がある。体がバラバラに引き裂かれたとしても……きっと大丈夫だろう』
「まて! その『きっと』とか『だろう』とかで恐ろしい事を言うのはやめてくれ!」
なんでバラバラにされるのが決定事項なんだよ!
『……ではそうだな、書きなおそう』
そういって、本の文字が一部分消えると同時に部分的に浮き上がってくる。
『ロゥーパCに本気で攻撃された場合、スレイヴは確実に死ぬ!』
ブックがご丁寧に赤字で記す。それも血文字に近い文体だ。
新手の嫌がらせか。
「そりゃ、ティアーマトとの戦いを見てれば誰だって分かるわ!」
思わず俺がつっこむ。
あんなもの見せられて戦いたいって気持ちにもならないわ!
「本気とかじゃなくて、軽くの場合はどうなんだって俺は聞きたいんだよ!」
『軽症では済まないだろう……』
「いや、重症の間違いではないのか?」
『そうかもしれないが……実際に試してみない事にはわからんな』
「ふざけるな! 絶対に俺はそんな事しないぞ」
勿論出来る限りだけどな。いつロゥーパ達が機嫌を損ねて俺に八つ当たりをしてくるか分からないし。
『大丈夫だ……貴様には加護がある。是非全力で殴られて結果を報告してくれ。出来る限り鮮明に、それでいて生まれたての子鹿の様な悲鳴つきでな』
「めちゃくちゃ痛そうだな!
どこのドMがそんな事するんだよ!」
『貴様だ』
「燃やすぞこのクソ本!」
『やってみるが良い! 貴様も燃やしてくれるわ!』
本を片手に幼稚なやりとりをしていると、ボーンがため息をつくような仕草で階段を降りはじめた。
ロゥーパ達もボーンに続くようにゆっくりと降りていく。
まるで付き合いきれんと言わんばかりだ。
『貴様がアホな無駄話をするからボーンが呆れてしまったではないか!
しかも私への忠誠心までが下がっただろうが』
「えぇ! 俺のせいなの! それ俺のせいなの!」
『そうだ! 貴様が悪い!』
「えぇぇ……」
俺はブックに八つ当たりをされながらもしぶしぶ階段を降りていった。
階段を降り切り、地下四階? らしき場所に到着はしてみたものの。三階と特に変わりはなさそうだ。少し面白みにかける気がする。
面白みといえば、もう一つの階段は何が原因で水没していたのだろう……。
あっちは降ってもずっと水の中なのだろうか?
もしかしたら一部分だけが水没している可能性もあるんじゃないか?
……まあ、気にしても仕方がないか。
「地下三階と変わりはなさそうだな?」
『今のところはそうだな』
「そろそろ何かしら、この迷宮から脱出できるヒントが欲しいところだな」
『たかが、地下四階だ。そんなおめでたい事が見つかるわけが無いだろう……と、言いたいところだが』
「おお?」
何やらもったいぶる文面にページをめくる俺の手も早まる。
『迷宮には昇降機という物もある。これは五階毎に設置されてあり、地上まで一気に引き上げてくれる代物だ』
「なんじゃそりゃ! 凄い便利じゃないか!」
衝撃の事実だった。今が仮に地下四階なら、地下五階に行けばそれが有るかもしれないって事だよな?
『ただし、それが無い迷宮も存在している。この迷宮がどれに類するかは私にも全く見当がつかないからな』
「なんだ……期待させるなよ」
まあ、有るかもしれないでも十分希望はあるか。
しかし地上か。このメンバーで地上何かに出たら騒ぎになるよな?
俺はボーンとロゥーパ達を見てそう思った。
探索を開始してみたものの、特に魔物が出てくるという事もなく、罠があるわけでもなく、ただ迷宮が広がっていただけだった。
いやいや、何かあるだろ? だって地下三階であんな目にあったのに地下四階は何も無いとか異常だろ!
「何もいないぞ!」
『そうだな……無駄に戦闘がなくて詰まらんな』
「いや、戦闘は困るけどさ」
半ば飽き飽きしている俺達を尻目に、ボーンがブックに触って文字で意思を伝えてきた。
『暇ダ……』
「いや、そうだけどさ……」
どうやらボーンもこの階層に飽きているようだ。
ロゥーパ達も何事も無くて飽きているのか触手を地面におろしてズリズリと引き摺りはじめている。何してんだこいつら……。
『どうやら、今にも死にそうな自分達を表現しているらしいぞ。つまり襲ってくれという身を挺した行動だな』
「意味が分からん」
いや、確かに今にも倒れそうな感じにも見えなくは無いけどさ。
そんなに戦闘したいんかね……。
『戦闘こそ迷宮における美学の一つだ!』
ブックが俺の心を読んで無駄に大きな字で答える。
「そうか、それは良かったな。
じゃあ俺は安全こそ迷宮における美学の一つだと主張しておくぞ」
『ふざけるな! 私は認めんぞ!』
「じゃあ俺も戦闘の美学を否定しておく」
俺はめんどくさそうな顔で本を閉じた。
広くも細くも無い中途半端な道を進んでは、右に曲がったり左に曲がったり、十字路があればとりあえず右から進み、袋小路になっていれば戻り、地下四階の地図をブックが無駄に作っていく。
それでも敵は出てこなかった。
まあ、今の所終着地が見つかってないのだからまだマシなのだが、これが全部の道を通って何も無かったとかだと困る。
流石に地下三階に戻って水の中にドボンは嫌だ。
蝋燭の火を頼りに、それでも俺達は慎重に進んだ。
いや、俺だけが慎重になってるだけかもしれないな。
ボーンもロゥーパ達も「罠なんて無い! 有れば罠にかかっても良い!」と言いたげだった。
罠は怖いからそういう度胸はやめておこうな。
仕方が無いので俺だけでも慎重になってはいた。
敵も出ず、罠も出ず、特にこれといってイベントも起きず。
精神的に疲れ果ててきた時だ。
延々と道を彷徨っていると、それは確かにあった。
古びて今にも崩れ落ちそうなワイヤーが大きな箱に絡まっている。
箱の中には人が九人くらい入りそうな作りだが、外装は錆だらけでボロボロだった。
俺はそれをブックに見せて問う。
「これが噂の……昇降機か?」
『……そうだな』
「じゃあ聞くが……これで、上にいけるのか?」
どうみても今にも壊れそうなんだが……。
『……行けるはずだな』
ブックが記す文字も何処となく文字サイズが小さい気がした。
おい、大丈夫か本当によ……。
「随分ボロボロなんだが大丈夫か?」
『……使われずに置かれて推定だが、千年は経過していそうだ』
「御託は良い。これは使えるのか?」
ほんと、そこだけが唯一気になるところだった。
『大丈夫だろう。問題は無いはずだ』
その一言だけ何処となくブックの文字は頼りなさそうだった。
だからー! だろう発言はやめてくれよ!




